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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第3章 ドラゴンロード
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第092話 リンダさんと白紙の黒猫

第3章 ドラゴンロード開始(前回から)!

『お帰りなさいませお嬢様方』

「ただいま戻りましたわ」

「ただいまセバス!」


 狩猟者ハンター調査局よりリンダの家に返ってきた渚たちを出迎えたのは、家を管理しているバトロイドのセバスであった。ミランダはビークル内で待機し、ルークも今は自分の宿に戻っている。そして緑竜土探索の具体的な打ち合わせについては明日行うことになっていた。

 それからセバスに荷物を預けた渚とリンダはリビングへと向かい、ようやく腰を下ろした。


「あー、ようやく戻ってこれましたわね。シティを出てからそんなに経ってないはずなのに、妙に疲れました。それに今回は大変な騒動でしたわね。て、あらナギサ?」


 リンダが渚のいた方へと視線を向けると、いつの間にか渚の姿がなかった。


『おー。これ、やっぱりすごいな』

「え、いるんですのナギサ?」


 微妙に声が聞こえた気がするがリンダにはその声がどこから出ているのかが分からない。そして周囲を見回すと手だけがスッと空中から出てくるのが見えた。


「いやリンダ。あたし、動いてねえよ。ここだってば」

「ああ、なんですの。光学迷彩マントですか。驚かせないでくださいまし」

「悪い悪い」


 そう返しながら渚が光学迷彩マントのスイッチをオフにすると周囲と同化していたマントがただのベージュの色に替わった。マントはひとまず渚が所持してチーム内で共有することになっているのだが、試しに今発動させたようである。


「まさかこんな目の前で使っても気付かなくなるもんなんだな。ちょっと、ビックリしたわ」

『光学的に見えないようにしているだけじゃなくて、ジャマーフィールドを発動させてるんだ。発生させる音を相殺し、生理的に感じ取れる気配をすべて埋めるような感じの特殊な音波も発してるんだよ。だから感覚が鋭い相手なら位置までは気付かれなくとも場所自体に違和感を抱くことはあるらしいね』


 そのミケの説明に渚が「よく分からん」と返した。


「で、そんなもんを持ってて、いきなり襲いかかったあいつは結局なんだったんだろうな」

『正直に言って、僕にもよく分からないよ。他のパトリオット教団の人間もいなかったみたいだし、そもそもクキシティにいたはずの彼がなぜあの場所にいたのかも不明だ。ルークから聞いた感じだと、パトリオット教団自体は埼玉圏内で特に力がある組織ではないようだけどね。まあ、気を付けておくに越したことはないけどね』

「分かってるさ。ともかくさ。教団についてはルークが調べてくれるって言ってるし、今日はさっさと寝て休もうぜ」

「そうですわね。明日からまた忙しくなりそうですし」


 渚の言葉にリンダも頷くと、それからふたりはセバスが用意した夕食を食べて、お風呂に入ってからベッドに入り込んだのである。そして……




  **********




「猫……ですの?」


 リンダが最初に呟いた言葉がソレだった。

 意識がはっきりとしていくに従って、目覚めたリンダは自分の眼の前に一匹の黒猫がいることに気付いたのだ。


「ミケさん……ではないですわよね?」


 リンダがそう口にする。けれども黒猫は反応せず、前足をぺろりと舐めながら落ち着いた様子でリンダを観察するように眺めていた。


「あのぉ。なんなんでしょうか? 猫だなんてミケさんかVRシアターでしか見たことないんですけど、これは一体どういうことですの?」


 そう言いながらもリンダが周囲を見回す。

 気になったのは、自分が今いる場所だ。窓もドアもなく、光源もないのに暗くもない。そこは白で統一された質素なただ四角いだけの部屋で、その中心にリンダと黒猫がいる。何故自分がそんな場所で寝ていたのか、その理由が今のリンダには分からない。それから今までじっと見ていた黒猫が口を開く。


『ようやく繋がったみたいだね。ふぅ、ここまで苦労したよ』

「あら、その声。やっぱりミケさんですわね」


 黒猫から発せられた声を聞いて安堵したリンダに、黒猫が首を傾げてから『ああ、声ね』と口にした。


『僕の声が君たちといるサポートAIと同じというのは……そうだね。彼と同じではややこしい。であれば変えておくべきか』


 そう黒猫が言うと空中にウィンドウが表示され、そこに書かれていたmaleという文字の横の矢印が下にあるfemaleへと移った。すると黒猫の表情がどこか女性的に変わったようにリンダには感じられた。


『さて、これでどうでしょうか? キャラクターが被るのはあまり好ましくないものですし、あなたがよろしいというのであればこちらで固定いたしますが』

「あら、女性の声と口調に変わりましたわね。ええと、つまりあなたはミケさんとは違うということですの?」


 リンダの問いに黒猫が頷いた。


『その通りです。私はあのAIとは別のものです。恐らくですがあのAI、ミケと言いましたか。私と同じタイプではあるんでしょうけど役割は別でしょう。あ、私の名前はクロでお願いしますね。確かそう呼ばれていたはずなので』

「クロ? ええと、それであなた一体何なんですの? それとここもどこなんですの?」


 その言葉にクロは前足をぺろりと舐めてからリンダを見た。


『ここはホームと呼ばれているところですね。で、私が誰か……ですけれども実は……』

「実は?」


 前に乗り出したリンダにクロが申し訳なさそうな顔で口を開いた。


「ソレを聞きたくて、こうしてきたんですけど。何か知りません?』

「いや、知らないですわよ」


 こうしてリンダは記憶のない黒猫と遭遇を果たしたのである。


【解説】

ホーム:

 VRシアターと同種の仮想現実空間。演算処理能力が高ければ、実時間よりも高速で思考することも可能である。なおホーム自体は個人用だが、同期することで第三者を招くこともできる。

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