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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第2章 ルーキーズライフ
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第087話 渚さんとアメリカの陰謀

『それで、パトリオット教団がお前を造ったってのは分かった。けど、殺そうとする理由が分からないんだが?』


 続けて出てきたルークの疑問はもっともなものであった。

 いきなり対装甲弾頭を撃ってきたし、スパイダーやガードポリスもあの教団の男が仕掛けたものだろうことは想像に難くない。けれども、せっかく造った渚を殺そうとする理由については不明であった。


『あたしにも分かんないけどさ。なんか失敗したんじゃねえの、あたし?』

『僕の認識する限り、渚のエラーは記憶ぐらいで想定していたスペックには達しているはずだけどね。とはいえ、先ほどルークが言っていた通りに責任問題を回避するための証拠隠滅なんて可能性もあるかもしれないよ』

『ああ、そうだな』


 ルークが神妙な顔をして頷く。その様子に渚が口を挟んだ。


『つかさ。結局あのパトリオット教団ってのは何なんだよ?』


 埼玉圏の外に住んでいて、野菜を売りにやってくる……程度のことしか渚には分かっていないのだ。そして、その疑問に口を開いたのはリンダだった。


『彼らの目的は古き良き時代のアメリカの復活……でしたわよね、ルーク?』

『ああ、そうだ』


 その言葉にルークが頷き、渚が首を傾げる。


『アメリカって……日本から海を渡った先にあるアメリカのことか?』

『そうだ。パトリオット教団っていうのはな。簡単に言えば、アメリカという古代の国を移民した地で復興させようっていう組織なんだ。それに俺らのご先祖様の大体も教団の前身の組織の一員だわな』

『え、マジで?』

『ああ、俺らのご先祖様たちはそもそもこの国の現地民では無かったんだ。この地には元々、お前みたいなヤマト族が治めていたらしい』

『ヤマト族? 確か村長もそんなことを言っていたな』


 アゲオ村の村長であるバルザも同じ言葉を口にしていたのを渚は思い出した。


『かつて終末戦争で駄目になった北米大陸から移民してきたのが俺らの先祖だ。まあ、数百年て単位の昔の話だけどな。そのときの移民したヤツらってのはアメリカの復興を掲げていた愛国者連合っていうパトリオット教団の前身の組織のメンバーだったわけだ。で、現実としてここに俺らは根付いている。言ってみれば、今じゃこの埼玉圏は復活したアメリカのひとつとも言えるのさ』

『え、日本じゃないのかよ?』

『建前上は日本ですわね。埼玉圏を治めているコシガヤシーキャピタルの支配者はヤマト族の方々ですし』

『そう……なんだ?』


 首を傾げる渚にルークが苦笑する。


『あいつらは純血のヤマト族ではないけどな。日本の支配者は日本人だろうってんで、デザインし直した人工のヤマト族だ。まあ、古くからのヤマト族の人間も普通にいるけどな。お前だって見かけてるだろ?』


 その言葉に渚が頷く。

 クキシティでもアゲオ村でも確かに日本人らしい人物の姿はあった。


『だからな。愛国者連合の目的はすでに達成されているとも言える。実際一度組織は解体されているんだ。だが教団の連中はもっとアメリカらしさを求めている……らしい』

『らしい?』

『俺だってあいつらのことはよくは知らないんだ。遺失技術ロストテックを使って埼玉圏の外で生きていて、時折野菜を売ってアイテールを稼いで帰っていく……ぐらいだ。分かっているのは』


 そう言ってからルークが『ところで』と口にした。


『俺も気になることがあるんだが、ナギサはグリーンドラゴンと実際に接触したんだな』

『ああ。あの馬鹿でかい緑色した蛇みたいなヤツだろ。爆発に巻き込まれてたけど、死んではいないと思うぜ』

『そうだ。爆発。爆発なんだ』

『何が?』

『死んではいなくてもダメージを負ったのであれば、緑竜土が手に入るかもしれない』


 その言葉には渚のみならずリンダも首を傾げた。どうやら一般的な言葉ではないらしい。それを察したルークが説明を続ける。


『グリーンドラゴンの外皮だ。アレが移動している跡に見つかることがあってな。それがあれば野菜が作れるんだ』

『野菜? 浄化物質……君たちでいうところの瘴気の影響を受けて植物のほとんどは育っていないと聞いているけど』


 ルークの説明にミケが口を挟んだ。

 アサクサノリなどの一部の耐性を持った動植物以外はこの埼玉圏では生きられないと渚とミケは聞いていたし、だからこそ外からパトリオット教団が持ってくる野菜は貴重なもののはずだった。

 

『そうだ。野菜などを含む植物全般はこの瘴気の中では育たないし、埼玉圏の外で育ったものは黒雨に汚染されて食べることができない。けれども、緑竜土には瘴気と黒雨の影響を無害化する効果がある。それがあれば俺たちが食べることが可能な野菜が育てられるんだ』

『マジかよ?』

『マジだ。だからコシガヤシーキャピタルが血眼になって探している。グリーンドラゴンが出たポイントを調べ上げ、落ちている緑竜土をかき集めて菜園を造っているらしい。もちろん、俺ら庶民には流通しちゃいないが』

『そいつら、野菜を食ってんのか!?』


 それは、粥とエーヨーチャージとトカゲの肉しか口にしない生活を送っている渚には夢のような話であった。


『じゃあ、あたしらでそれを拾って植物を育てれば』

『種があればだが……野菜を自分で作って食べることも可能だろう。それに緑竜土で育った植物の成長促進速度は飛躍的に向上するって話だ』

『マジかよ!?』


 再度驚く渚にルークは頷き、それから問いかける。


『で、爆発を受けたっていうなら、緑竜土がかなり落ちている可能性があると思うんだが』

『おい。ミケ?』


 ルークの言葉に渚がミケを見る。渚はかなり慌てて機械獣の集団『百鬼夜行』から逃げたので、あの軍事基地がどこにあるのかまでは今は分からない。けれども一緒にいたミケならば……という期待が渚の目には宿っていた。対してミケは乗り気ではない顔をして肩をすくめる。


『まあ、大体の場所の予測はつくけどね。ただね、僕は喋れない。地下に隠してあった基地の座標は軍事機密のひとつだ。僕はそれを制約によって話せない』


 その言葉に渚がガッカリした顔をするが、ルークはミケに視線を向けて尋ねた。


『だったらミケ。俺らがお前に頼らず見つけた場合はどうなる?』

『であれば僕は何も言わないよ。妨害をすることもない。それは僕の役目じゃないしね』


 その返答にルークが頷くと、それから渚とリンダを見た。


『じゃあそのことはナギサも乗り気みたいだが、今は置いておく。ひとまずは外に出ることを考えよう』


 その言葉に全員が頷くと、三人と一匹は再び動き出した。

 残るはこの区画の出口に待ち構えている最後のスパイダーとパトリオット教団の男のみ。渚の初めてのダンジョン探索もようやく終わりを遂げようとしていたのである。

【解説】

ヤマト族:

 かつて日本人と呼ばれていた人種。

 長い時を経て国家間の垣根が消え融和されていったことで生粋のヤマト族の総数は減り、幾度かの文明崩壊を経て一度は消滅している。

 なお作中でルークが口にしている古くからのヤマト族も、とある時期のデザイナーズチャイルドから派生した者たちであるため、人工的に作られた種であることには変わらない。

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