第069話 渚さんと村までドライブ
『それにしても野盗たちが天遺物の中身を整頓してくれていて助かったなぁ』
『つか、端から見ればあたしらはそれを襲って横取りしてるようにしか見えないかもな』
ルークの言葉に渚がそう返し、ルークが『そりゃあそうだな』と笑うとリンダが苦笑した。現在ルークはバイクで移動し、渚とリンダはビークルの上で警戒中。そしてミランダがビークルを運転している。
周囲にダンの指揮する狩猟者たちはおらず、渚たちは彼らとはすでに天遺物で別れてアゲオ村に向かっているところであった。
『二兎追って二兎を得たってことじゃないか。少し違う気もするがまあいい。野盗相手なら問題はないし、そもそもあちらから仕掛けてきたのは確かなんだろう?』
ルークの問いに渚が頷く。
確かに野盗たちは渚とダンを認識していたし、その上に彼らの狙いは渚だった。もっとも、野盗たちを指揮したのは逃げた百目のロデムであり、捕まった野盗たちはその理由までは聞かされていないようであった。
『あいつら。あたしが本命だって言ってたな。どういうことだ?』
渚の問いはもっともなものだ。渚にはパトリオット教団ならばともかく、オオタキ旅団に狙われる理由の見当が付かない。
『時間的に見てオオタキ旅団の上から指示があって動いたとは思えない。おそらく今回の件はロデムの独断だとは思うが……ヤツらが今後お前を積極的に狙う可能性は高いと思う』
『どういうことですの?』
ルークの言葉に強く反応したのは渚ではなくリンダであった。それにルークが少しだけバツの悪そうな顔をすると渚の右腕へと視線を向けた。
『ヤツらは渚が本命であるにも関わらず、殺そうとすることに躊躇がなかった。であれば命の有無は関係ないということ。おそらく狙いは渚の右腕だろう』
その言葉に渚が『これが?』とマシンアームを挙げて尋ねると、ルークが頷く。
『以前にも言ったろ。俺は左のものを見たことがあるって。そいつはある筋じゃ有名な遺失技術でな。ま、細かいことは後で話してやる。お前にとっても他人事じゃないだろうし、機会を見て伝えるつもりではあったしな。だから今は周囲を警戒していてくれ。村までは迂回ルートを通っているから待ち伏せもないだろうが……機械獣や野生獣が攻めてくる場合もあるし今は俺たちだけだ』
その言葉に渚とリンダが頷く。
ダンたちはすでに野盗たちを連行してクキシティに向かっており、渚たちとは別行動だ。
『ところでルーク。あたしら、ダンのおっちゃんたちと一緒に行かなくて良かったのか?』
『問題ない。シティまでのルートは比較的安全だし、さすがにあの人数相手に野盗が襲撃する可能性は低い。それよりも近くに野盗がいたんだ。アゲオ村の安全の確認も必要だ』
ルークがそう返す。渚たちの現在の目的は天遺物の探索から、アゲオ村が野盗に襲われていないかの確認に変わっていた。
『アゲオ村が襲われてる可能性があるってのか?』
『ないとは思うが、念のためだな。こんな近隣でヤツらに動かれてたんだ。用心しないと被害が拡大する』
『そうですわね。連中はハイエナのようにこちらの隙を狙ってきます。許せない連中ですわ』
ルークの言葉にリンダが息を荒くして同意した。
その様子にルークが苦笑しながらも、それから渚の持つライフル銃へと視線を向ける。
『ということだ。ところでナギサ、ライフル銃がスッキリしてるがグレネードランチャーを外したんだな』
その指摘の通り、渚の所持しているライフル銃の先に付いていたアドイン式グレネードランチャーが今は外されていた。
『まあな。わりと重いから取り回しが不便だったし、オスカーから回転式弾倉型のヤツをもらってるからな。ダンのおっちゃんみたいにバイクに乗せて運んで使い分けていこうと思ってるよ』
それは野盗たちとの戦いで捕縛弾の使用をもう少しスムーズにできていれば怪我もさせずに捕らえることもできただろうという、前回の反省から来ているものだった。
そして渚は現在、回転式弾倉型グレネードランチャーを腰に、ライフル銃を手に持っている。回転式弾倉型は六発装弾できるため、連続での射出が可能なものだ。さらにショットガンも所持しているとなると重量に問題が生じるが、オスカーやダンのようにバイクに積んで追尾モードにさせればそれも解決となる。
『なるほどな。まあ、機動力を重視するなら、それでいいんじゃないか』
『だろ。おっと、ルーク。前方右の岩場、スティールラットがいるぜ。逃げたけど追うか?』
渚の指差した先の岩にはもうスティールラットの姿はなかったが、慌てて移動したらしいわずかな土煙が上がっているのはルークにも見えた。
『放っておけ。警戒は必要だが、ビークルサイズのものが一緒にあるときは滅多に襲ってはこない。とはいえ、数が揃うと一気に攻めてくることもあるから仲間を呼ばれる前にさっさと進んだほうがいいけどな』
『けれども、村までもう間もないというのに……危ないですわね』
リンダが眉をひそめながら、そう口にする。
『そうだな。アレはアレで駆除しとかないと面倒だ』
ルークがそう言って苦い顔をしながら、渚を見た。
『ナギサ、小型機械獣は複数の巣を作りやすい。ダンが始末したスケイルドッグの巣もふたつあったと言っていたろ?』
『ああ、そうらしいな』
巣を掃討した帰りに襲われなければふたつめには気付かなかったとダンが言っていたのを思い出しながら渚が頷く。
『スケイルドッグほどのサイズならそれほど隣接することはあまりないがネズミとかトカゲなんかはそうじゃない。次々と巣を作って壊すのが困難になる。それでも駆逐し続けると機械獣も学習してその場を去りはするから、まあ地道に駆除してくしかないんだが……』
『確かアサクサノリが収穫できる場所でスティールラットが出たって言ってたよな。そうなるとルミナさんたちも大変だよな』
『まったくだ。アゲオ村に少し滞在するが、もしかすると駆除の依頼も受けるかもしれない。そのときはよろしく頼むぞ』
『了解だ。お、アゲオ村が見えてきたな』
渚がそう言って正面を見た。すでにビークルが向かう先、瘴気の霧の先に以前と同じように鋼鉄の壁で覆われたアゲオ村の姿が見えてきていた。
そして渚たちは野盗たちの妨害も特になく、アゲオ村へと到着したのであった。
【解説】
サラマンダー:
ルークがトカゲと口にした小型機械獣の正しい名称。あまり強くはないが火を吐くので近づくときには注意しよう。