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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第2章 ルーキーズライフ
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第065話 渚さんと盗賊の魔の手

『そういやダンのおっちゃんもバイク持ってんだな?』


 移動中、ダンを見ながら渚がそう口にする。現在搭乗こそしていないが、ダンのバイクは追尾モードによって彼の後を追うように無人で移動している。


『ああ、ある程度稼いでるなら所持してるやつは多いぞ。ビークルはそれ自体が高額だし、維持にも金がかかる上に置き場所が面倒だから所有者は少ないけどな』


 ダンがそう言って笑い返す。


「ま、前回は街と街を移動するだけだったから装備もみんな貧弱だったし、本当に酷かった。まったく、シャッフルってのは嫌なもんだ』


 ダンがしみじみとそう口にする。

 ただの近所のお散歩コースが猛獣が闊歩するジャングルコースに変わったようなものなのだから運がなかったとしか言いようがない。

 なお、渚のビークルの他に管理局所有のビークルも一台一緒に来ており、それは以前に渚たちが回収したものだった。


『ところでダン、スケイルドッグの巣はどうだった? 面倒があったとは聞いているが』


 それから横を歩いているルークがダンに尋ねた。

 渚たちがテクノゲーターの巣の探索依頼を受けている間、ダンたちもまたクキシティ周辺のスケイルドッグの巣の探索を行っていたのである。そしてルークの問いにダンが肩をすくめる。


『ああ、それがよ。巣がふたつありやがったんだよ』

『そりゃあ、また』


 ルークが驚き、ダンの周囲の狩猟者ハンターたちも苦笑いをしている。


『ひとつめを潰した帰りに襲われて気が付いたんだけどな。まったく肝が冷えたぜ』

『そりゃあ、見逃してたら大目玉だったな』


 ルークの言葉の通り、巣をひとつだけ潰して戻って「もう安全ですよ」などと口にしたのであれば、それは信用問題に関わる。巣の数がいくつあったかなど問題ではないのだ。目的はクキシティの安全であり、巣をひとつ潰したところで被害が出てしまっては狩猟者ハンターの仕事は終わったとはいえない。


『まあ、どちらも潰したからクキシティの周囲は現状問題ないはずだ。念のため、捜索隊も出してるしな。で、そっちはどうだったんだよ?』


 ダンがそう返すとルークが苦笑してオスカーの話をし始めた。

 それからルークとダンが互いの情報交換を行い始め、渚が周囲の警戒をしていると途中で『渚』、と前で丸くなっているミケが口を開いた。


(どうしたミケ?)


 渚にしか聞こえぬ声での問いかけに、渚も他の人間には聞かれたくないのだろうと察して心の声で問いかける。


『ちょっと厄介そうなもの見つけたんだ。今視界に表示するから、見て欲しい』


 その言葉とともに渚の視界にとある場所の映像が映し出される。それがこの周囲のどこかの映像であることは渚にもすぐに分かったが、渚はその場所を探すことなく映像を凝視する。


(どこだ、ここ?)

『右側の岩場だね。分かってると思うけど、視線は向けないでね』


 ミケの忠告に渚は頷く。そして、そんな渚の様子にリンダが首を傾げた。


『どうしたんですのナギサ?』

『いや……ちょっとミケが変なものを見つけた』


 その言葉にリンダが『まっ』という顔をし、渚は端末に映像を表示させてビークルの横を歩くダンとルークに声をかけたのである。




  **********




『人だと?』


 そして、渚から渡された端末に映し出された映像を見てダンがそう呟いた。

 渚が見た映像、端末に映し出されているのは岩場の陰から監視するように渚たちを見ている何者かであった。


『つい今姿が見えなくなったけど、こっちをなんかジロジロ見てるヤツがいたんだよ』


 渚の言葉に、端末を見ているダンとルークが難しい顔をする。

 その人物の背には銃らしきものが背負われており、纏っている防護服も狩猟者ハンターのものよりも随分とトゲトゲしい、妙に威圧的なものだった。


『今回は眼爺もいないし、ナギサがいてくれて助かったな』

『そういや、あの爺さんいないな』


 以前に共にアーマードベアの巣を潰した老人の姿は今回のこの隊にはいなかった。


『あの人もかなりの年だからな。アーマードベアにスケイルドッグとの戦闘の連続で腰を痛めて療養中だ』

『そりゃあ、無理はさせられないな』


 渚の言葉にダンが『だろう?』と返す。

 そんなふたりの横で食い入るようにルークが映像の人物を観察している。それから映像を拡大して『恐らく盗賊だな』と口にした。


『盗賊?』

『最悪のクソどもさ。猿みたいにキーキーわめく分、機械獣よりも厄介で陰湿だ』


 ダンが苦虫を噛み潰した顔をし、リンダを含めて他のメンバーも嫌悪感をあらわにした顔で頷く。それからルークがさらに映像を拡大し、肩に映る何かの記号を指差した。


『見ろよ。このマーク、オオタキ旅団だ』

『なっ』


 ルークの言葉に一番大きな反応を示したのはリンダだ。

 その様子にルークが厳しい顔で『リンダ』と声をかける。


『こういうときこそ動揺はするな。俺はそう教えたはずだな?』

『す、すみませんわ』


 ルークの注意にリンダがそう返して俯いた。

 そのやり取りに、渚が眉をひそめながらルークを見た。何か厄介ごとなのだろうとは察せられるが、それがどういった意味を持つのかは渚の知識では分からない。


『どういうことだ? オオタキ旅団ってなんだよ?』

『そうか。お前は知らなかったなナギサ。オオタキ旅団ってのはサイタマ圏最西端のオオタキ地獄村を根城にしてる盗賊団だ。圏内の盗賊連中を仕切ってる元締めみたいな組織だと思えばいい。で、盗賊ってのはこうして移動中の物資を奪ったり村を襲ったりする連中でな。俺ら狩猟者ハンターにとっても厄介な敵だ』

『敵……』


 ダンの説明に渚がそう呟いて頷く。


『しかしこのタイミングでか? 連中だってシャッフルでゴタゴタしてるはずだが』


 難しい顔をしたダンの言葉に、ルークが眉をひそめて口を開く。


『ゴタゴタしているから動き出したんだろうよ。情報が流されたかもしれないな』

『流されたってどういうことだよ?』


 首を傾げる渚に、ルークが苦い顔をして言葉を返す。


『この先にある未発見の天遺物の情報がリークされたのかもって話さ』

『リークって、なんで!?』

『情報も金になるからな。まあよくあることだ。で、どうするダン? 色々と面倒そうだぞ』


 その言葉にダンが少し考えてから、仲間たちを、それから最後に渚を見た。


『そうだな。ナギサ、お前はバイクも得意だったな』

『そこそこな』


 ここまでの経験を経て、バイクの操作に関しては渚もそれなりの自負ができていた。その言葉にダンが『よし』と口にして頷く。


『ならお前が前回のルートを先導してくれ。俺とお前とで偵察に出る』

『ダン隊長。ならわたくしもッ』


 そう言って前に出たリンダを、ダンは睨みつけて首を横に振る。


『リンダ、何度も同じことを言わせるな』


 その返しにリンダが少しだけ何かを言いたそうな顔をして、それから『はい』と返した。


(なんだ?)

『何かあるみたいだけど、今は偵察に集中しよう』


 ミケの言葉に渚も訝しみはしつつも指示通りにバイクに乗り、そしてダンと並走して元アーマードベアの巣である天遺物へと向かい始めたのである。

【解説】

追尾モード:

 設定した相手に従って移動するモード。

 カメラアイの設置されたビークルやバイクには標準で付いている機能であり、荷物持ち代わりなどに重宝する。

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