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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第2章 ルーキーズライフ
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第056話 渚さんとエルダークラス

『そいつはな。遠い昔の映画に出てくるような俳優みたいなヤツだからオスカーって言われてるのさ。昔あったらしいショーの名前なんだとよ。マリアちゃんなんて良い名前があるのにな』

『うるせえぞルーク、テメェがその名前を口にすんな。ぶっ殺すぞ』


 そう言いながらもオスカーはテクノゲーターを撃ち続けていく。


『ナギサ、気を付けろよ。そいつはバイだからな』

『バイ?』

『ええと、女の子も好きな人なんですわ。オスカーさんは』


 少し顔を赤くしたリンダの説明に渚がエッという顔をするが、オスカーはゲラゲラと笑って渚に『安心しろ』と返した。


『青すぎる果実は専門外だ。俺はロリコンじゃあないんでね。まあ、リンダならそろそろ歓迎するぜ。アリスとナージャもあのクソどもの腹の中だし、もう嫉妬もされないからなぁ』

『オスカー……』


 オスカーの様子にルークが心配そうな顔をする。

 また、バイザー越しに見えるオスカーの目がひどくギラギラしているのは渚にも分かった。軽口を叩いてはいるが、目の前の人物はすでに相当キレているようだった。


『へ、そんな顔するなよルーク。別に俺だって死にたいってわけじゃあないさ。ただ俺は自分が死ぬかどうかよりもあいつらをどれだけ殺せるかどうかの方が重要ってだけでね。ガキ共、俺を死なせたくないんなら手伝え。俺はあのクソ機械どもを全滅させるまでやるぜ』

『うっせえ。手伝って欲しいならそう言えよ。だったらリンダ、あたしはやるぜ。いいな?』

『当然ですわね!』


 そう言い合って渚とリンダも銃を構えて撃ち始めた。

 渚はオスカーの対装甲弾頭で傷付いたテクノゲーターを中心に仕留めていき、リンダは飛び上がって上空からマシンガンを撃ち続けていく。


『まあ、しゃあないな』


 そううそぶくルークも狙撃銃で電磁流体装甲を貫き、正面から迫るテクノゲーターを正確に撃ち抜いていく。けれどもテクノゲーターは巣から次々と湧いて出てくる。

 最初に見えた二十体の倍の数がすでに巣から出ており、渚たちもその物量には次第に押されつつあった。オスカーが用意していた装填済みグレネードランチャーも尽き、弾丸を込める作業が発生した為にさらに状況は不利になっていく。


『こりゃあ、さすがに分が悪いか』


 ルークがそう口にする。

 オスカーが対装甲弾頭を大盤振る舞いしているとはいえ、多勢に無勢という感はあるのだ。もともと二桁単位の人数で攻めるのがセオリーのネスト掃討戦だ。全員が強化された人間サイバネストであるとはいえ、厳しい状況には違いない。


『退がるつもりはねえよ』


 だがルークの視線に対してのオスカーがそう返す。

 その言葉に渚は銃を構えながら『だったら前に出てやるよ』と返して走り出した。


『ちょっと、ナギサ!?』

『リンダ、着地したらフォロー頼む』


 声を上げるリンダに渚はそう返すと、視線を迫るテクノゲーターへと向けた。

 一見して無謀にしか見えない突撃だが、無論渚とてただ蛮勇を行おうとしているわけではない。


『いいんだね渚?』

『ミケ、お前の提案だろう。状況を打破するにこうするしかねえんなら、あたしはそれをやるだけさ』


 渚の返しにミケが頷く。

 つい先ほど、ミケの計算では現状の火力で挑めばあと数分と経たずに接敵され、ジリ貧の状態のまま全滅の危険すらもあると渚は聞いていたのだ。

 また、これまでの戦闘の間にもミケは地形とテクノゲーターの解析をし続けていた。その結果、渚の目にはテクノゲーターのより正確な行動予測が見えており、全体の動きをも演算し把握するに至っている。

 そうなった今だからこそ守りよりも攻めを。多勢に無勢である己らの状況を鑑みた、より高い確率の勝利を考えての積極的な攻勢をミケは提案し、渚は受けたのだ。


『渚、予測はあくまで予測だ。油断はしないように』

『頼りにしてるぜミケ』

『やれやれだね』


 注意に対して頼んだと返す渚にミケは肩をすくめた。

 もっともそんなやり取りの間にも補助腕サブアーム八本がすべて動き、落ちていた回転弾倉式グレネードランチャーを拾い上げて自前の対装甲弾頭を詰めていく。


『飛べファング!』


 そして渚が補助腕サブアームで一気に自分の身体を跳躍させるとマシンアームのブースターによってテクノゲーターの頭上へと飛翔する。


『狙い撃つぜ、センスブースト!』


 さらに渚はセンスブーストを発動させると、ライフル銃と補助腕サブアームのグレネードランチャーを使って空中から次々にテクノゲーターを撃ち続けた。


『撃ち漏らさないで。どれかが生きてたら君が死ぬよ』

(分かってるっての。任せろミケ)


 渚が心の声でそう返しながらトリガーを弾き続ける。ライフル銃の弾丸はどれもがテクノゲーターの頭部にクリーンヒットし、補助腕サブアームが持つグレネードランチャーも周囲にいるテクノゲーターを散らし、またすべての弾頭を撃ち終わると渚はそれを捨てて地面に着地した。


(あー、今ので弾丸六発で三十万か。痛い出費だな)

『今はそれどころじゃないと思うんだけど』


 そのミケのツッコミを無視しながらセンスブーストを解除した渚は、それからライフル銃を右手に、さらには背負っていたショットガンを左手に持つとミケに声をかける。


『じゃあ、共同作業と行こうぜミケ』

『そう言いながら、僕に渡すのはライフル銃かい? こっちはテクノゲーターには効きにくいんだけど』


 そう返しながらミケはマシンアームの操作権を己に移動させ、両者は左右から迫るテクノゲーターを撃ち始めた。


『無茶し過ぎですわよ』


 そこに上空を跳びながらのリンダが、渚の周囲のテクノゲーターを撃って牽制していく。渚の指示の通りにリンダも来て、フォローを開始してくれたのだ。


『サンキュー、リンダ』

『ふぅ。僕は本来戦闘用じゃないから、あまり上手くは撃てないんだけどね』


 ミケの言葉に渚が笑いながら、ショットガンを撃ち続ける。

 この近接戦でのショットガンなら狙いもライフル銃ほどの精密さは必要としないし、ここまでの戦いの慣れもあってセンスブーストなしでも戦えるほどに渚の戦闘技術は向上していた。それは驚異的な成長力であったが、その事実を渚は当然理解していない。


『おいおい、なんて子だよ。ありゃあ、トリー・バーナムの再来か』


 その様子を眺めているオスカーがそう口にする。リンダの祖母トリー・バーナムの伝説は狩猟者ハンターの間で今も語り継がれている。渚の戦いはそれを彷彿させるとオスカーは感じ取ったようだった。


『ライアン局長のお気に入りだからな。今度はこっちが局長に自慢話ができそうだ。それにリンダもナギサと組むことで、牽制役として上手く機能し始めた。いいコンビだよ、あいつらは』


 そのルークの言葉に笑いながらオスカーが頷く。


『そうだな。その甲斐あってどうやらヤツまで引っ張り出せたようだ』

『ヤツだと?』

『ああ、本当に助かったぜ。俺だけじゃあ到達できるかも怪しかったからなぁ』


 そう口にしたオスカーの視線の先にあるのは天遺物だ。今まさに天遺物の入り口からどのテクノゲーターよりも巨大な機械獣が出てくるのが見えていた。一方でテクノゲーターに囲まれながら戦闘を行っている渚もその姿は確認していた。


『なんだよ、あいつ?』

『ランドゲーターですわ。テクノゲーターの上位種ですナギサ』


 渚の疑問にリンダがそう答える。

 天遺物から出てきたのは他のテクノゲーターの三倍はありそうなワニ型の機械獣だ。その大きさに渚は驚きをあらわにしたが、その機械獣にはこれまで渚が見たことのない特徴もあった。


『なんだよ、あいつ。緑の結晶が生えてねえか?』

『厄介な。あれは古老級エルダークラスですわ。長く稼働している機械獣は結晶化したアイテールの装甲を纏います。ここまでに長い経験も積んでいるはずですから、かなりの難敵ですわ』

『マジでか!?』


 渚が険しい顔をしたが、その直後に自分たちの背後から遠吠えのような声が聞こえたことで視線をとっさにそちらに向けた。そして、渚の目に映ったのは、バイクに乗ってランドゲーターへと突撃していくオスカーの姿であった。

【解説】

古老級エルダークラス

 アイテール装甲を纏った機械獣をそう呼ぶ。

 纏っているアイテール結晶は装甲であると同時に予備のエネルギー源であり、また機械獣によっては攻撃手段に用いることもある。なお、渚が最初に遭遇したメテオライオスのタテガミや渚のタンクバスターモードもアイテール装甲の一種である。

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