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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第2章 ルーキーズライフ
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第055話 渚さんと男前なヤツ

 黒雨も去り、渚たちは探索を続けていく。

 さらにふたつ天遺物を見回り、それから巣ができやすそうなポイントを探った収穫はテクノゲーター二体を仕留めただけだったが、ここまでの状況から巣の位置については大体絞り込めてはきた。

 元よりルート周辺の地形は調査され尽くしているのだ。通常の調査でも慎重に挑んで一週間もあれば駆逐にまで持っていけるとのことだったが、この埼玉圏にいるのは機械獣だけではない。環境に適応した野生動物もそこにはいるのだと、渚はバイクに対して駆けてくる奇妙な存在を見て理解した。


「クルックー!!」

『おい、ルーク。変なのが追ってきてる!?』

『そいつは環境に適応したシラコバト、鳩の一種だ』

『嘘だっ』


 渚が思わず叫んだが、そこにいるのはダチョウのような大きさの鳥っぽい何かであった。確かにフォルムは鳩のようだし、首も高速で上下に動かして、クルックーと鳴いている。

 だが、全身の羽根が生えていないし見た目が恐ろしくグロい。そんなものが三羽揃って迫ってくるのだから渚が怯えるのも当然のことではあった。


『気を付けろよ、シラコバトは雑食だ。人も食べるから積極的に襲ってくるぞ』

『その上にあいつらの肉は食えませんのよ。サイタマトカゲを見習って欲しいですわ』


 ふたりの言葉に渚がウワァという顔をするが、シラコバトが追ってきている状況は変わらない。とはいえルークに慌てた様子はなかった。


『ま、不意をつかれなければ対処は簡単だ。弾を当てりゃあいいんだからな』


 そう言ってルークがバイクの操作を追従モードに変えるとハンドルを手放して狙撃銃を取り、マガジンを切り替えてトントントンと軽い音を立てながら撃ってシラコバトをすべて仕留めていった。

 それから渚たちはバイクを立ち止まらせると、後ろからシラコバトが追ってきてないのを確認して互いに頷きあった。状況は乗り越えたようである。それから渚が気になったことをルークに尋ねた。


『なあルーク。なんかさっき撃った弾丸っていつものと違うのか? 音もほとんど出なかったよな』

『ありゃ、装甲貫通能力のない通常弾だ。ま、普通の銃弾が通用する相手に対装甲弾は勿体ないだろ。特に狙撃用のは高いんだ』


 ルークがそう言ってマガジンを交換して狙撃銃を担ぎ直すと、その場で端末を取り出した。


『ともかく少し移動したが、次の目標には近付いたな。場所はここから北の……』

『おや、北で何か起きてるね』


 ルークの話の途中で、ミケが端末からそう話しかけてきた。


『ミケか。それってどういう……ん、今のって爆発?』


 渚が北の方角に視線を向けると、わずかにだが爆発音のようなものが聞こえて、また霧の先で何かが光ったように見えた。瘴気によって音も光も小さくなっていることを考えれば、それがここまで届いているという時点でかなりの威力のもののはずであった。


『戦いが起きていますの?』

『今の音は恐らく対装甲弾頭だね。ほら、また使った』


 ミケの言葉と同時に再び光と音が確認できた。どうやらこの先で何者かが戦闘を行っているようだった。


『依頼は俺たちしか受けてないはずなんだが、ハニュウシティ側でも探索を始めたのか? 仕方ない。誤って撃たれないように警戒しながら向かうぞ』


 そう口にしたルークがバイクを再び動かして、渚とリンダも続いていくとその先にやはりすでに先客がいて、無数のテクノゲーターとの戦闘を行っていた。その相手とは……




  **********




『あいつ、オスカーじゃないか。生きていたのか?』


 そして、接近していくとルークがマシンアイで姿を捉えた相手を見てそう口にする。

 渚の方もミケが瘴気の霧をフィルタリングした映像を視界に映して確認し、リンダもミケから送られた端末の映像を見てその姿を見た。テクノゲーターと戦っているのは妙に煌びやかだが、格好もどこか様になっている……そんな相手であった。


『なんか派手な衣装だな。誰だよ?』

『この人、オスカーさんですわ。ほら、全滅したはずの隊長さん』

『え、マジで?』


 そう口にしながらも、渚たちは周囲の確認も一緒に行っていく。

 オスカーが相手をしているのは二十はいるだろうテクノゲーターだ。また、その場でオスカーが撃ちまくっているのは対装甲弾頭、グレネードランチャー用の一発五万円するシロモノである。それをどうやら二丁のグレネードランチャーでバカスカ撃っているようなのだ。


『あいつ、どんだけ対装甲弾頭を持ってんだよ?』

『テクノゲーターを仕留めるにはコストを考えなければアレが一番だからな。おっと、跳躍地雷もか』


 ルークの言葉と共に、何かがテクノゲーターの集団の中で飛び上がって、それが空中で何かをばらまかれるとテクノゲーターが次々と倒れていった。


『なんだ、あれ?』

『反応すると上空に一度打ち上がって弾を雨のように降らせるタイプの地雷だ。テクノゲーターの速度だと踏んだヤツには当たるか微妙だが、あの数で固まっていれば効果は高いか。ともかく、こっちのことを知らせる。リンダ、青の閃光弾だ』

『承知しましたわ』


 そう返したリンダがグレネードランチャーの弾頭を上空へと打ち上げて青い光を照らし、そしてルークを先頭に渚たちは戦闘領域へと突入していく。


『奥の天遺物、巣だね』


 移動中にミケがそう口にした。渚がその言葉に奥にある天遺物を見ると、テクノゲーターたちは奥にある天遺物を護る形でオスカーと戦っているようだと理解できた。

 それから近付いていく渚たちの姿を確認したオスカーが『なんだ、お前ら遅かったな』と口にする。どうやらオスカーは渚たちが来ていること自体は知っていたようであった。


『オスカー、無事だったのか?』

『ははは、無事とは言えないぜ。足も食われちまったし。けど、こうして直した。ほらよっ』


 そう返したオスカーが正面に向かって蹴り上げると、鋼鉄の義足から三発の対装甲弾頭が発射されてテクノゲーターたちに直撃する。それを見てルークが眉をひそめた。


『お前、そのマシンレッグに装備。街に戻っていたのか。けど、他のヤツはどうした?』

『お前が報告してた通りに全滅さ。俺のアリスもナージャもヤツラに喰われたよ。だったら仇を討たなきゃいけねえだろ?』


 そう言ってオスカーはグレネードランチャーを再度撃つと、空になったソレを手放して、一輪バイクの後部座席に積み上げてある回転式弾倉型グレネードランチャーを取り出して、迫るテクノゲーターに再び撃ち続けた。


『どんだけ撃つんだよ』

『弾が入ってるのは後二丁。弾丸だけならバッグにめいっぱい入ってる』

『随分と奮発したものだな』


 あきれた顔のルークにオスカーがヘッと笑う。


『こっちはサイバネストになっちまったし、もう当分アンダーシティ行きの芽がなくなったからな。ま、付き合ってくれとは言わねえよ。俺ひとりであの巣はぶっ潰すから、やれなかったら犬死と笑ってくれ』

『うっせえ、見殺しとかできるか馬鹿。何言ってんだよ』


 思わず声を荒げた渚に、オスカーが眉をひそめる。


『ルーク。なんだよ、このガキ』

『ははは。うちの期待の新人さ』


 ルークの返しにオスカーが『へぇ』と笑って渚を見た。


『両手に花ってわけかいルーク。つってもどちらもまだ青いが』

『ま、今ならお前も入れて三人だ』

『え、こいつ女?』


 渚が驚いてオスカーに視線を向けたが、よく見ればオスカーの胸はたわわに膨らんでいた。


『おおよ、俺がオスカー様だ。よろしくなルーキー』


 そう言って笑うオスカーはどう見ても男前であったが、胸の膨らみからしてどうやら本当に女であるらしかった。


【解説】

通常弾:

 対装甲弾との違いは装甲貫通能力がない、音が小さい、安い。

 機械獣に対してはほとんど無力だが、対人、対生物用には適している。

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