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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第2章 ルーキーズライフ
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第051話 渚さんと依頼開始

『さらばベッド』


 渚がそう言いながら、もう見えなくなったクキシティの方角を見ていた。


『またすぐに戻ってこれますわよ』

『まあ、そうだけどな』


 横に並んで座っているリンダの言葉に渚が頷く。

 二人が現在いるのはビークルの上部だ。強行隊のときのようにミランダが操縦するビークルの上で渚とリンダは見張りにつき、また仲間となったルークも自前の一輪バイクに乗ってビークルに並走していた。

 明け方であるため瘴気の霧が薄れているために上空には青い空がわずかに見え、また南には天国の円環ヘブンスハイローの姿もあった。


(あんなところから天遺物が落ちてくんのか。怖え話だな)


 大質量の塊の落下が頻繁に起きているとは……まったく落ち着かない土地だと渚は思う。そんなことを思いふけっている渚にミランダから通信が入った


『マスター、ひとまずは地図のルートに合わせて移動していますが、これからどこに向かいますか?』

『どこっていうと……なぁ、ルーク。このままビークルで探索するのか?』


 渚の問いにルークが首を横に振る。


『いいや。バイクならともかく、ビークルは逃げ出すには不向きな乗り物だ。ビークルは一度隠して、そこから分かれて探索を行うつもりだ。俺が誘導するからミランダは後に続いてくれ』


 ルークの言葉にミランダが『承知いたしました』と返し、ルークのバイクが前に出るとビークルもその後を追い始めた。そのルークの後ろ姿を見て渚が目を細める。


『どうしましたのナギサ?』

『ああ、いやさ。長い銃だなと思ってさ』


 渚が指差した先にあるルークが担いでいる銃はまるで槍のように長いものだった。


『あれは長距離用の狙撃銃ですわね。狙撃銃用の装甲貫通弾は大型の機械獣をも仕留める破壊力があります。ルークはアレを使ってかなり離れた位置の機械獣でも仕留められるのですわ』

『はぁ、さすがゴールドランクってことか』


 現在の渚のワッペンの色はブロンズ、リンダはシルバーで、ルークはゴールドであった。それらは実績によって判別され、仕事の依頼内容や優遇措置の差にも影響するものだと渚は聞いている。しかし、この瘴気の霧の中でルークは一体どうやって狙撃するのだろうかと渚はさらに疑問を深めたところで、ミケから声が上がった。


『渚、敵だ』

『リンダ、ナギサ。機械獣が来るぞ』


 同時にルークからも声が上がり、ミケが眉をひそめる。


『おや、どうもあっちも良い目を持っているみたいだね』

『あん、なんだって? それで機械獣はテクノゲーターなのか?』

『いいや、スケイルドッグだ。街の周囲をうろついている奴らだろう』

『そういや、スケイルドッグの巣があるかもしれないって話だったよな』


 クキシティ周辺にはスケイルドッグの群れが出没していて、近くに巣がある可能性が指摘されていたのだ。


『そいつはダンがチームを組んで探してる』


 どうやらダンも戻ってきて早々にまた仕事らしかった。


『ダンのおっちゃんもご苦労なこったな』

『まったくだな。それで近付いている機械獣は全部で五体だ。ナギサ、お前の実力も見たい。頼めるか?』

『実力ね』

(センスブーストを見せても問題ないよな、ミケ?)


 ナギサの心の声にミケが『まあ、いいんじゃないかい』と返す。

 またスケイルドッグの群れはすでに肉眼でも見えていて、そろそろ悠長なことはできない頃合いにもなっていた。


『そんじゃあ』


 そう言って渚は持っていたライフル銃を構え、銃口をスケイルドッグへと向けると……


『やるぜ。センスブースト!』


 次の一瞬に渚の周囲の世界が遅くなった。

 まるで海の中に潜ったように身体が鈍重になったと渚は感じ、またその中で普通に動いているのはミケと義手だけであった。


(1、2、3、4、5……と)


 そして、渚が弾道予測線に合わせてテンポよく一体ずつ狙ってライフル銃を撃ち続ける。それは客観的に見れば、ただ速射しているだけにしか見えないが、すべてスケイルドッグに命中し、薬莢が飛び出て落ちるまでの間にスケイルドッグは残らず砂漠に転げていた。


(いや、二体直撃ではなかったな)


 命中はして、弾き飛ばしはした。しかし行動予測は二体のスケイルドッグが再び動き出すことを予想しており、渚は眉をしかめつつもさらに2発撃ってトドメを刺すと、すぐさまセンスブーストを解除した。

 そして渚の視点からすれば世界は再び正常な動きを取り戻し、リンダたちの賞賛の声がその場で耳に入り始めた。


『相変わらず凄まじい早撃ちですわねナギサ』

『正面からとはいえ、恐るべき命中精度だな。仕留めきれなかった二体もすぐさまトドメを刺してる。なるほど、会う人間が一様に褒めるわけだ』


 ルークも驚きの顔をしながら渚を見た。


『ところでナギサ。頭は痛くないか?』

『ああ、この程度なら。ん、どういうことだ?』


 今の問いは負荷についての質問だろうと渚は察したが、センスブーストも負荷についても渚はまだルークにも話してはいない。それからルークは少しばかり得意そうに自分を指差した。


『センスブーストは俺も使える』

『マジで?』


 驚く渚に、意味が分からないリンダが首を傾げる。


『どういうことですの?』

『そうか。リンダには話してなかったな。まあ、一種の技術なんだが……時間感覚を加速させることが俺にはできるのさ。で、反応からして渚も同じことが可能だな?』

『ああ』


 隠すつもりもなく、単純に聞かれていなかったし答える機会がなかっただけの渚はあっさりと頷いた。


『そうか。いや、今の時間感覚を考えると頭がブッ飛ぶんじゃないかと怖かったんだが、お前は俺のとは持続時間がずいぶん違うらしいな。そこらへんは後で話そう。コツも教えてやれるかもしれない。まあひとまず俺はアイテールとパーツの回収をしてくるから、お前らは他にスケイルドッグが来ないか警戒しておいてくれ』

『了解。にしても、機械獣も慣れれば結構簡単にカタもつくようになるな』

『スケイルドッグは比較的倒しやすい機械獣ですし、油断は禁物ですわ』


 リンダがそう返すと、ミケが『まったくだね』と口にした。


『そもそもアレは戦闘用ではないし、あまり過信はしないほうがいいよ』


(戦闘用じゃない? 機械獣がか?)


 眉をひそめた渚の問いにミケが頷く。


『そうだね。ここまで確認できた機械獣で戦闘用だと思わしき個体はメテオライオスぐらいだよ。アーマードベアアンサーも微妙なところだ。そもそも対装甲弾だからといって対策がないわけじゃないし、回避行動のプログラムも正直に言って軍用に達してはいない。あのスケイルドッグは民間の番犬ロボクラスさ』

(へぇ……そういうもんか)

『ナギサ、ミケと秘密のおしゃべりですの?』


 ミケの言葉に感心していた渚に、少し拗ねた風なリンダが口を挟んできた。


『ああ、悪い。そんなつもりじゃなかったんだけど』


 渚にしてみればいつもの癖で無言の会話となっていただけではあったのだが、わずかな間の空き具合でリンダに気付かれたようである。

 

『機械獣が弾丸に対処できるかどうかっていう話だよリンダ』


 そして、端末からリンダに対してミケの声が響くとリンダが『そうなんですの?』と返した。


『弾丸を弾く機械獣なら少なくはないですけれどね。先日に戦ったアーマードベア・アンサーもそうですけど』

『ああ、確かにな。ありゃあ厄介だった』


 ダメージを与え続けても何度も立ち上がった巨大クマ型機械獣を思い出して、渚が少しだけブルッと震えた。


『それに、今回ターゲットとなっているテクノゲーターもなかなか厄介な相手ですわね』

『厄介?』


 首を傾げる渚にリンダが『そうですわ』と頷き返す。


『ワニ型の機械獣で、ともかく背が低くて弾丸が当たりにくい上に、表面は電磁流動装甲で、摩擦係数が低く銃弾が滑って弾かれます。その上に連中は砂場をまるでスケートのように滑って移動するから、素早く近付いてガブッてやられる狩猟者ハンターも多いのですわ』

『そりゃあ、怖えな』


 リンダの言葉に渚が顔を少しだけ強張らせる。

 テクノゲーター。それはまだ出会ったことのない機械獣だが、ソレとの戦いは決して楽にはならなさそうであった。


【解説】

狙撃銃:

 ルークが所持している長距離用の銃。

 埼玉圏では瘴気に阻まれて長距離狙撃が非常に困難なため、所持している狩猟者ハンターの数は少ない。

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