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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第2章 ルーキーズライフ
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第047話 渚さんとチャラい兄ちゃん

「なんだよおっさん。こっちが先並んでんだよ」


 突然のぶしつけな言葉に、渚は不機嫌そうな顔で近付いてきた男を睨みつける。その相手は渚の知らぬ、つまりは先日の強行隊にはいなかった狩猟者ハンターだ。


「ナギサ、構わなくていいですわ」


 そこにリンダが口を挟んだ。


「おいおい、連れねえなあリンダ」

「ハハハ。ウチの誘いを断った、お高く止まったサイバネスト様の言葉は違うね」


 会話のやり取りからどうやらリンダも知っている相手のようだが、良好な仲ではなさそうであった。それから笑う男たちを見ながら渚がリンダに問う。

 

「知ってる相手か?」

「ええ、サバクウルフ団とかいう狩猟者ハンターのチームのメンバーですわ。チームに入れって誘われてまして、まあ礼儀も知らぬ野蛮な方々でしたし、当然お断りしたのですが……それからもしつこくしつこくやってきまして、非常に迷惑しているのですわ」

「んだとぉ、テメェ」


 リンダの言葉に男が額に青筋を立てるが、リンダは構わず背を向けた。


「どのみち、ここで手を出せばどうなるかはこの方たちも知っています。何もできませんし、無視しても問題はありませんわナギサ」

「いやいや、リンダ。お前ももう少し言葉を選んだ方がいいと思うぞ」


 リンダの言葉に続いて、その場で突然渚の知らぬ人物の声が響き渡った。

 そしてその人物に視線を向けたリンダの顔が驚きに変わる。


「え、ルークですの?」

「ルークか。チッ」


 ルークと呼ばれた人物に対してはリンダだけではなく、絡んできた男たちや他の狩猟者ハンターたちも大きく反応していた。もっとも渚はその人物を知らない。


(誰だ?)

『ルークという名前は以前にリンダが口にしている。どうやら彼は狩猟者ハンターのようだね』


 渚の心の問いに、ミケがそう返す。


「それに大体だな。ダンのチームの前でリンダにチョッカイ出すとかお前らも無謀だぜ。この状況なら一方的にお前らに警告がいく。だから今は退いとけよ。な?」

「リーダーに言われてる。あんたにゃ逆らう気はねえよ。クソッタレ」


 ルークの言葉に男たちが悪態づきながらも外に去っていく。どうやら面倒は去ったようだが、代わりに渚にとってはよく分からない人物がその場に残っていた。


「やあリンダ。いつも通りモテてるな」

「ルーク、戻ってきていたんですの?」


 もはや男たちのことなど忘れて驚いているリンダにルークがハハハと笑う。


「戻ってきたと言えばそうなんだけどな。実は、リンダがアゲオ村に行っている間にこっちには戻ってきてたんだよ」

「あら、でも昨日はいなかったはずですけど」

「局長のお使いさ。三日前にここを出て、今戻ってきたってわけだ。まあ、それよりもだ」


 そう言ってルークが渋い顔をしてリンダの額をデコピンした。


「痛いっ!? ですわ」

「リンダ。お前、またあんなの相手に過剰反応してたな。ああいう手合いは軽く流す程度でいいんだよ。無駄に敵意をばらくもんじゃないぜ」

「で、でも……あの方たち、ナギサに対して失礼なことを言ってきましたのよ。だからわたくしは」

「あーいや。あたしは別にいいんだけどさ」


 後ろからの渚の言葉にリンダが「むぅ」としかめ面をした。もっとも渚にしてみれば、去っていった男たちよりも目の前のチャラそうな男の方が気にかかっていたのだ。


「リンダ、そっちの人誰だよ?」


 歳は二十後半ぐらいで妙にチャラい感じがする男だ。

 正直に言えば、ふたりが並ぶとリンダが誑かされてるんじゃないかと不安になるような雰囲気だったが、周囲の狩猟者ハンターたちのルークを見る目からすれば見た目通りのチャラ男ではなさそうだと渚にも分かる。


「ああ、すみませんナギサ。こちらはルークですわ。リミナさんと同じようにわたくしの師匠に当たる人です」

「あ、そうなのか?」


 渚がリンダの言葉に若干の驚きの表情になってルークを見ると、ルークの方も興味深そうな顔で渚に視線を向けた。


「リンダの言う通り、こいつに狩猟者ハンターのイロハを教えたのは俺だが……それで君はリンダの友達かい?」


 その問いに渚が答える前にリンダが口を開いた。


「ナギサはわたくしのコンビですわ」

「コンビ? へえ? リンダが? ああ、そりゃあ……」


 そう言ってニヤケた笑いを見せたルークに対して、リンダが少し顔を赤くして眉をひそめる。


「なんですの? リミナさんの推薦なんですよ。問題あります?」

「いんやあ、別に。いいコンビが見つかって良かったじゃないかリンダ。お兄さん、ちょっと安心したぞ」


 ニヤニヤと笑い続けるルークにリンダが「もうっ」と口をとがらせながらも静かに頷いた。その様子にルークはうんうんと頷くと渚を見た。


「それで、そっちのナギサちゃんだったか。その右腕は……いや、まあそれは後ででいいか。リンダ、夕方に家に行くからさ。後でふたりの馴れ初めとかゆっくり聞かせてもらうぞ。保護者的には是非とも聞いておきたいからな」

「慣れ初めとか変な言い方やめてください!」


 リンダが抗議したが、ルークは「ははは、じゃあまたな」と言って二人から離れると施設の奥へと行ってしまった。その様子に渚がリンダに尋ねる。


「おい、リンダ。あのルークって人、言うだけ言って行っちまったぞ。良かったのか?」

「局長のお使いと言っていましたから、そちらの用が残っているのでしょう。まあ、後で来るそうですし、そのときに改めて紹介いたしますわよ」


 リンダが少し疲れた顔をしてそう返す。どうやら、あのチャラ男とはまたすぐに再会するようであった。




 **********




「よお、ルーク。戻ってきたか」

「どーも局長」


 そして渚たちが再び列に並んだ頃、渚たちと別れたルークは局長室内のライアンの前にいた。


「ん、何か良いことでもあったか?」

「ええ、入り口でちょっと……とはいえ、お伝えする報告は最悪なんですけどね」


 そう言って苦い顔をしたルークにライアンの眉間にしわが寄る。


「ダンとライネルの隊は無事戻ってきた。もうひとつ、いい報告が詰み上がってくれりゃあ嬉しかったんだがな」


 そう返しながらも、ライアンもすでに理解はしている。この場にルークがひとりで戻ってきたということが答えなのだと分かっていた。


「ハニュウルートにはテクノゲーターの群れがいました。発見したビークルは大破。回収しても直すのは無理でしょう。で、オスカーの隊は全滅です」


 その言葉にライアンが舌打ちする。

 それはひどく手痛い報告だ。場所が場所だけにダンとライネルが戻らないよりも厳しい状況であるともいえた。


「このままだとハニュウルートには、テクノゲーターが繁殖するでしょうね。どうします?」

「どうするも何もハニュウシティへのルートを確保しないわけにはいかんだろう。群馬圏の化け者共の侵攻は防がねばならんし、場合によってはコシガヤシーキャピタルの騎士団を要請する必要がある。なるべくそれはしたくないがな」


 ライアンがそう言って、深くため息をつく。

 騎士団の要請。その代償が決して少なくないことを知っているルークは何も言葉を返さず、続けての報告を行う。


「それから例のグリーンドラゴン、やっぱり出たみたいです。目撃者がいました」

「やっぱりかよ、クソッタレ」


 それにはライアンが劇的に反応した。


「となるとシャッフルはアレのせいか。ヤツがどこに向かったのかは分かるか?」

「不明です。緑竜土も今のところ、見つかってはいません」


 ルークの言葉に、ライアンが目を細めながら頷く。


「だったら……ああ、くそ。そっちは静観か。俺らにゃ専門外だしな。上には連絡するから報告だけ上げておけ」


 その言葉にルークは黙って頷いた。グリーンドラゴンについての調査は、コシガヤシーキャピタル主導で行われている。だから狩猟者ハンターであるルークにとっては深く関わる必要のないものだった。

 それからライアンは少し何かを考えてから、ルークに視線を向けた。


「ま、ご苦労だったなルーク。最悪であることが分かっただけでも、最悪ではなかった」


 その言葉にはルークも頷く。一番悪いのは状況が見えないことだ。今回の結果はひどいものだが、そうと分からなければどうするかも決められない。


「それでだ。戻って早々なんだが、お前には頼みたいことがある」

「頼みたいこと?」


 ルークが眉をひそめるが、ライアンは少しだけ笑って頷く。


「なぁに。悪い話じゃない。お前の教え子にコンビができてな。ナギサっていうんだが」

「その子ならさっき見かけましたよ。最近じゃあ珍しくスレてない子に見えましたが」

「ああ、そのナギサだ。もう会ったんなら話は早いな。アイツはリミナの肝煎りで、それに狩猟者ハンターたちの評判もいい。実力もある。このままでもすぐにウチの主力になってくれるだろうが……厄介な問題もあってな」


 その言葉にルークが目を細めて「あの右腕ですか?」と返した。


「やっぱり気付いていたか」

「そりゃあね。ハンズオブグローリー、あの遺失技術ロストテックなら知ってるヤツなら誰でも知ってる。まあ、腕そのものというよりは持ち主の名前が先に浮かびますがね」


 ルークから吐き出された言葉は、怒気が混じったものであった。

 その反応にライアンは頷きながら口を開く。


「なら、分かっているな。オオタキ旅団のザルゴ。左のハンズオブグローリーの持ち主であるヤツなら、右腕のハンズオブグローリーの噂が出れば狙ってくる可能性がある。だからお前、護衛も兼ねてあいつらとチームを結成しろ」


 その言葉にルークの表情が変わった。


「それは願ったりですが……局長、妙に入れ込んでますね」

「まあな。久方ぶりにトリー・バーナムを思い出した。なんだよ、その顔は?」

「いや、別に。リンダにもまだ不安はありますし、新人教育の続きと考えれば悪くはないかもしれませんね」

「頼んだぜルーク。ついでにお前がちょうど新しい仕事を持ってきたしな。そいつを任せるぜ」

「は?」


 その返しはルークにも意外だったようで、ルークの反応を見たライアンがニヤリと笑って口を開いた。


「チームを結成したら、ハニュウルートにあるテクノゲーターの巣の探索に行ってこい。なぁに、ナギサの実力を見るいい機会だろうよ」

【解説】

ハニュウルート:

 ハニュウシティは群馬圏の監視とグンマエンパイアの尖兵の撃退を担っている都市である。

 そしてハニュウシティからクキシティに向かうルートをハニュウルートといい、それは物資の多くを外部に頼っているハニュウシティの生命線となっている。

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