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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第2章 ルーキーズライフ
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第045話 渚さんとあの女のハウス

 渚が狩猟者ハンター管理局を出てからリンダに案内されたのはクキシティでも中央に近い一軒家だ。そこは外周を金属板で覆ったものではなく、しっかりとした造りをした白い3階建ての建物であった。


「なんか、デカイなここ」

「バーナム家が地上に用がある際に利用している家ですけど、普段は空き家でしたので使わせてもらっているんですのよ」


 リンダがそう説明する。それから渚は一階にある駐車場にビークルを停めると、リンダの後をミランダと共に追って家の中に入った。どうやらリンダを認証しているらしく、駐車場も玄関も特に触ることなく開き、渚は「全自動かぁ」と口にした。


『お帰りなさいませお嬢様』


 そして、家の中ではミランダに似たロボットが出迎えてきた。リンダも「ただいま、セバス」と返すとセバスと呼ばれたロボットが頭をさげる。


「留守番、ご苦労様ですわ。留守中、何かありました?」

『アル様から12度ほど連絡がございました』


 セバスと呼ばれたロボットはそう返すと、リンダが「あら」と口にして眉をひそめた。それからセバスが渚とミランダを見る。


『お嬢様、そちらの方々は?』

「コンビを組んだナギサとメディカロイドのミランダですわ。今日からこちらに住んでもらいます。セバスもそう認識しておいてください」

『ほぉ、お嬢様がコンビを。なるほど。熊のような大男でなくて幸いです。たとえルーク様であってもアル様にお伝えすれば、どう反応するか分かりませんから』

「お兄様は関係ありませんわ」


 プイッと顔を背けるリンダだが、どうやらリンダにはアルという兄がいて、ルークという人物をセバスも知っているのだと渚は知った。

 それからセバスはミランダへと顔を向ける。


『ミランダ。あなたはそちらのナギサ様のお付きなのですか?』

『そうですバトロイドのセバス』

『おお、あなたのような方がお嬢様のそばにいてくださるのは大変心強い。わたくしめはこの敷地より外には基本動けませんので』

『こちらもナギサ様がお世話になります。滞在している間は、仕事を割り振っていただいて構いません』

『それはありがたいですね。ではスケジュールは転送いたします。可能な項目をアクティブにしてください。必要なプログラムがあれば承認いたしますのでインストール申請を上げてください』

『お言葉に甘えます。それでは……』


 そんなやり取りが目の前で交わされ、渚が目を丸くする。会話に切れ目がなく、次々と予定が決まっていく。


「リンダ。これ、打ち解けてんのか?」

「気は合っているようですわね。セバス、わたくしたちはリビングに行きますわ。渚の部屋は二階の空いてるところを、ミランダと一緒に準備しておいてもらえます?」

『はい、お任せを』

『それでは、セッティングに向かいましょう』


 二体はリンダの言葉にそう返すと、すぐさま動き出した。その行動には迷いがなく、ある意味では非人間的なその動きに彼らがロボットなのだと渚は改めて理解した。


「なんか、スゲェな」

「ええ、どちらも優秀で結構ですわ。それではナギサ、こちらに。何か話したいことがあると言っていましたわよね?」

「お、おう」


 リンダの問いに少しだけ緊張した渚が頷く。

 ここまで引き延ばしていた話をようやくする……と、渚はここに来るまでにリンダに告げていたのだ。


「もしかして……実は男でしたとか言いませんわよね?」

「言わねえよ。どこ見てんだ?」


 リンダは、チンマイボディの薄い胸部装甲を見ていた。もっともまったく凹凸がないかといえばそうではなく、申し訳程度に渚はあったりする。時折、姉がジッと見て「巨乳だ」と言っていた記憶が渚の中で何故だか蘇った。


「ま、これからコンビを組んでいくなら、話しておかないといけないしな」


 そう言って渚が取り出したのは、タブレット端末だ。

 その画面には一匹の三毛猫が映っていて、猫は口を開き、スピーカーから声が響き渡った。


『やあ、リンダ。言葉を交わすのは初めてだね』

「え? その猫がしゃべっていますの?」

『ああ、そうだよ。僕の名はミケ。渚のナビゲーションAIだ。よろしく』


 それはミケが渚以外の人間に初めて口を開いた瞬間だった。




  **********




 それからリビングに着いた渚とリンダは椅子に座り、端末を受け取ったリンダはミケから自身の存在の説明を受けた。とはいえ、そう細かい話をミケは口にしない。己が渚をサポートするナビゲーションAIであること、猫の姿は渚の好みであること、アーマードベアの地図などを作成したのは自分であることなど……話すのはそうしたことのみに限定されていた。


『と、いうわけなんだ。まあ、今後は君のサポートにも回ることもあるだろうからね。話はしておくべきだと判断した』

「なるほど。いえ、わたくしのヘルメスもしゃべりはしませんがAIは宿っていますし、理屈も分かります。ただ、わたくしの知るものよりもかなり高性能で遺失技術ロストテックのもののようですわね。その右腕のマシンアームに宿っていますの? それとも端末に?」

「あー、それは」

『それは言えない』


 渚が話をしようとする前に、ミケが答えを拒否した。それに渚が眉をひそめてミケの映る端末を見る。


「ミケ?」

『申し訳ないがリンダ、僕にも色々と制限があってね。君の問いは僕の機密情報漏洩事項に触れている。出自なども含めて、話すことはできないんだ』


 ミケが続けてそう口にする。


『偽りを口にして誤魔化すこともできるけど、それはしない。僕は君を渚のパートナーとして認めている。だから、嘘は言いたくはない。誠実さこそが正しい解を示すとも僕の中のクオリアも告げているからね』

「ぱ、パートナーですのね。ミケさんも認める……」


 ミケの言葉に、リンダは何故か嬉しそうな顔をした。


「んー、悪いなリンダ。こいつ融通きかないみたいで」

「いえ。分かります。ミケさんはどうやら軍に属したAIなのでしょう。であれば、納得もできますわ」


 その言葉に、今度はミケの方が反応した。


『リンダ、もしかして君はその手の状況に慣れているのかい?』

「ええ、アンダーシティにも軍施設はありますもの。都市の基幹部分は機密扱い。軍属のIDを持つ者でなければ入れない場所も多くあります。場所やもの、通常の市民IDを持つ市民はみな、そうしたアンタッチャブルには触れないように生きていますから、なんとなくですがミケさんもそういう存在かと」


 その言葉に渚が「へぇ」と口にして、ミケが頷く。


『まあ、僕というものについての君の認識は正しいよリンダ。だけど、あまり気にせず渚とは仲良くしてくれるとありがたい。僕も何か気が付くことがあれば、端末か、渚から直接口を出す』

「ええ、頼りにしてますわ」


 リンダの返事に、ミケが「よろしく」と返した。

 それからリンダが思い出したように口を開く。


「あ、眼爺が猫とか言っていたのはこういうことだったんですの?」

「だと思うんだけど、あの爺さん……どうやって知ったんだ?」

『無線も有線も接続はされていないはずなんだけどねぇ』


 三人が同時に首を傾げた。

 実のところ眼爺は渚の不自然な視線を追った結果、見えない存在との会話を確認し、視線の動きからおおよそのミケの動きと身長などを予測し、該当項目から猫のような存在を推察した……という手順は踏んでいるのだが、もちろんそこまでは渚にもミケにも分からない。

 ともあれミケの自己紹介は済み、こうしてミケの存在はコンビの共有の秘密となったのである。

【解説】

バトロイド:

 執事|(Butler)的なもの(Oid)を省略した名称。

 ヒューマノイドタイプのロボットは総じてその系統で名付けられる傾向にある。

 なんでもかんでもロイドを付ければよいわけではないのだが、商品名は時として分かりやすいように安易な呼び名も求められるのだということである。

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