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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第042話 渚さんと初めての面接

「おう。来たか」

「あれ。あんたは確か、ええと……ここでいちばん偉い人のライアン局長だったよな?」


 ダンに言われて狩猟者ハンター管理局内に入った渚は現在、二階にある一室にいた。受付に案内されたのがこの部屋で、受付嬢に案内されて入ったその部屋にいるのは予想外の人物であった。何しろ部屋の中で渚を待っていたのは、この狩猟者ハンター管理局の局長であるライアンだったのだ。


「面接って局長がやるもんなのか?」

「んなわけねえ。新人相手に俺が顔出すなんざ、普通はねえさ。まあ、構えずに座れやナギサ」


 そう言ってライアンが渚に席に着くように促す。

 なお、この場に呼ばれたのは渚のみである。リンダは一階で待っており、ミランダもビークル内で待機している。また当然ミケは渚の横にいるのだが今は口を閉ざしている。

 どうやら眼爺に自分の存在が見破られたことが少しショックだったようで、気付かれないように行動には気を付けるよ……と微妙にいじけているようだった。このナビゲーションAI、存外に繊細なようである。


「本当は担当官がいて、そいつが一通りの面接をするんだけどな。ま、ダンに色々と聞いてな。直接顔を見たくなった」

「なるほど」


 ここに来るまでに己の状況がどうも普通ではないのは流石の渚も理解している。であれば、ライアンが興味を抱くというのも理解できた。


「で、今回は大活躍だったそうじゃないかナギサ。アーマードベアの巣に乗り込んで大立ち回りして、最後にはアンサーも仕留めた。なかなかできることじゃねえな」

「まあ、言われてみればそうなんだけどな。そういう役割を受け持っただけでさ。結局はあたしひとりの力じゃねえよ。リンダやダンのおっちゃんらがいて、できたことだ」


 椅子に座った渚がそう返す。

 結局のところ、己はチップやマシンアーム、ミケやリンダ、それに一緒にいた狩猟者ハンターたちのおかげで戦えたのだという認識が渚にはある。だが、その言葉に対してライアンは首を横に振った。


「謙虚なのはいいことだが、過ぎれば嫌味にも聞こえるぜ。一緒に戦った連中のことを考えるなら自分の功績は過小評価しない方がいい」

「むぅ。そんなつもりもないんだけど」

狩猟者ハンターなんてのは実績がすべてだ。実態より高くとも低くともいけねえのさ。正しい評価で判断されないと最終的には自分か、或いは誰かが死んじまう。役割を受け持ったって言ったな。だったら、お前はそうできるだけの力を持ってたって証明なのさ。実際、他の狩猟者ハンターに任せて上手くいったと思うか?」

「でも、いや……そうだな。確かに局長の言う通りだな」


 ライアンの言葉に渚は素直に頷く。それにライアンが「いい子だ」と言って笑う。


「で、お前。リミナ推薦だってな。一応、ダンを通して推薦状はもらってる」

「ああ、そっちでも手を回してくれてたのか。まあ、リミナさんにはアゲオ村で世話になったよ。リンダも紹介してもらったし、色々と教えてもらった」

「そう、リンダな。お前、お嬢とコンビを組むんだってな。あの娘はバーナム家の嬢さんだぞ。それは知ってるな?」


 その問いにも渚は頷く。

 クキアンダーシティという、このクキシティの地下に存在している都市でも権威を持っているバーナム家の娘がリンダだ。それが実際にどういった意味を持つのかはまだ渚に実感はないが、それでも分かることはある。


「知ってるよ。それにリンダはいいヤツだ」

「ふん、そうだな。それは認めるさ。ただアイツもまだ狩猟者ハンターになって日が浅い。スレてないところがあるし、甘い部分も多い。正直、こうして話してるとお前さんの方が俺たちに近い気がするぜ」


 そのライアンの言葉は、渚にも理解できる。リンダにはどこか危ういと感じる部分があると渚も感じていた。


「そこはまあさ。新人同士ってことで、一緒に成長していきゃぁいいんじゃねえ?」

「それも甘いとも思えるが、サイバネスト同士だ。聞いたところの戦闘力からすれば、大概の依頼はこなせるだろう。それにお前はビークルにメディカロイド持ちだしな。羨ましいねえ。俺の若い頃はそんな贅沢できなかったぜ」

「やっぱり珍しいのか」


 その渚の言葉にライアンが「そりゃ、そうだ」と口にする。


「ビークルもメディカロイドも出回ってる数が少ねえからな。金もかかるし、欲しいと思ってもそうそう手に入らん。必要性を考えるとそこまで購入する必要もないってのもあるが」


 メディカロイドはそもそも個人で所有するものではないし、世話係なら仲間に頼むか、誰かを雇えばいいだけのこと。

 また個人の狩猟者ハンターであればバイクを所持することはあるが、ビークルに関しては埼玉圏を移動する際にそこまで速度が出るものではなく、必要があれば管理局か個人所有者に借りればいいということもあった。とはいえ、所持しているということ自体が狩猟者ハンターにとってはステータスの一種だ。


「ともかくだ。お前とリンダが組むっていうのは色々と俺たちにも都合がいい。バーナム家からの目もある。あの家に近付こうってアホも多くてな。こっちも神経すり減らしてたって面もある」

「ああ、やっぱりそういうのあんのな」


 納得という渚の顔に、ライアンが頷く。


「だから子守も付けてたし、今回はそいつに別の用事ができたからダンに任せていたんだ。何しろバーナム家は今の当主が一代で築き上げた、なかなか力のある家でな。基本不干渉の立場だとは言ってやがるが、まあそれはそれだ。あのご当主様の機嫌を損ねれば火傷どころじゃすまない。あのババアはマジでヤバいからな」

「ババア?」


 首をかしげる渚に、ライアンが「会えば分かる」と返した。


「そういうわけで、ご当主様の言葉を額面通りに俺たちは受け取れねえし、かといって手を出さねえと言っている以上は、無視してお嬢を籠の鳥にするわけにもいかねえってんでな」

「ハァ、あいつん家も大変なんだな?」

「そうだな。色々と面倒ごともある。が、お前は一応留意しといてくれればいいさ。難しいことは求めねえ。あいつと一緒に死なずにいてくれればな」


 そのライアンの言葉に渚は「言われるまでもねえよ」と返した。当然、死ぬつもりも死なせるつもりもない。コンビを組んだ以上は一蓮托生。そう意気込んで渚が力強く頷くと、ライアンも「そうかい」と言ってニンマリと笑う。どうも渚はライアンに気に入られたようだった。

【解説】

ババア:

 マシンレッグをリンダに譲った現在は車椅子での生活を送っているバーナム家の当主。トリー・バーナムともいう。フォートレスホエールをひとりで墜とした。メテオライオスを子犬のように泣かせて蹴り殺した……などとその逸話は枚挙にいとまがない。

 ライアンの憧れの人物であり、その世代の狩猟者ハンターにとっては伝説的英雄として知られている。

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