第041話 渚さんと管理局
『なんだ、あいつ? ミランダみたいなのがいるな』
クキシティの入り口の門前。そこには一体のロボットが門番をしていた。それがビークルを運転しているミランダに似ていることに気付いた渚が口を開くと、それにリンダが「あれはガードロイドですわ」と言葉を返した。
『ミランダと同じフレームを使っているから、見た目が似ているのでしょうね。ただガードロイドは戦闘に特化しておりますから気を付けてくださいね。本当に強いんですから』
そのリンダの言葉に渚が「へぇ」と返す。もちろん戦う気は渚にはないし、そう言う機会もないはずだった。それからダンがガードロイドに話しかけて何かやり取りをすると、すぐに門が開いて渚たちは街の中へと入っていった。
『なんだか、アゲオ村と同じような家ばっかだな』
そして中に入った渚がまず思ったのは、並び立つ建物がアゲオ村と良く似ているということだった。
『天遺物を解体して再利用していますし、どこも似たようなモノにはなってしまうのは仕方ないですわね。けれど、人の多さはまったく違いますでしょ?』
そのリンダの言葉には渚も素直に頷く。確かにアゲオ村とは歩いている人の数や活気が違った。
見た目こそ同じでも、それなりに栄えているという雰囲気が確かにあった。
『と、みんなマスクしてないな』
『ええ、街の中に入りましたから、もう取っても問題ありませんわ』
そう言ってからリンダが自分のメットを取ると、渚もドクロメットの開閉スイッチを押した。するといくつかの部分がガチャガチャと稼働し、パカリとドクロメットが外れる。
「ナギサのそれ、随分と高性能なもののようですわね」
「そうなのか?」
渚が自分のドクロメットを見る。渚にとってはカッコいいから選んだだけのシロモノではあるが、どうも良いものらしい。
「わたくしも詳しいわけではないのですけれど、被ってからサイズが調整されて機密性を保っているのでしょう。そんなギミックがついてるなんて遺失技術のシロモノ以外にはあり得ませんし、ドクロフェイスも人間の形に合わせた結果なんだと思いますわ」
「んー、そういうもんか。気には入ってるんだけどな」
ビークルにドクロメット、また銃一式もアゲオ村に行く途中でそれなりに値が張るモノらしいとリミナには言われていた。どうやら基地にいた者たちは、かなり装備に充実していた者たちだったようである。
「それでリンダ。これから狩猟者管理局に向かうんだっけか?」
「ええ、あそこですわ」
そう言ってリンダが指さした先に、まさしく要塞といった建物が建っていた。後ろにはまだ入り口の門が見えているのをチラリと見ながら渚が口を開く。
「なんだよ。結構入り口から近いんだな」
「まあ、街の入り口の方が何かと便利ですし、狩猟者は街を護るシティガードと同様に戦力として見られていますもの。近い方が何かあったときに対応もできますでしょ?」
その言葉に渚が納得という顔をしている間にも一行は管理局に近付いていき、そのまま施設内へと入っていく。その管理局の施設はコの字のようになっていて、中央の広間にビークルを止める駐車場もあった。最も今は二台ほどビークルが置いてあるだけで、ほとんど空いている。
「んー、結構空いてるな。いつもこんななのか?」
「ビークルの個人所有はあまり多くはありませんし……けれどもいつもよりも少ないですわね。戻ってきていない狩猟者が多いのかも?」
その状況にはリンダも疑問を感じているようで、首を傾げていた。
そして渚たちのビークルが停車すると、施設内から局員らしき人物が慌てて出てきて隊長であるダンと話してさらに大慌てで中に戻ると、すぐさま人数を揃えて戻ってきて二台のビークルに積まれた素材を降ろし始めた。
それから施設内からやたらとゴツい男が出てくるのが見えると、リンダが渚に「あの方が局長ですわ」と口にした。
「局長って言うと一番偉い人か?」
「そうですわね。ライアン・ブルーギル。クキシティの狩猟者を統率している方ですわ」
渚が「なるほど」と頷きながら、ライアンを見た。見た目からして、ゴリラという感じである。
「なんか強そうなおっさんだな」
「もちろん強いですわよ。今もゴールドランクを保持しておりますし、両腕がマシンアームです。あの方は拳の一撃でアーマードベアをも破壊できると聞きます」
その言葉に渚が「マジか」と口にしたが、リンダの顔も冗談を言っているようには見えなかった。どうやらマジのようである。
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「よく帰ってきたなダン。死んじまったかと思っていたぞ」
そして、渚とリンダがやり取りしている前では、ライアンがダンの肩を叩いて笑っていた。
対してダンは申し訳ないという顔である。
「すみません局長。今回は随分とやられました。五年ぶりですかね。ここまでひどいのは。まったく、すべては俺の力不足のせいだ」
「そう気に病むなダン。シャッフルだ。仕方がない。連絡が付かない連中もまだいるしな。お前んとこも含めてみんな全滅したっていう可能性も考慮してたんだぜ、こっちはよ?」
そのライアンの言葉に、ダンの表情はさらに険しくなる。
それは、今回の被害が自分たちだけではないのだということと同時に、管理局自体が相当に痛手を受けていることでもあったからだ。
「それに一応報告は受けたが、帰り道では随分と活躍したそうじゃないか。アーマードベアの巣の駆除にアルケーミスト確保。シャッフル後だが、これでアゲオ村までのルートは確保できたわけだ。大金星だぞダン」
「いや、それに関しては主にあの新人の活躍のおかげではありますがね」
「ほぉ?」
ダンが渚に顔を向け、その視線を追ったライアンが目を細める。
「リンダと一緒にいる、あの小さいのがか?」
「ええ、戦闘特化のメディスン系マシンアーム持ちです。さらにメディカロイドとビークルも所持し、リミナが気に入ってリンダとも組ませてる。眼爺も気にかけていましてね」
「眼爺がか。そりゃあ、期待の新人だな」
そう言って笑うライアンの視線に気付いた渚が、ペコリと頭を下げる。その様子にライアンが笑った。
「ふん。そこまで品があるようには見えないが、いいとこの嬢ちゃんって顔つきだな。で、聞くまでもなさそうだが……お前の見立てでは使えるのか?」
その言葉にダンは強く頷いた。
「間違いなく有能ですよ。今後はここを中心に活動することを希望しています。今の状況ならなおさらに必要な人材でしょうね。できれば、他に流れないようにしておきたいくらいには」
「そうかい。分かった。中で手続きの準備をしておく。しばらくしたら来るように伝えてくれ」
それにダンが頷くと、ライアンは「頼んだぞ」と言ってきびすを返して施設へと戻っていく。そして、ほどなくして渚とリンダはダンの指示で、狩猟者調査局の施設内に向かうこととなった。
いよいよ、渚が正式に狩猟者となるときがきたのである。
【解説】
狩猟者管理局:
各都市部にある狩猟者たちの管理を行っている組織。埼玉圏を統治しているコシガヤシーキャピタルの公共組織であり、都市商会やアンダーシティとも繋がっている。
なお、瘴気の影響により通信網が脆弱であるため、都市ごとの管理局は上下関係のない独立した組織となっており、狩猟者登録は各都市ごとに行う必要がある。




