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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第040話 渚さんと外の住人

『さっきのは酷かったな』

『ええ、まったく』


 瘴気の霧に包まれた道中のビークルの屋根の上で渚がうんざりとした声で呟き、リンダがそれに同意の頷きを返していた。並走して歩いている他の狩猟者ハンターたちもゲッソリした様子である。

 何しろもう目的地も間近というところで、20を超えたスケイルドッグの群れに襲われたのだ。リンダ曰く、街の近隣でそんな数は見かけたことのないそうで、眼爺の発見が遅ければ危うく負傷者が出るところであった。ちなみに今回はミケも見逃していたようで『だって、僕はナビ専門だしね。あんまり期待されてもね』と言い訳をしていた。


『多分近くに巣ができたんですわ。街の近くですから早々に調査して、すぐに片付けられるでしょうけど』

『そう願うぜ。ありゃ心臓に悪い』


 渚がそう言いながら、霧の先を見る。もうフィルタリングせずとも、並び建つ建物の影が見えていた。


『で、見えてきたな。アレがクキシティだよな?』


 渚の問いにリンダが頷く。

 クキシティは埼玉圏内では首都であるコシガヤシーキャピタルに次いで大きな都市だそうで、地下にはリンダの実家のあるクキアンダーシティが存在しているとの説明を渚は受けていた。

 なお、アンダーシティは市民IDなしでは中に入ることが基本できないのだが、地上部であるシティはそういう制限はなく入り口の審査のみで入ることが可能であり、狩猟者ハンターたちもその中で暮らしているとのことである。

 そして、ビークルが街に近付いていくと徐々に街の周囲の状況が見え始めた。

 クキシティの周囲はアゲオ村と同様に鉄板を重ね合わせた壁が囲っているようで、また壁の外には難民キャンプのようなテントが立ち並んでいた。

 それを見て渚が眉をひそめる。


『大量のテント? なんで壁の外にあるんだ?』


 その呟きにリンダが『やっぱり目がいいですわね』と口にする。

 リンダの肉眼ではまだ、そこまでは見えていない。


『あれは市外住人アウターと呼ばれる方々が暮らすテント街ですわね。アンダーシティの地上部はアゲオ村と同じく、アンダーシティから排出されたナノミストの影響がありますのよ。で、壁を超えたあの辺りまではナノミストが届いておりますので街で暮らすことを許されない方々はああして壁の外にテントを張って生活しているわけです。時折機械獣に襲われることもありますが、それでも生活は可能ですから』

 

 リンダの説明に、渚が『ああ、そういうことか』と頷いた。

 そうこうしている内に街のすぐそばまで近付いてきたが、テント街には渚の想像通りのみすぼらしい姿をした住人たちが生活していた。

 彼らは渚たち狩猟者ハンターが通りがかると顔をそらし、またテントの中に逃げていく者もいた。その様子にまたも渚が首を傾げる。


『なんだ? ビビられてる?』


 首を傾げる渚にリンダがなんとも言えない顔をしながら『ええ、怯えているのですわね』と答えた。


『バイオスフィアとしてある程度完成しているアンダーシティとは違い、地上の生活は狩猟者ハンターのもたらすアイテールに支えられています。けれども狩猟者ハンターは機械獣と戦う暴力の象徴でもありますから、彼らにとっては恐怖の対象でもあるのだと聞いていますわ』

『ふん。そりゃあ、随分と緩い説明じゃな。教えたのはルークじゃろう。相変わらずあいつは甘いの』


 リンダの話に、そう口を挟んだのは眼爺だ。

 彼は今、腰が痛いと言って渚たちのビークルの上で休憩中であった。


『単純に馬鹿どもが暴れることも多いから、連中は狩猟者ハンターに関わり合いになりたくないだけじゃよ』

『んー、どういうことだよ眼爺?』

『言葉通りじゃよナギサ。ダンの集めている連中は比較的まともなのが多いが……まあ、狩猟者ハンターなんてのはあぶれ者の行き着く先でもあるんじゃ。で、素行の悪いのが市外住人アウターに乱暴を働くことがある』

『は? なんだよ、それ? 誰も止めないのか?』


 その渚の疑問に、眼爺は首を横に振る。


『誰が止める? あれらは市民IDがないだけではなく、地上の街に住むことも許されなかった者たちじゃ。要するにあの場にいること自体がよろしくない。とはいえ、離れれば生きてはいけぬのだからここを出るわけにもいかんしな』


 その言葉に渚が、リンダが眉をひそめる。


『大規模な騒動になれば治安維持にシティガードが動くが、まあそこまで行くのは稀じゃし、鎮圧されるのは不当にあの場所にいるあ奴らじゃから積極的に通報する者もおらん。それとなリンダ。あ奴らは基本自分たちで狩りを行い、アイテールを手に入れて生活の糧ともしておる。言うてみればワシらと同業じゃ』

『そうなんですの?』


 それは知らなかったという顔のリンダに眼爺が頷く。


『武器も持っておるし、原始的ではあるが罠などを用いてスケイルドッグなどを捉えたりもしておるんじゃよ。無論狩猟者ハンターほどアイテールを手に入れられるわけではないが、それが彼奴らがあの場にいることを許されている理由でもある。ま、狩猟者ハンターにしてみれば商売敵でもあるから、気に入らないヤツもおるし、単に弱いものをなぶって憂さを晴らしたい者もおるがな』

『そりゃあ、なんか嫌な話だな』


 渚の言葉に『そうじゃな』と言って眼爺が頷く。


『お前さんは連中をなぶるようなことはせんじゃろうが、狩猟者ハンター市外住人アウターは街にとっての存在価値が違う。故にそれが許される空気は確かにあるのじゃ。もっとも元市外住人アウター狩猟者ハンターというのはそれなりに多いのでな。そういうのは連中のために動いたりもする。まあ、実はワシもそうなんじゃがな』

『眼爺が?』


 渚とリンダが驚きの顔で眼爺を見ると『ホッホ』と笑い声が返ってきた。


『応とも。ワシは元市外住人アウターじゃ。だからアレらとトラブルがあったらワシに言うてくれて良いぞ。相応に金は取るがな。悪いようにはせんよ』

『ああ、そうかい。分かったよ。つってもトラブルなんてない方がいいんだけどな』


 その渚の返しに眼爺も『まったくじゃな』と返すと、それからまたひとり笑う。

 そして、そんな話をしている間にも一行は市外住人アウターのキャンプ地を抜け、ようやくクキシティの入り口へと到着したのであった。

【解説】

市外住人アウター

 シティの壁外部で生活をしている住人たちをそう呼んでいる。

 銃器の他に罠や原始的な武器を使って街近隣の機械獣や獣の狩猟を行い、それを収入源としている。

 なお、ナノミストの効果範囲内とはいえ街の外ではその効果も薄く、瘴気に身体を蝕まれ続ける彼らの平均寿命は短い。

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