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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
序章 再生の日
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第004話 渚さんと巨大な竜

(よっし! て、うわぁ)


 巨大な獅子型機械獣は葬り去った。しかし渚の勢いは止まらない。

 また、次の瞬間には渚の感覚が元の速度へと急速に戻っていく。


「おいおい。嘘だっ、ワブ!?」


 その状況に渚が慌てるも、義手はオートで動いていく。

 自動的にブースターを逆噴射させ、対衝撃用エアバッグをその場に出し、さらには広げられた補助腕サブアームが渚よりも早く地面に付いたことで衝撃のほとんどを殺していった。

 そして渚は特にダメージを負うこともなく、安全に地面への着地に成功したのである。


「い、生きてる? マジか」


 その事実に渚が驚きの顔をしていると、近寄ってきた猫が肉球をポンポン叩いて拍手をする。


『初めての実戦としてはとても上手くいったようだね渚。そしておめでとう。君は生き延びることができた』


 その猫の言葉に対して、渚が苦い顔をしつつも笑顔で頷く。今起きたことを反芻し、機械の怪物を倒せたという事実に興奮していた。


「あ、ああ。必死でやったらなんとかできたぜ。頭に何かを注入されたみたいに使い方が分かったけど……あ、あと……妙に頭が熱い感じが……する?」

『タンクバスターモード中にセンスブーストの加速倍率を著しく上昇させたからね。脳に結構な負荷がかかったんだよ。別に後遺症が残るようなことはないだろうけど、その腕と同様に続けての戦闘は厳しいだろうね』

「続けての……って、腕に牙が刺さってる!?」


 渚はまだシュウシュウと煙を出している己の義手を見て、驚きの声を上げた。

 拳のサイズは元に戻り、ブースターもシールドもエアバッグも、それに肩部の補助腕サブアームも今は収納されて元のサイズに戻っていたのだが、先ほどの機械獣の牙二本がまだ義手に突き刺さっていた。


『タンクバスターモードの一撃を受けても無傷とは面白い素材だね。けれど、今は調べている時間はないから、ひとまず刺さったままでもいいから逃げよう』

「逃げる?」


 眉をひそめた渚に猫が頷いた。


『続けての戦いは難しいと言っただろう。急がないと次が来るよ』

「え? けど、アレは倒したんだし……まだ気付かれてないんじゃあねえの?」


 この場に訪れた機械獣は破壊したのだ。ひとまずは安心ではないのかという渚の安易な考えを、猫は首を横に振って否定する。


『君は気付いていないだろうけど、タンクバスターモードと機械獣の激突で凄まじい衝突音が発生していたんだ。あの開いた扉から確実に外にも届いたはずさ』

「ゲッ」

『けど、大丈夫だよ』


 そう猫が口にしたのと同時に、渚の目の前にある床がせり上がっていく。


「おい、なんか入り口ができたぞ!?」


 目を丸くする渚の前で、隠されていた通路が出現していった。


『非常用の脱出路だよ。本当なら戦うような状況になる前に逃げたかったのだけれどね。ともかく、すぐに逃げよう。どうにもこの状況はおかしい』

「おかしいって、うわっ!?」


 渚が話している途中で、また床が揺れた。それに驚いている渚に猫が告げる。


『これは地震ではないよ渚。この基地は現在外部から攻撃を受けている。この施設の防壁を揺るがすなんて普通じゃない』

「普通じゃないってどういうことだよ?」


 不吉な言葉に渚が眉間にしわを寄せるが、猫は耳をピクリと動かすと扉の破壊された入り口の方を見て目を細めた。


『話している時間はないね。どうやらお代わりが来たようだ。さあ、行くよ渚』

「あ、待てって猫」


 さらりと駆けていく猫を追って渚が走り出す。そして、渚が中に入った後すぐに脱出路の扉は閉まり、再び床へと収納されていった。それから数秒後に別の機械獣たちが部屋の中へと飛び込んできたのだが、そこにあったのは破壊された機械獣の残骸と動かないロボットだけであり、脱出路の存在には気付けなかった。

 そして、その間にも渚と猫は脱出路を走り続け、その場から離れていったのである。




  **********




「ハァ、ハァ。ちょっと……もう置いていかれるかと思ったぜ」

『いや、物理的に僕が君を置いていけるはずがないんだけどね』


 扉の前に立つふたりがそう言い交わす。

 続く振動に揺られながらも渚と猫は延々と脱出路を駆け、出口の扉の前に辿り着いたのは三十分は走った後であった。それから渚が目の前の扉を見る。


「で、これが出口か?」

『そうだけど、ちょっと待ってて』


 そう口にして猫が一歩前に出ると、ゆっくりと扉が左右に開いていく。


「へ?」


 そして、起きた状況に渚が驚きの声を上げた。

 外からの大量の砂が通路の中へと入ってきたのだ。


「おい。なんだよ、これ?」

『おや?』

「砂、それに変な感じが」


 砂の流入はすぐに収まったが、外の空気を吸い込んだ途端に渚はツンっとした感覚を感じて顔をしかめる。強烈な刺激臭が外からしてきたのだ。


『ああ、どうやら外はかなり変わってしまったようだね。計画を考えれば『仕方のない』ことではあるのだけれど。しかし、この瓦礫は……原因は予想できるけど、どうやら想定外の事態も起きているようだ。状況は予想以上に悪いね』


 猫がそう言いながら外に出て、渚も口元に手を当てながら続いていく。

 そして、彼女の目に入ってきたのは白い霧に包まれたグレイの空と、岩と砂、それに巨大な墓標にも見える巨大な鉄の残骸が連なっている砂漠であった。

 渚は鼻腔を刺激する空気が薄れていくのを感じながら、映画の中でしか見たことのないようなおかしな光景に唇を震わせる。


「な、なんかヤバそうなとこだけどさ。ここ、どこなんだよ猫?」

『そうだね。君の知識から言えば、場所は埼玉かな』

「は? さい……たま? 嘘だろ!?」


 聞き捨てならない言葉を口にした猫に渚が思わず間抜けな声を上げたが、猫はその渚の疑問に返事をせずクルリと踵を返し、渚の後ろを見る動作をした。


『それよりもあっちを見て渚。『今の僕』は君の目を通してでないと確認が取れない。だから基地の方へと顔を向けてくれないか?』

『どういうことだ? まあ、そっちを見るぐらいはって……ハァ!?』


 猫の言葉に従って振り向いた渚が、その日何度目かの驚きの声を上げた。

 もっとも渚の目に入ってきたのはここまでで最大級の、今日一日の中でもっとも驚くべき存在だった。


『なるほど。あれの体当たりを食らったら基地も揺れるわけだ。むしろあの振動だけで済んでいたのは奇跡だったか。一気に破壊するつもりがなかったから、あの程度で済んでいたのかな』

「おい猫。何だよ。何なんだよ、あれは?」


 ほとんど半狂乱に近い渚の叫びに猫は冷静に『さてね』と返す。


『あんなものは、基地のデータベースにはあんな生物の記録は存在していない。ただ、あれは大き過ぎるよ』


 猫の言葉の通り、それは尋常ではない巨体の生き物だった。

 それから渚は気付く。自分が通っていた脱出路の方向と移動距離を考えれば、恐らくその巨大生物は、先ほどまで自分のいた場所の上にいるのだろうと。


「な……なあ、猫。あの場所って、さっきいたところだよな?」

『うん。あの巨大生物の下にある地下施設が君の生まれた場所だ。ほら見て渚。緑の爆発が起きているだろう。アイテールのプールに侵入されたことで基地が自爆を開始したんだ。けれど果たしてアレに効果があるのかどうか……』


 猫も己の言葉に自信がなさげである。何しろ、それは全長にして1キロには及ぶであろう、緑色をした巨大で長い生物だったのだ。形だけであれば蛇やミミズに近いが、その圧倒的な大きさからソレにはもっと相応しい名前があるように渚には感じられた。つまり、その名は……


「……ドラゴン」 


 渚が一言、そう呟く。

 そして、その名こそがまさしく巨大生物を正しく言い表したものであり、その存在こそがこの終末世界の頂点にあるものだと渚が知るのは、まだしばらく後のことであった。

【解説】

軍事基地:

 渚が生まれるまでの678年もの間、動いていなかった軍事基地である。詳細は不明だが、それは地下に埋まって閉鎖されていて、その原因を含むあらゆる情報は爆発の中で消失した。

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