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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第039話 渚さんと戦利品

『ダン隊長。外まで運べやしたぜ』

『おし。こりゃあ予想以上に上物だ。丁寧に持ってけよ。壊したら大変だからな』


 戦闘終了後の天遺物の前。そこではダンの指示によって狩猟者ハンターたちがフラスコのような機械獣を中から運び出していた。

 それは捕縛弾で完全に身動きを取れないようにされていたが今もまだ生きており、名を『アルケーミスト』という有機物をアイテールに変換するという機械獣であった。

 道中で修理し回収した狩猟者ハンター調査局のビークルへとそのアルケーミストが運ばれていく。

 その様子を自分のビークルの上に乗って眺めている渚がリンダに尋ねる。


『なあリンダ。あれがアルケーミストってヤツなんだよな? なんかアーマードベアっぽいような、蜘蛛みたいな変な格好してんだな』

『まあ、機械獣というのは役割に応じて変態しますから、統率個体としてのアンサーもそうですが、アルケーミストはすべての機械獣が大本の姿をベースに変化しますのよ』


 リンダの説明に渚が『へぇ』と口にして頷く。

 そのアルケーミストは、マッシュとダニエルから天遺物の中に完成間近のものがあるはずだと聞かされて回収したものであった。もともと動きが鈍い上に完成前で身動きが取れなかったようで、アルケーミストは一斉に捕縛弾を当てられて身動き取れずに捕まえられていた。


『高く売れるんですのよ、アレ』

『あれがねえ』


 渚が眉をひそめながら、そう答える。

 先ほどの地獄のような部屋の中の光景が頭の中にちらつき、それからそれを頭の中から振り払うように渚は自分のマシンアームを見た。

 マシンアームからは今はケーブルが伸びていて、それはビークルと、ビークルの左右に付いたものに繋げられていた。それからミケがうにゃうにゃと奇妙なダンスを踊っている。それはプログラムを組んだり、制御したり、調整したりしている動作らしいのだが、渚には踊っているようにしか見えなかった。


『で、どうだミケ。上手くいってるのか?』

『うん。接続は完了したよ。ジョイントモジュールがビークルとの同期を上手くやってくれているから間に僕が調整しなくても問題ないね。なるほど、こういう風に使うのか。じゃあミランダ、ちょっと試してみよう。動かしてくれるかい?』


 ミケの言葉に運転席にいるミランダが『分かりました』と答え、続いてビークルに取り付けられた左右の物体が動き出す。


『え、もう動くんですの?』


 その様子をリンダが驚き半分、呆れ半分な顔で見ながら声を上げる。

 このビークルに設置された物体の正体はアーマードベアアンサーの右腕と左腕であり、レギオンラットから手に入れたジョイントモジュールを使ってビークルと接続されていた。そして、今まさにミケの指示でミランダがテストを開始し、両腕が動き出したのである。


『おう。今はミランダと同期して動作チェックしてるっぽい』

『な、なるほど。ホントにマシン技師と同じようなことがその腕はできてしまうんですのね。メディカロイドと機械獣の腕の同期なんて可能でも普通やらないですわよ』


 メディカロイドを戦闘用に使う人物も少ないが、その調整が可能な者も多くはない。


『いやー、リンダの分の報酬分まで注ぎ込ませてもらって手に入れたんだしな。上手くいって良かったぜ』

『一番良いパーツらしいからね。まあ、これ以外の取り分がほとんどなくなるのも仕方ない』


 ミケの言う一番良いパーツとは、アーマードベアアンサーの左右の腕のブースターのことであった。ダンの説明では背のブースターが一番高く売れるそうだが、それは渚が破壊してしまったしそもそも確保できる状況でもなかった。

 ともあれ今回倒した機械獣の中では腕のブースターが一番高価な換金品であり、次点でエアウォール発生装置であった。こちらも制御装置を付ければ使用することも可能とのことだが、今回は管理局で換金されて狩猟者ハンターたちに配分されることになっている。

 そしてアーマードベアの両腕だが、これは渚のビークルの左右に接続されてブースターとして使用することも可能であるし、内部で操縦しているメディカロイドのミランダと同期することで腕として動かすこともでき、自衛手段としても機能するようにミケに調整されていた。それが渚とリンダの今回の戦闘での取り分であった。

 換金額から換算すれば美味しい部分だけ持っていった形ではあったが、今回の活躍のほどからも、換金ではなく実際に使うとしたことからも、特に反対もなく受け入れられたようである。半数は渚の説明に『そんなこと、できんのかよ?』と半信半疑ではあったようだが。


『ほほぉ。メディカロイドと同期させて腕としても機能させるとは、まったく信じられんことをする娘じゃな』

『あ、眼爺』


 それから渚とリンダが話しているところに、眼爺がトコトコと歩やってきた。


『それでナギサ。どうじゃ、腕の方は? 動いてはいるようじゃが』

『ああ、ミランダが同期に成功したらしいし、問題なく使えるってさ』

『なるほどの。随分と高性能なようじゃな。お前さんの見えている猫は』


 その言葉に渚と、またミケもギョッとしたような顔をした。


『は? が、眼爺。なんで、それを……いや、まさか見えてんのか?』

『ふん。年寄りの目を舐めんことじゃな。見えずとも見えることもある。とはいえ、早々気付くもんもおらんじゃろうが』


 その渚と眼爺のやり取りを横で聞いているリンダは意味が分からず、首を傾げる。


『あのー。ふたりとも、なんの話をしてるんですの?』

『ああ、ちょっとな。いや、リンダには街に着いたら話すよ。約束してるしな』

『はぁ?』


 その渚の返しにもリンダは眉をひそめるも、後で話すとは言われたのでそれ以上問うことはしなかった。その様子を見ていた眼爺が『ホッホ』と笑う。


『ナギサ。お前さん、どうも色々とチグハグなようじゃな』

『眼爺。あんた、なんかすげー見透かしてる感じだな?』

『まさか。言うほど、ワシも分かっておるわけではないわ。ま、隠しておくのは自衛として悪くはないがな。むやみに手札を見せぬのは賢い選択よ』

『お、おう』


 眼爺の言葉に、どうやら褒められているらしいと察した渚が頷く。

 それからリンダが眼爺に尋ねる。


『それで眼爺。アルケーミストは捕まえられたようですけど、天遺物の探索はしないんですの?』


 アーマードベアたちは残らず壊滅したために、彼らが拠点としていた天遺物内にある遺失技術ロストテックの探索が今なら問題なく行えるのだ。だが、眼爺は首を横に振った。


『そうしたいと言っておるもんもいるんじゃがな。今は急ぎじゃ。正直シャッフルの影響がどこまであるか不明な以上、この先がどうなっておるかも分からん。その上に弾薬が尽きかけておるでな。残しておくのも危険じゃて』

『まあ、確かに』


 渚の言葉にリンダも頷く。

 先ほどのアーマードベアとの戦闘で、各人が用意した弾薬のほとんどが使用されていた。渚のビークルに積んである弾薬を買い取りたいと話を持ってきた狩猟者ハンターも何人かいたほどである。


『ま、最大の成果はもうビークルに積んだのでな。アレを早く持ち帰ることが急務なんじゃよ。アンダーシティに恩が売れる機会はそう多くはないでな』

『なあなあ眼爺。あのアルケーミスト、あれがアイテールに変えるんだよな?』 


 渚がビークルに積まれたアルケーミストを見て、眼爺に尋ねる。


『そうじゃな。アンダーシティでは独自にアイテールの製造も行っておる。アレは、そのための予備パーツとして使えると聞いておる……が、何か気になるのかな?』

『いやさ。あれが死んでる奴らをアイテールに変えようとしてたってのがなぁ』


 死体の積まれた部屋を思い出しながら、渚がそう答える。先ほど見たものは、忘れたくとも忘れられない光景だ。だが眼爺はその渚の懸念も察した上で首を横に振る。


『どうやら、あの部屋の中を思い出しておるようじゃが正確には材料となるのは有機物じゃ。アンダーシティでは生ゴミや人工育成した藻などを変換するそうじゃよ』

『ああ、そういう使い道もあるのか』

『そういうことじゃ。それが本来の使い道じゃよ。機械獣にとってもな』


 その言葉に渚が首を傾げると、眼爺が己の言葉を補足する。


『別に機械獣はワシらを優先して狙っておるわけではないのじゃよナギサ。アレらにしてみれば、ワシらはたまたま見かけたアイテールの材料に過ぎん。街にもほとんど近付かんしな』

『そうなのか?』


 渚の問いに眼爺とリンダが頷く。それから、ふと眼爺が別の場所へと顔を向けた。


『おっと、あちらも終わったようじゃな』


 その眼爺の視線が向けられた場所では、炎が広がり始めていた。


『ああ、こっちでも祈るんだよな』


 それは狩猟者ハンターたちが運び出した仲間の亡骸に火を付けたところだった。

 それから眼爺に呼ばれて渚とリンダもその場に向かい、他の狩猟者ハンターたちと共に黙祷の祈りを捧げる。これもまた狩猟者ハンターの終わりなのだと眼爺は口にし、ナギサはその炎を見て目を細めた。

 そして、すべての後始末をひとまず終えた渚たちは再び移動を開始する。

 道中に何度か機械獣との遭遇はあったものの問題なく撃退には成功し、その翌昼には彼らは目的のクキシティへと辿り着いたのであった。

【解説】

ブースターアーム:

 アーマードベアアンサーの腕の名称であり、背部のメインブースターと含めて高額で買い取りがされている。

 制御が難しいため通常は分解してブースターのみを使用し、渚のように腕としても使うのは珍しい。

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