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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第037話 渚さんとタッグファイト

『渚、ストップ!』

『リンダ、下がれッ』


 戦闘開始。だが両者の激突はすぐには発生しない。

 ミケの警告が飛んだのと同時にアーマードベアアンサーが咆哮し、渚とリンダが距離を取ったのだ。そしてアーマードベアアンサーの正面に竜巻のようなものが発生して霧散した。


『エアウォールですの?』

『あんのクマ野郎!』


 リンダが眉をひそめ、渚が舌打ちする。あのまま接近していたら、間違いなくエアウォールの範囲内に入っていた。


『気を付けてよ渚。あの風の壁のようなものは、目には見えないけど破砕効果のナノミストも含まれている。ぶつかれば弾かれるだけじゃなくてヤスリで削られたみたいにダメージを食らうよ』


 それから続くミケの忠告に渚が『ゲェッ』と声を上げる。

 もっとも警戒して構える渚たちに対して、アーマードベアアンサーはすぐには追い打ちをかけてはこなかった。


『あん。なんだ?』

『見てよ渚、ほら内側から熱風が噴き出してる。冷却中なんだろうね。あの巨体をブースターで飛ばすのは相当に負担をかけてるんじゃないかな』


 その言葉に渚が目を細めて、なるほどと頷いた。


『じゃあ、チャンスなんじゃないか? で、ミケどうだ。なんか倒す手段はあんのか?』

『そうだね。タンクバスターモードなら仕留められるだろうけど……ここで使用するわけにはいかないし』


 ミケの言葉に渚が頷く。タンクバスターモードは作戦の最後に必要なもので、今使用するわけにはいかない。


『バスターモードならいけるだろうけど……リーチがな』

『だったら、こうしよう』


 ミケがそう言うと補助腕サブアームが動き出し、獅子型機械獣の牙『メテオファング』が右腕の先へと爪のように装着された。


『お、なんかカッケエ』

『これならアレの装甲も斬り裂けるだろう。だけど、接近戦はさすがに厳しいと思うけどね』

『確かになぁ』


 渚がアーマードベアアンサーを改めて観察する。

 アーマードベアよりも大きな体躯に、背と腕に装備されているブースターによって高い機動力も有している。まともにぶつかり合うのが難しいのは一目瞭然だ。


『それとブースト付きの腕が厄介だ。あれは速いよ』

『……だな』


 先ほどの正面衝突を思い出した渚が身震いする。

 直線で来たからこそ受け止められたが、まともにぶつかれば命はない。


『とはいえ、このままにらみ合い続けるわけにもいかない。ひとまずはリンダを前面に出して、僕たちはアイツを倒す手段を探すんだ』

『おい、それってリンダの負担が大きくないか?』


 眉をひそめた渚にミケが首を横に振る。


『全員が生き残るために必要なことだ。時間をかければ他のアーマードベアが来る。あいつは当然それも狙っているはずさ』


 その言葉に渚は少しだけ考えた後『分かった』と頷いた。

 コンビである以上は一蓮托生。遠慮していては勝てるものも勝てなくなると渚も分かってはいた。それから渚がリンダに声をかける。


『リンダ、悪いがちょっと足止め頼んでいいか?』

『足止め? ええ、分かりましたわ。釘付けにしてやりますわよ』

『渚、来るよ!』


 そして、ミケの声と共にアーマードベアアンサーがブーストを噴射して再度飛びかかってきた。冷却は完了したようで、対してリンダと渚の双方も動き出す。


『リンダ!』

『お任せを』


 迫るアーマードベアアンサーに対して、リンダが対装甲弾頭を撃ち放つ。対してアーマードベアアンサーはエアウォールを発生させるが、弾頭はアーマードベアアンサーにではなく、その真下に放たれていた。そして弾頭は地面に直撃すると爆発を発生させる。


『GuO!?』


 爆発の衝撃波に当てられたアーマードベアアンサーの巨体が吹き飛び、勢いよく地面を転げていく。


『上手いな』


 その様子に渚が思わず呟く。アーマードベアアンサーには大したダメージはないだろうが、足止めであれば十分な対応だ。


『ほら、こっちですわよ』


 続けてサブマシンガンを撃ちながらのリンダの挑発にアーマードベアアンサーが吠えながら向かっていくが、マシンレッグの機動力に翻弄され、その動きを捉えることはできない。一方で渚とミケは、距離をとりながらアーマードベアアンサーの様子を観察しているが、渚の方はすでに目星はついていた。


『うーん、やっぱりミケ、背中でいんじゃねえ?』

『そうだね。渚、ブースターを狙おう。装甲板が閉じているが、あれは他の装甲より薄いし、メテオファングなら斬り裂けるはずだ』


 渚の指摘にミケが同意すると、渚はリンダに向かって声を上げる。


『リンダ、今から仕掛けるぜ。もう一度対装甲弾頭で牽制頼めるか?』


 そして渚の言葉にリンダが頷くと、すぐさまサブマシンガンから二連グレネードランチャーへと武器を切り替えアーマードベアアンサーへと銃口を向けた。


『撃ちます!』

『センスブースト!』


 次の瞬間、リンダの二連グレネードランチャーから対装甲弾頭が射出され、センスブーストを発動した渚の時間感覚が加速する。同時にマシンアームから飛び出たブースターが火を上げ渚の感覚だけではなく、身体自体をも加速させていった。


『渚、来るよ!』


 直後にミケが叫び、その言葉の通りにアーマードベアアンサーが渚に向かって突撃してくる。そして、リンダの撃った対装甲弾頭をアーマードベアアンサーはエアウォールを使わず左腕で防御し、さらには右腕を渚に振り下ろしてくる。

 それはつまり、アーマードベアアンサーはリンダの攻撃を防ぎきることよりも渚を倒すことを優先したということ。またアーマードベアアンサーの両腕にはそれぞれブースターがあり、それは加速している渚であっても捉えられぬほどの速度をしていた。


(けど、甘ぇえよ!)


 しかし、渚は恐れることなくマシンアームのブースターをさらに加速させ、迫る巨大な腕をかいくぐる。

 それにはアーマードベアアンサーがギョッとしたような反応を見せたが、渚も相手の動きを見て避けたわけではない。けれども、それが来ることを渚はすでに『予測していた』。


(ギリギリだけど、さすがに行動予測は正確だな)

『リンダの攻撃様々だね。アレのおかげで随分と計算が楽だった』


 リンダが攻撃しアーマードベアアンサーの行動が狭められたことで、その先の選択肢は完全にチップの予測範囲内に収まっていたのだ。だから速度があろうとも、渚は相手の行動予測を見ることでかわすことが可能であった。


(で、背中は取ったぜ!)


 そのまま背へと回りこんだ渚がブースターを護る装甲板をメテオファングで斬り裂くと、続けざまにアーマードベアアンサーの背を蹴ってその場から跳び下がり距離を取る。


『これでブースターが丸見えだ渚!』

(ああ。そんじゃ)


 そう心の声で応えた渚が空中でライフル銃を構え、銃下部のアドオン式グレネードランチャーのトリガーへと指をかける。

 装填されているのはリンダが撃ったものと同じ対装甲弾頭。そしてチップによって演算された弾道予測線は剥き出しになったブースターへと向けられ、


(これで終いだ!)


 渚がトリガーを弾いたと同時に射出された弾頭が計算通りにブースターの中へと吸い込まれ、アーマードベアアンサー内部で爆発が発生して全身から炎が吹き上がった。


『GuOooooooooooN!!?』

『やったか!』


 センスブーストを解いた渚がそう声を上げる。それほどに見事な一撃であったが、ミケは『いや』と口にしながら首を横に振った。


『ブースターとコアの間の装甲板が予想外に硬い。あいつのコアまでは届いていないね』


 そのミケの指摘の通り、アーマードベアアンサーはまだ終わってはいなかった。吹き上げた炎を纏ってはいるが、未だに活動を続けている。


『おいおい。まさかあの攻撃でも倒せないのかよ!?』

『どうやら、そのようだ。けれど失敗じゃないよ。だって、あいつはもうまともにブーストできない。もう十分だ。行こう渚』


 その言葉に渚が驚きの顔をミケに向けた。確かに倒せなかった。だが、それでも相手のダメージは甚大。であればと思う渚に対してミケは再度首を横に振る。


『目的を忘れちゃいけないよ渚。背のブースターを破壊した以上、アレはもう僕たちを追って来れない。それにね。時間が経てば他のアーマードベアが来るんだ。いや、来た』


 ミケの指摘に、渚が先ほど通ってきた通路に目を向けると、そこには確かにこちらに向かってくるアーマードベアたちの姿があった。その様子に渚は舌打ちしながらも頷いた。


『わーったよ。しゃーねえな、こりゃあ』


 このまま戦えば、合流したアーマードベア二体とも戦うことになる。ここまでの経験上、それらを相手にしても勝てないとは渚も思わないが、問題なのは時間だ。

 外で戦っている狩猟者ハンターたちのことを考えれば、今は救出を優先してこの場を去らねばならないのは渚も承知していた。


『リンダ、もう十分だ。このまま下がるぞ』

『え? ですが……いえ、そうですわね。承知ですわ』


 諦めのついた渚の言葉にリンダも頷き、そして渚たちは追ってくるアーマードベアたちを後目に一輪バイクとマシンレッグを使って一気に壁を駆け上がると、外への脱出に成功したのであった。


 一方で外で戦っている狩猟者ハンターたちだが、彼らは『当初の予定通り』に徐々に追い詰められつつあった。

【解説】

メテオファング:

 獅子型機械獣メテオライオスの牙の名称。アイテールナイフの材料としては最上級であり、タンクバスターモードでも破壊することは叶わないほどの硬度を持つ。

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