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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第034話 渚さんと熊穴スニーク

 ストンっと一輪バイクが通路に降り、それに続いてリンダが開いていた窓から入ってくる。


『ふぅ、静音モードだとトロいんだよな』

『中で移動する分には十分ですわよ』


 渚の言葉にリンダが小声でそう返す。

 渚の乗る一輪バイクは現在モーター音が著しく小さくなる静音モードでの侵入となっていた。そして、ふたりと一匹は侵入した天遺物の周囲を見回し、警戒しながら先へと進み始める。


『移動経路と周辺のマップは記録している。戻るときは案内するよ』

(頼むぜミケ。にしても、クマ野郎と鉢合わせなきゃいいんだけどな)

『可能性はあるよ。

外の見張りは陽動には引っかかっていなかっただろう』

『だな。やるとしたら、さっきと同じ感じで行くか?』

『何を一人でブツブツ言ってるんですの?』


 思わず漏れた独り言に、リンダが訝しげな視線を向ける。それに渚が『あ、いや』と言ってわははと笑う。


『もしアーマードベアと鉢合わせしたら、さっきと同じようにすりゃいいかと思ってさ』

『そうですわね。私にナギサほどの射撃精度はありませんし、外での通りに即座に決めてしまいましょう』


 射撃は渚の方が上だが、初速で上回るリンダの方がアーマードベアを即座に仕留められる。急造とはいえ、悪くないコンビネーションであった。


『二体までなら多分、頭は潰せると思う。それ以上は鳴かれる可能性が高いよ渚』

(そうか。数と場合によっては撤退するしかないな。ジョニーたちも内部までは覚えてなかったしな)


 閉じ込められていた部屋を逃げ出したジョニーとマイクは必死に出口を探し脱出には成功したが、どこに閉じ込められていたかまでは記憶していなかった。ともかく必死に逃げ惑ったらしいのだが。

 それから渚がリンダを見る。逃げ出そうとして、ちゃんと付いてきてくれるのかという不安はあるが、その点に関しては出立前にダンより口を酸っぱくするほどに言われているし、信用することに決めている。


『それにしても状態がよろしいですわね。遺失技術ロストテックがあるかもしれませんわ』

『それって、地下都市で探してるもんだよな?』


 渚の問いにリンダは頷きながらも『天遺物からも取れるのですわ』と答えた。


『大気圏で内部が燃え尽きてなければ、ですけど。比較的新しく落ちたもののようですし、荒らされた形跡もなし。アーマードベアを片付けた後に探索すれば良い稼ぎになるかも』


 リンダの説明に渚が『なるほどなぁ』と口にしながら、周囲を警戒しながら見渡す。

 通路は薄汚れているが、渚が最初に目覚めた基地の内部と似ているような構造に感じられた。そして先を進もうとした渚にミケが『待って』と声をかけた。


『この先の通路の床、血と人の足跡だ』


 ミケの指摘に渚が先にある丁字路を見ると、横切るようにわずかな血と慌ただしく移動したかのような人サイズの足跡がいくつも確認できた。また渚の反応に気付いたリンダも、その跡に気付いて笑みを浮かべた。


『ナギサ、これって』

『ああ、そういうことだな。ジョニーたちのじゃねえの。となるとこの丁字路の右か左が』

『足跡の方向からすれば左だよ渚』

『左だな。ジョニーたちの足跡の方向から反対側にダニエルたちがいるはずだ』


 ミケの指摘に渚がそう言い切り、リンダが感心した顔をする。


『であれば、早く行きましょう。アーマードベアたちに見つかる前に』


 リンダがそう口にしている途中で、通路の先からガシャンという音がした。

 それに最初に反応したのはミケだ。


『渚、マズイね。あっちの部屋に隠れるんだ』

『おい、リンダ。こっちだ。早く』


 ミケのルートガイドが即座に表示され、それに従って渚が部屋の中へと移動し、リンダも慌てて続いていく。そしてふたりが隠れるとミケが補助腕サブアームの先に全天球監視カメラを繋げて、部屋の外へと出した。


(おい、ミケ?)

『端末にも表示する。リンダと確認をして。最悪、ここで撤退するしかない』


 ミケの冷静な言葉に渚が頷くと、端末に部屋の外の様子が映し出され始めた。


『ナギサ。これ、外ですわね?』

『ああ、なんか来るぞ』


 端末に映し出された通路の映像を渚とリンダが緊張した面持ちで見ていると、そこに巨大なクマ型の機械獣が通りかかった。


(こいつ、外のアーマードベアよりも随分とでかいな)


 それは先ほど渚たちが仕留めたアーマードベアをさらに大きく、装甲を厚くしたような姿の機械獣だった。それは先ほど渚たちがいた丁字路を特に気にすることなく通過し、そのまま通り過ぎていく。それからしばらくして渚とリンダのどちらともなく、安堵の息が漏れた。


『ふぅ。いったか?』

『ええ。けれど……厄介なのがおりましたわね』


 リンダの声が少し震えているのに気付いた渚が眉をひそめる。


『なんだよリンダ。あれ、結構ヤバいやつなのか?』

『ええ、相当に強力な機械獣ですわ。アーマードベアアンサー。見た目に反して、背のブースターで高機動戦闘を得意とし、対装甲弾でもほとんど貫けぬほどに装甲が硬い機械獣。特にこんな狭い通路の中で戦えば、逃げ場もなくすり潰されて終わりますわよ』


 その言葉に渚が『マジか』と呟いた。それから自分のマシンアームを見る。


(タンクバスターモードならいけるだろうけど、取っておかないといけないんだよな?)

『そうだね。最悪の場合には使うしかないけど、作戦の続行は不可能になる』


 ミケが頷く。最初に戦った獅子型機械獣をも倒したタンクバスターモードだが、使用すればしばらくタンクバスターモードが使い物にならないという欠点もある。ジョニーたちを助ける際に使用したことによる使用不可状態はすでに解除されてはいるが、現在の渚たちの作戦はタンクバスターモードが要となっている。迂闊に使うわけにはいかなかった。


(もしやり合うなら……別の手段でやらないと駄目か。にしても)


『アーマードベアの亜種なのか? あんなのもいるんだな』

『機械獣は群れを成すと、リーダータイプに進化して下を統率する個体が出現しますの。群れが増えれば、特殊個体も増えてもくるのですけど、アーマードベアの数からして、あれが多分、この群れのリーダーですわね』


 そう言ってリンダがアーマードベアアンサーの過ぎ去った通路を見ながら、答える。


『そいつが移動したってことは?』

『ダン隊長たちの元に向かっていったのかもしれませんわ』


 その言葉に渚とリンダが目を交差させ『急ぐか』『ええ』と口にし合って頷いた。時間が惜しい。ふたりはすぐさま動き出し、ダニエルとマッシュが拘束されているであろう場所へと向かいだしたのである。

【解説】

静音モード:

 渚の乗る一輪バイクのモードのひとつで、このモードにすることでモーター音がほとんど響かなくなる。

 回転数を抑えた上で出力を上げて無理やり動かしている為、アイテールの消費量も高く、必要がなければ通常は使用しないモードである。

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