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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第033話 渚さんと見張りのクマさん

『いやぁ。やっぱり結構な数がいるな眼爺』


 時間はわずかに遡る。

 渚たちがアーマードベアの巣の近くで待機している頃、ダンたちは正面から進んでアーマードベアの巣の周辺まで来ていた。

 すでに移動中に四体のアーマードベアを倒していたが、実際に巣にいる数から考えれば微々たるものであった。

 またアーマードベアの方もすでに襲撃には気付いたようで、無闇に攻撃を仕掛けてくることはなくなっていた。そして、彼らが辿り着いた先にはアーマードベアの群れが横に並んで待ち構えている光景があったのである。


『ふむ。お嬢ちゃんらは問題なく辿り着けたようじゃて』


 少しだけ横に視線を向けた小柄な狩猟者ハンターの言葉に、ダンが『見えたのか?』と尋ねる。


『姿までは無理じゃよ。動体反応だけわずかにあったが、まあ岩山をピョンピョン跳ぶ真似はアーマードベアにはできんしなぁ』


 そう言いながらも、ヘルメットからは無数のアンテナらしき針が、目からはレンズが伸びて、周囲を見回し続けている。

 マシンアイを持つサイバネスト、眼爺。彼が参加すれば死角はなくなり、戦いの流れすらも一変させることが出来得る人物として、狩猟者ハンターたちの間では一目置かれていた。

 リンダたちがアーマードベアに襲われたときに同行していれば奇襲を受けることも半数が殺される事態も回避できただろうが、彼は当時、廃地下都市のガードマシン対策の為にひとり残っていた。


『そうか。ふたりが上手くいけばいいが』


 そう言うダンの表情には不安があった。渚は彼にとってはまだ未知数で、リンダは飛び出したがる傾向にある。だが、そのダンの様子に眼爺が笑う。


『過保護が過ぎるなダン。リンダだけならば不安じゃが……まあ、あのドクロメットの嬢ちゃんがいるんじゃから、そう下手はせんだろうよ』

『ほぉ。眼爺がそこまで言うか?』


 ダンが驚きの顔で眼爺を見ると、眼爺が頷いた。


『うむ。あの嬢ちゃん、目がかなり良いようじゃからな』

『射撃と治療以外に近接戦も行けるらしいが、それに加えて目まで良いのか。ウチのチームに入れたいが』

『お嬢に先に取られたからな』


 続く眼爺の言葉に、ダンが肩をすくめる。


『リミナ姉さんの推薦だ。となるとあの子らはルークの管轄になるだろうな。相変わらず先手を打つよ。あの人は』

『ま、リミナ相手じゃあお前も霞むわな。それにあのナギサという娘、あれには何か、犬か、いやあの動きは猫か……』

『何の話?』


 眉をひそめたダンに、眼爺が『いや』と口にして首を横に振る。

 眼爺は渚の視界の動きから『見えない何か』がそばにいることを、その対象のおおよそのサイズや種別もマシンアイの予測によって把握していたが、それを口にする必要はないとも感じていた。それから『気にするな』と言うと視線をアーマードベアへと向ける。


『それはそうと連中、ようやくこちらに気付いたな。来るぞダン』

『数はどれだけだ眼爺?』

『リーダータイプはおらんが、二十二体おるな』


 その眼爺の言葉にダンの表情が引き締まる。迫り来る足音を聞き取った仲間の狩猟者ハンターたちもみなそれぞれの得物を構えて、戦闘態勢に入っていく。


『それじゃあ足りないな。その倍以上引きつけないとお嬢たちが危うい。ま、撃ちゃあクマどもも気付いてはくれるか』


 そう嘯いたダンがグレネードランチャーから閃光弾を打ち上げ、周囲に並ぶ仲間たちへと声をかける。


『それじゃあ野郎ども、ブチかますぞ。熊どもを全部潰すつもりで、盛大にブッ放せぇえっ』


 そして、ダンの掛け声に狩猟者ハンターたちが『オォォオオオオオオオオオオオオオ』と叫び声を上げながら銃を撃ち始めた。




  **********




『戦闘開始しましたわ』


 リンダがそう口にした。

 瘴気によって音は拡散されているが、それでも距離はそう離れてはいないから銃声が耳に入ってくる。故にそれに気付いたのは渚も同じであった。


『おう、アーマードベアも動き出してる。あいつら、確か目は良くないんだよな?』

『そうですわ。けれど、さすがにあの場所に居座っているのは片付けないとまずいですわね』


 二人の進行ルートの先。天遺物のすぐそばでは一体のアーマードベアがその場に留まっていた。戦いの音が聞こえていないわけではないはずなので、どうやら巣を護っている個体のようである。


『見張り番か。周りに……仲間はいないな』

『アーマードベアは鳴き声が届く範囲で、見張りを配置しているはずですわ』

『声か。一撃で仕留めないと危険ってことか?』


 渚の問いにリンダが頷く。


『そうですわね。もしくは声さえ出させなければ』


 そう言われて渚が自分のライフル銃を見た。

 その様子にリンダが『行けますの?』と尋ねると、渚が頷く。


『動かねえ相手なんざ的だ、的。ただあのクマ野郎のコアは装甲に護られているし、一撃で仕留められるかは分からないな』

『例えコアを撃ち抜いても短期間なら動き続けますし、声を上げられてしまうかもしれませんわ』

『じゃあ、どうすんだよ?』


 渚の問いに、リンダは『ナギサは先ほどのように頭部をお願いします』と返した。


『声を止めていただけましたら、トドメはわたくしが刺しますわ』

『トドメって、グレネードランチャーの対装甲弾頭か? あれだとさすがに音でバレないか?』

『いいえ、こっちですわ』


 そう言ってリンダが己の足をポンポンと叩く。それはマシンアーム、ヘルメス。それに渚が眉をひそめる。


『なあリンダ。機械獣の近接戦ってのは普通やらないんじゃないのか?』

『時と場合によりますわね』


 シレッと返したリンダに渚が苦笑する。


『今はそういうときってか。分かったよ、そんじゃあトドメは任せた』


 そう言って渚がその場で腰を落としライフル銃を構えた。弾道予測線が表示され、渚はアーマードベアの頭部に正確に狙いを定める。


『そんじゃあ、いつでもいいぜ!』

『では私が走り出したらすぐにお願いしますわね。Go、ヘルメス!』


 そう口にしたリンダがヘルメスを戦闘モードに起動するとすぐさま駆け、同時に渚が狙いを付けて引き金をくとアーマードベアの頭部がパンっと弾けて破壊される。


『ヘルメス。音を超えなさい!』


 そしてリンダのマシンレッグから緑色の炎が噴き出して一気に加速しながら、その足裏から緑光の刃が飛び出した。


『おいおい。足から刃が?』

『アイテールライトを纏ってるね。それにしても速い』


 飛び出たブレードは渚のマシンアームや獅子型機械獣の牙と同じもの。

 破壊指向のアイテールライトを纏ったブレードを輝かせながら、リンダは頭のないアーマードベアへと弾丸のように突き進む。


『頭部を破壊されてサブセンサーに切り替わる瞬間を狙えば』


 そして、リンダは棒立ちだったアーマードベアのコアを貫いた。渚が『おおっ』と声を上げ、リンダもその結果に笑みを浮かべる。


『やりましたわ。けど』


 しかし、リンダの表情はまだ緩んではいない。

 コアを失おうともわずかな時間であればまだ相手は動ける……そう説明したのはリンダだ。それを考慮していないわけもない。


『やはり、止まりませんわね』


 もはやエネルギーの供給もない巨体が最後の力で両腕を振るう。だがリンダは刃をすぐさまマシンレッグに収納すると、ブーストを噴かして一瞬でその場から離れた。

 そして、アーマードベアは虚空へと左右の腕を振るいながら崩れ落ち、その動きを止めたのであった。


『なんだよ。やるじゃん、あいつ』

『うん。なかなかの一撃だったよ』


 渚の言葉にミケも頷く。

 そして、手を振って終わったことを知らせるリンダに渚はアクセルを噴かして一輪バイクを走らせて近付いていき、合流したふたりは天遺物と呼ばれる建物の中への侵入を果たしたのであった。

【解説】

マシンアイ:

 マシンアイとはいうものの機能は視覚のみに限らず、眼爺は目を含めた複合センサーを頭部に移植している。視覚情報に関してはミケがフィルタリングしたものと同等クラスではあるが、それ以外のセンサーの精度を合わせれば、総合的にはミケとチップの能力をしのぐ性能を持っている。

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