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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
終章 終末の世界で謳う猫
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第319話 渚さんと高みの見物

 ミーティング終了後、即座に騎士団と狩猟者ハンター混成のカワゴエ救出隊は動き出した。整備班が徹夜作業で整えた武装を身に付け、騎士団と従騎士団、それに狩猟者ハンターたちがコシガヤシーキャピタルを発ったのである。その救出隊を指揮しているのはウィンドの参謀である今回司令代行となったヤマダで、彼のもとで騎士団を指揮しているのは上級騎士ジンロ、そしてその隊の中には当然渚たちの姿もあった。


「カワゴエを奪還後に即座にグリーンドラゴン戦か。こりゃあ結構ハードだよなぁ」


 メテオライオス・オメガとメテオライオス二体を周囲に配置した武装ビークルの車内で今後の作戦スケジュール表を見ながら渚がそう溢す。とはいえ、その言葉に焦りらしいものはなかった。確かに状況は悪化してはいるのだが、それでも渚たちがやるべきことは変わらず、迷う要素はない。必要なのはただ覚悟だけであったのだ。


『まあ、最悪カワゴエアンダーシティを明け渡すという手段もあるよ』

「いやミケ。そりゃあ駄目だろ」

『グリーンドラゴンの目的はアイテールだよナギサ。結果としてカワゴエアンダーシティはなくなるかもしれないけど』

「それでその後にあたしらがグリーンドラゴンに接触して宇宙に飛ばす……ってんだろ。そうなりゃ地下都市の住民が全滅するか、そうでなくとも路頭に彷徨う」

『そうだね。だから最悪といったのさ。でもね。君さえ生きていれば居場所を失ったカワゴエの地下市民をアゲオに移住させるという手段だってあるが、君が死んだら全部が終わりなんだ。ドンキホーテを気取る必要はないだろう?』

「む……いや、そりゃあそうだな。分かったよミケ」


 カワゴエアンダーシティ奪還もグリーンドラゴン追放も全ては十年後の瘴気が晴れるタイムリミットまでにアゲオアンダーシティを復興させるための過程に過ぎない。


「けど、半端はなしだ。やるからには全力で行く」

「そうですわね。それに戦うのはわたくしたちだけではないですわ。グリーンドラゴン戦には増援が間に合うとガヴァナー・ウィンドも言っておられましたし、そちらも期待しましょうナギサ」

「とはいえさ。増援つってもやれて機械獣の相手、グリーンドラゴンに対してはナギサとリンダ、お前らが要になるだろうよ。で、俺らの役目は露払いだ」


 ルークの言う通り、機械種ミケによって強化された渚とヘルメスの翼を使いこなし始めたリンダでなければグリーンドラゴンを相手に抗するのは難しいだろう。けれどもルークの言葉に渚は言葉を返すことなく、険しい顔をして立ち上がった。


「ナギサ?」

「んー、なんか来たっぽい。騎士団の方でも感知してるみたいだ」


 渚の言葉と同時にカワゴエ救出隊の前衛側が騒がしくなり始めたのが見えた。


「機械獣ですの?」

「それがちょっと妙でさ。うーん。ジンロさん、聞こえてるか。手助けはいるか?」

『おう、ナギサか。別に問題ねえよ。お客様は席について目的地まで大人しくしていてくださいってな』


 通信越しの渚の問いにカワゴエ救出隊の騎士団を指揮しているジンロがそう返すと銃声が響き始めた。そうしている間に渚のセンサーも敵の詳細を解析し始めていく。


『へぇ。スケイルドッグにグリンワームが融合してるのか』


 渚の目の前に3Dデータとして表示されたオブジェクトを眺めながらミケがそう口にする。映し出されたのはグリンワームが背骨のように融合しているスケイルドッグだった。その機械と有機体が融合したようなグロテスクな姿にリンダが眉をひそめる。


「かなり見栄えがよろしくないですわね」

『そうですねリンダ。グリンワームに美的センスはないようです』


 リンダとクロがそんなことを言い合う。その間にも渚のセンサーによって得られ得た情報はリアルタイムで共有され、騎士団とグリンワームに寄生されたスケイルドッグの戦いもその場に映し出されていった。


「さすがは騎士団。鮮やかなお手並みですわね」

「そうだな。けど、スケイルドッグが妙にしぶとくないか?」


 銃で撃たれたスケイルドッグが立ち上がって戦闘を再開している姿がたびたび見受けられた。中には明らかにコアを破壊された個体も動いている。


『コアを破壊されてもグリンワームが強制的に動かしているみたいだね』

「メテオライオスなどに寄生されたらかなり危険だな」

『グリンワームじゃランクの高い機械獣に寄生するのは難しいだろう……けど、数で攻めれば万が一もあるかもしれないか』


 渚たちがそんなことを話しているうちに戦闘は犠牲ひとつなく騎士団が勝利した。それからカワゴエ救出隊は再び動き出し、目的地に着く前にはグリンワームが寄生した機械獣の襲撃がさらに四度あったが、いずれも大した被害もなく撃退することに成功した。もっともその戦いが何の理由もなく発生した偶発的な遭遇戦……というわけではなかったようだと目的地の手前に到達した時に判明した。

 なぜならば、カワゴエシティの入り口前では、まるでカワゴエ救出隊が来るのを知っていたかのように地下侵攻していたはずのグリーンワームの群れが迎撃準備していたのである。

【解説】

寄生機械獣:

 グリンワームに融合された機械獣。機械獣のコアに加えてグリンワーム自体を機能停止させないと止まらず、また高い自己再生能力も兼ね備えている。作中ではスケイルドッグが相手であったために、大した脅威ではなかったが融合した機械獣次第では強敵となる可能性がある。

 なおこの状態では機械獣に課せられたアンダーシティや市民IDに対する制限は解除されるが、奪う以外にアイテールを手に入れる手段がないため、継続して稼働し続けることは難しいと思われる。

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