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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第031話 渚さんと救出作戦

※ストック尽きましたので、更新が毎日から火木土0時の週3に変わります。

『ダニエルとマッシュが生きてる……か。それは朗報だが……』


 ジョニーの言葉にダンが考え込む。


 仲間がまだ生きていること自体は良い知らせだが、とはいえジョニーの言葉が確かなら彼らは今敵の巣の中にいるということだ。さすがに判断しかねる状況だ。

 そして、その様子に渚がリンダに尋ねた。


『なあ、リンダ。どういうことだ? それにアルケーミストってのが問題なのか?』

『アルケーミストは有機物をアイテールに変える機械獣ですわ。群れの中の一体が変化するのですが、多分シャッフルによる移動直後でまだ生まれていないんです』

『……そんなのがいるのか』


 渚が頷くと、ダンが眉をひそめた。


『リンダ。ナギサはアルケーミストを知らないのか?』

『ええ、まあワケありでして』


 リンダが肩をすくめてそう誤魔化すと、ダンがさらに訝しげな顔をしたが特に質問を続けはしなかった。狩猟者ハンターはワケアリの者も少なくはないし、無理に掘り起こすのはご法度な業界だ。


『まあ、それはともかく……ジョニー。ふたりは生きているんですのね?』

『そうだリンダ。俺とマイクはどうにか抜け出して……それでアーマードベアに追い付かれてお前たちに助けられたんだ』

『なるほどな。経緯は分かったよ』


 ダンがそう口にし、目を細めて考え込む。そこにリンダが『ダン隊長』と声を上げると、ダンは厳しい視線をリンダに向けた。


『お嬢。お前、またか?』

『行きましょうダン隊長。危険だというのならば、最悪、私だけで救出に行くという方法もありますわ』

『無茶を言うな』

『ヘルメスの足なら、不可能ではありません』


 リンダが自分の足をパンと叩いた。

 マシンレッグヘルメスは高機動型のマシンレッグだ。であればと主張するリンダに、けれどもダンは『いい加減にしろ』と声を荒げて返した。


『またかと俺は言ったぞ。英雄願望も大概にしろリンダ。そんなものは捨てろと言ったはずだ』

『そんなつもりはありませんわ』


 リンダの返しにダンが首を横に振って、さらに言葉を重ねていく。


『いいか。あんたの婆さんは確かに伝説的な存在だし、そのマシンレッグには敬意を払ってもいる。その性能だってお前よりも知っている。だが、お前自身はトリー・バーナムとは違う。新米ニュービーがいきがってもすぐに死ぬのがこの世界だ。実際にナギサがいなきゃ、お前もマイクも死んでいた。そうだな?』


 ダンの指摘にリンダが悔しそうな顔で黙り込む。その様子に渚が頭をかきながら『なあ』と口を開いた。


『ちょっといいか。ダンのおっちゃん?』

『ナギサ。なんだ? 何かあるのか?』

『まあな。なあリンダ。さっきマイクをとっとと運べなかったのってさ。マシンレッグの出力の問題か?』


 渚の問いにリンダが首を横に振った。


『いいえ、マイクの怪我がひどくて運ぶのが危険だったからですわ。やられたのは内臓でしたし、とてもではありませんがヘルメスの移動に耐えられそうもありませんでしたもの』


 その言葉を聞いた渚が続けて、ジョニーに視線を向けた。


『ジョニー。その生きてるっていうダニエルとマッシュってのはひどい怪我なのか?』

『いや、怪我はして縛られてるが動かせないというわけじゃない。そういうヤツらはもう』


ジョニーが『亡くなっている』と小さく呟くと、リンダが俯いた。

 それには渚も眉をひそめたが、同時に妙に冷静になっている自分も感じていた。そして、そこまで話を聞いて自分の考えを纏めた渚が最後にダンを見た。


『なあダンさん。忍び込めたなら、あたしのバイクとリンダのマシンレッグでひとりずつ運び出すのは問題ないと思う』


 その言葉にダンが眉をひそめる。


『とはいえ、巣には多くのアーマードベアがいるだろう。ジョニー、アーマードベアの数はどれくらいだ?』

『見たところ、50は超えていたと思う……が』


 その言葉に周りの狩猟者ハンターから呻き声が漏れる。アーマードベアは二、三体でも狩猟者ハンターがチームになって挑む難敵なのだ。狩猟者ハンターたちが弱腰になるのも無理はない。


『結構な数だな。であれば陽動が必要だ。それに陽動に成功しても巣には見張りがいるぞ。連中は機械だ。そういうのは俺たち以上にキッチリしてやがる』

『数が少なきゃ、ぶっ倒せるさ』


 渚がマシンアーム『ファング』でグッと握り拳を作って、持ち上げる。その渚に続いてジョニーが口を挟む。


『ダン隊長。助けられた俺が言うのもなんだが……さっきの戦闘の跡を見れば、悪い話じゃあないと思うが……』

『狙撃の腕前は聞いているし、あれは確かにな。だがネズミと違ってアーマードベアを倒したのを見たのは』


 ダンがリンダを見る。先ほどの戦闘のもうひとりの目撃者は今ビークルの中で治療中だ。


『ナギサなら殴ってアーマードベアを倒してましたわ』

『メディスン系じゃねえのかよ!?』

『ゴリラかこいつ?』


 周囲にいつの間にか集まっていた狩猟者ハンターたちの言葉に渚が『誰がゴリラだ』と反論したが、ダンは少しばかり唸ったあと、さらにリンダに尋ねる。


『リンダ、対装甲弾頭はあと何発だ?』

『は、はい。リミナさんから十発いただいております。先ほど三発使ったのであと七発』

『よし、俺の予備を半分くれてやる』


 そのダンの言葉にリンダと他の狩猟者ハンターたちの表情が明るくなる。

 この場にいる襲撃を受けた狩猟者ハンターたちは皆、仲間を見捨てて村に逃げ戻ったことに負い目を感じていた。

 無論、そうしなければ全滅であっただろうし、行動に間違いはなかったとも理解しているが、それでも心に刺さったトゲは痛むのだ。ましてや、わずかでも抜くことができるかもしれないと聞いた今ではなおさらに。

 それはこの隊を率いているダンにしても同じではあったが、それでも彼は可能性の低い賭けには乗るつもりはなかった。そして、ダンは最後の問題を口にする。


『だが誘導したアーマードベアを撒くにはどうする? ビークルでは全員を乗せることはできないぞ』


 陽動と救出が成功したあとをどうするべきか。それに誰も声を発せない。諦めたわけではない。せっかく見えてきた可能性だ。誰もがその対応を必死に考えていると ……


『渚、僕に良いアイディアがあるよ』


 最後の答えを口にしたのは、渚の前で丸くなっているミケであった。

【解説】

アルケーミスト:

 三角フラスコと蜘蛛と大元の機械獣を合わせたような形状をしている機械獣。

 群れの中で一体だけが変異し、有機物を取り込んでアイテール生産を行う。

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