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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
序章 再生の日
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第003話 渚さんと輝く鉄拳

『これは間に合わないか。迎え討つしかないね』


 冷静にそう口にする猫に、渚が「おいおい」と声を上げる。


「どうやってだよ。そこのロボット、ウォーマシンとかいったか。あれは動かないんだろ? お前も幻みたいなもんだし、まさかあたしか? あたしにやれってのか? 同学年の男子相手だろうと喧嘩なら負ける気しねえけどな。さすがにあれは無理だぞ!」


 熊よりも大きなライオンのロボットである。

 渚が思わず無理と叫んだが、猫は『大丈夫だよ』と返す。


『接続したことでその義手のマニュアルも、今はチップを通して読み出せる。戦う方法を君はすでに会得しているんだ』

「マジでか!?」

『12秒後に室内に侵入される。さあ、備えて』


 そう話している間にも扉が今にも崩れ落ちそうなのは、渚も見えていた。


「やるしかねえのかよ。本当に大丈夫なんだろうな猫?」

『後7秒。センスブースト開始。通常戦闘は不可能と判断。ハンズオブグローリーをタンクバスターモードで起動させる。渚、行くよ?』


 その言葉に「どこに?」と返そうとした渚だが、自分の感覚が急激に変化していくのを感じた。


(なんだ、これ?)


 突如として己の身体が重くなったのだ。まるで水の中にでもいるかのように、何もかもがスローモーションの世界に放り込まれたような感覚が渚を襲う。


(ははは。んだよ、これ?)


 同時に覚えのない知識が頭の中を駆け巡り始め、センスブーストやタンクバスターモードの意味を渚は理解していく。


『腕を持ち上げるんだ』

(つっても重いし)


 猫の言葉に従って渚は己の腕を持ち上げるが、この世界では思うように動かない。けれども猫は渚に『それは義手だよ』と口にする。


(あ、そうか。生身では無理でも)


 この何もかもが重くゆっくりになる世界の中でも義手の出力であれば、通常時と同じ速度で腕は動く。そう理解した渚があっさりと所定の位置にまで義手を持ち上げると、ほぼ同時にドアが破壊されて通路からライオンにも似た機械獣が飛び込んできた。


(それに、今ならあいつの動きも見えるってわけか)


 相手の移動速度は恐ろしく速いのだろうが、センスブーストの効果により今の渚には相手の動きがはっきりと見えていた。


(ジャンプが、まるで空中を泳いでるみたいだな。時間が遅くなってる? いや、あたしが速くなってるのか?)


 そう心の声で呟く渚が続けて義手に緑光を纏わせる。

 その光は物質化して装甲となって義手を覆い、拳を肥大化させていく。併せて肩に巻きついていた八本の補助腕サブアームも動き出し、義手内部からもブースターと遮蔽板シールドも展開されて、


(って、おい。これってヤバ、飛)


 渚に与えられた知識が続けて何が起こるかを教えてくれる。だが、渚自身の意識がそれに追いついていない。


(んだぁあああああ!!?)


 次の瞬間、展開された八つの補助腕サブアームが床を蹴り上げて渚の身体を正面へと飛び出させると、同時に義手のブースターが緑色の炎を噴き出して、その身体を一気に加速させた。


『よし、このまま突撃だ』

(ぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!)


 猫の言葉も耳に入らず、渚は声にならない叫びを上げていた。


『叫んでないで相手をよく見なよ渚』

(ぉぉおお、んなこと言ってもなぁ)


 遮蔽板シールドにより今の渚は正面が見れない。

 横から見える世界はまるで静止しているかのようであったが、別にこれは時間が静止しているわけではないのだ。ただ渚の感覚が増幅され、それに併せてチップの力で思考も加速しているだけなのだ。

 また、この恐ろしくスローな空間の中において、猫だけは唯一変わらぬ速度で動いていた。横に並走している時点で異常な速度だが、それはあくまでフリだ。


『今の君ならアームに付いているカメラの映像も見えるはずだ。やり方も分かっているはずだろう?』

(見える? それってこうか?)


 渚が今まで自分の『頭の中にはなかったはずの』知識を元に、己の視界を切り替えると義手の先に付いているのだろうカメラの映像が瞬時に視界へと映し出される。


(お、すげえ)


 同時に正面の獅子型の機械獣の姿も見えた。


(なんだかコエエ顔してるな)

『肉食獣に近いフォルムだ。けれど、先ほどの人間たちとの戦闘で損傷しているようだし、アレを破壊できる力はその腕にある。操作は分かるね?』

(考えている通りに動くんだろ? やってやるよ)


 渚がわずかに曲がるように意識を向けると、義手のブースターが角度を変えて噴射し、横に避けようと動いている機械獣へと軌道を修正していく。

 視界には幾つもの軌道パターンが表示されているが、不思議とそれらの情報のすべてを渚は把握していた。


(さあ、ブチ抜け!)


 そう思考することで拳に宿った緑の光はさらに輝きを増していく。その姿はまるで緑の流星のようだ。そして、対峙する獅子型機械獣も避けるのを諦め、正面からぶつかることを選択する。


『GAOOOOOOOOOOOOOOO!!』


 機械獣のタテガミの緑光が輝きを増し、緑光の拳と緑光のタテガミが激突してその場で激しく放電現象を起こした。


(こいつ、こっちの攻撃に対抗して!?)

『大丈夫だよ渚。このまま一気に推し進めて!』

(分かってる! 確かに硬えが、いけるぜ。こりゃあよッ)


 渚がさらに出力を上げ、ブーストの緑炎がさらに大きくなる。両者の距離はもはやゼロに近い。渚の視線と機械の獅子の視線が交差し、どちらも叫び声を上げる。


(まだまだぁあ! もっとだ、もっと)


 そして、ついには機械獣の牙が渚の拳にまで届いて手の甲を貫くが、けれども渚は気にせず一気に力を込める。義手の中に宿る力を増幅させ、


(貫けぇえええええ!)


 裂帛の気合いと共に渚の身体がドリルのように回転して牙を機械獣の口元から折り、そのままタテガミを破壊し、さらに頭部から全身までを抉りながら通過していった。


「オォォオオオオオオオオオオオオオ!」


 そうして獅子型の機械獣は、緑光の拳の一撃でわずかな部位を残して粉砕されていったのである。

【解説】

ウォーマシン:

 戦闘ロボットの総称。かつての戦争時においてはそう珍しいものではなかったが、現時点において稼働している機体はほとんど存在していない。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだこの主人公のド頭からのワイルドっぷり…やべぇ。
[気になる点] 生身の部分なんでぶじなの
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