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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
終章 終末の世界で謳う猫
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第297話 渚さんと壊されたルール

 ハニュウシティ行きの目的であったリンダ、クロとの合流を

果たし、現在の埼玉圏の状況確認も済んだ渚たちは、狩猟者ハンター管理局局長のアーガムやコシガヤシーキャピタルの連絡員である従騎士ケイ、それにまだハニュウシティの仕事があるというトリーたちと別れてすぐさまクキシティへと向かうこととなった。時間は刻一刻と進んでいて、状況も変遷していく。残された猶予がどの程度あるのか分からない以上は急がねばならない。埼玉圏内は現在、大きな混沌に包まれていた。


『んー、こいつは便利だな。うちのビークルもパワーアップしたし』


 渚は現在、クキシティへとリンダ、ミケと共にメテオライオス・オメガに乗って移動をしていた。そして彼女らの左右にはメテオライオスが並走し、後方には腹側に武装ビークルを装着した多脚戦車が追ってきている。さらに多脚戦車の後部には元々腹側に設置していたコンテナと強化装甲機アームドワーカーの鎮座している台車が引っ張られていた。


『このオメガも後ろの多脚戦車も日常で使ってたらアイテールがすぐに尽きてしまうのだけれどね』

『だなぁ。ま、今回は気にする必要はないけどさ』


 ミケの言葉に渚が笑ってそう返す。

 メテオライオス・オメガも従属しているメテオライオスもアイテールの消費量が多く、多脚戦車やハイエンド強化装甲機アームドワーカーもそれは同様だ。日常的に運用するには不向き。けれども現在の渚たちに地下都市経由でアイテールが供給されている。加えてワシントンSDCから持ち出したコンテナの中にも弾薬や強化装甲機アームドワーカーのパーツが入っていて補給には事欠かない。


『それでナギサ。この後の予定としてはクキシティ、コシガヤシーキャピタルを経由してカワゴエシティに行くということでよろしいんですわよね?』

『そうだな。地上はすでに占拠されてるって話だけど、このまま地下のカワゴエアンダーシティまで落ちるのも相当不味いからなぁ』


 それぞれの地下都市内の人口は埼玉圏内地上の総人口に近しい。

 すでにカワゴエの地上都市の難民だけでコシガヤシーキャピタルも許容量ギリギリなのだ。地下都市からまで難民が溢れてくればグリーンドラゴンの問題が片付いたとしても10年後を待たずに飢えと掠奪によって埼玉圏はこの世の地獄と化すだろう。その後にあるのは共倒れの未来だけだ。


(ウィンドさんはきっと……こういう悩みをずっと抱えてきたんだろうな)


 渚はその場より南にあるコシガヤシーキャピタルにいるであろうウィンドのことを思う。今回の件だけではない。長命であるガヴァナー・ウィンドはここに至るまでにこうした命の選択をずっとし続けてきたはずなのだ。この世界はそうでもしなければ人間が生き残れない。

 幾多の非情な選択を越えてなお心が曇ることのない彼女の有り様を渚は尊敬していた。

 そして渚たちのアゲオアンダーシティ復興計画はそんなウィンドの心を大きく助けるもののはずだった。けれどもこのままではそれも頓挫する。それは渚にとって絶対に許せないことだ。


『止めないとな』

『そうですわね』



 渚の独り言にリンダが頷く。


『そういや師匠は結局一緒には来なかったな』

『お祖母様は現在市長よりハニュウシティの防衛を請け負っていますから。けれどもグリーンドラゴンとの戦いには参加を約束してくださいましたわ』

『それはありがたいけどさ。ただ、その前にカワゴエをどうにかしないとな』


 カワゴエシティ。渚の記憶にある川越は埼玉県南部にある観光都市だ。江戸時代には城下町として栄え、小江戸の別名も持っているとも渚は聞いたことがあり、コシガヤシーキャピタルの施設の『コエド』ベースはかつての名称の名残りなのだろう。

 もっとも渚の知る川越市という街は数千年前に消滅している。面影すらもすでになく、残っているのは地名だけだった。


『いや渚、それよりも前に対処しないといけない状況が起きているようだよ』

『ミケ?』


 ミケの唐突な指摘に渚が眉をひそめる。それから何かを察した顔で正面を見るミケの視線の先に己も正面の霧を集中していく。


(猫耳センサーの感覚を正面に集中。合わせて対浄化物質フィルターを最大化して……これは!?)


 霧の先に起きている異変を正確に察知した渚が目を見開く。それから渚はすぐさま得た情報を仲間たちに共有していく。


『な、なんですの? クキシティが襲われてますの?』


 バイザーに共有された映像を見たリンダが息を飲む。その映像にはノイズが混じっていたが、それでもはっきりと見えていた。屑鉄を積み上げた壁が破壊されて黒煙が上がる街の姿が。そして無数の巨大なミミズのようなものが街に入っていく姿が映し出されていたのだ。


『ダンさん、見えてるか? グリンワームだ。クキシティが襲撃されてる』

『見えてるよ、クソッタレ。先行してくれナギサ、リンダ。ああ、畜生。本当に機械獣とは違うんだなヤツらは』


 ダンが怒りの混じった声でそう口にする。

 地下都市に機械獣は近づけない。それは機械獣が地下都市を攻撃してはいけないという命令を遵守しているためであり、埼玉圏の人間にとっては生まれた時から体感として知っている常識だった。だからこそ人々は地下都市の上に自分たちの街を作り、その場所だけは埼玉圏内でも安全な世界のはずだった。

 けれども、それはグリンワームには適用されない。彼らは機械獣とは出自が違う。地下都市を忌避することもない。現に今、カワゴエシティは襲撃を受けているのだからダンたちもそれは分かっているはずだった。けれど彼らが真にその事実を理解したのは今だ。己の身に迫ったことで彼らはようやく気付いた。すなわち『グリンワームの出現』は、ついに埼玉圏から安全地帯を奪い取ったのだと。

 そして渚とリンダを乗せたオメガが黒煙をあげるクキシティへと一気に駆け始めた。

【解説】

グリンワーム:

 埼玉圏内では浄化物質の霧により通信が遮断され長距離間での同期や共有を行うことができないため、グリーンドラゴンはグリンワームをスタンドアロンの個体として生み出していた。

 それはグリーンドラゴンなしでもグリンワームが存在し続けられるということであり、今後グリーンドラゴンを追放、あるいは破壊できたとしてもそれがグリンワームの脅威を取り除くものではないということでもあった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メテオライオスは機械獣を狩ってアイテールや 消耗品を自給自足させておけば維持できそうですね。 いわゆる放し飼い状態ですね。 離れて自立行動させられるならですが。
[気になる点] ハニュウシティ行きの目的であったリンダ、クロとの合流 果たし、現在の埼玉圏の状況確認も済んだ渚たちは、 →合流を果たし、/改行ミス。 それから何かを察した顔で正面を見るミケの視線の先に…
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