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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
293/321

第293話 渚さんと解決の道筋

 ワシントンSDCの地下にある賢人ワイズマンの間で渚たちが明らかにした事実はジョージたちに大きな衝撃を与えることとなる。


 まず彼らが知ったのは埼玉圏を覆う瘴気、或いは浄化物質が残り十年で消滅するということだった。埼玉圏内では瘴気と呼ばれ忌み嫌われているが、浄化物質は黒雨を防ぐ数少ない手段だ。埼玉圏の中は外の黒雨のある世界よりもずっとマシだと外に生きるジョージたちは知っている。浄化物質のなくなった埼玉圏は黒雨に襲われ、極一部の人間を除いて全滅するだろうとも。

 だからこそコシガヤシーキャピタルはその時のために、このワシントンSDCを狙っていたのだという。またワシントンSDCの居場所もすでに突き止められているために現状でそれを回避することはできない。ここを守って死ぬか、自爆して諸共終わるか、黒雨による全滅の可能性は高いが東北に逃げるか……どうあれワシントンSDCに留まることは不可能だろう。

 また彼らを支えていた機械種の賢人ワイズマンも奪われる可能性が高いことも問題だった。元々賢人ワイズマンは市民IDを持つ者を管理するシステムだ。賢人ワイズマンは活動維持のための緊急的措置としてこのワシントンSDCにいるに過ぎず、コシガヤシーキャピタルと繋がっている地下都市が動けば容易に奪われる。

 これまで知られなかったことが最大の防御となっていたが、コシガヤシーキャピタルはすでにパトリオット教団内部の情報を得ている。状況はすでに彼らが知らぬ間に進行しており、現時点ですでに詰みとなっていった。


 だが、それもここ数ヶ月前までの話だ。

 もうひとつの前提が新しく積み上がったことで、ジョージたちの知らぬ間に状況は一変していた。


 アゲオアンダーシティ復興計画。それは機械種であるミケを用いて廃棄された地下都市を復活させる計画だ。地下都市ならば黒雨も防げ、コシガヤシーキャピタルではカバーしきれない人口を受け入れることも可能だと渚は説明した。

 その事実は、それほどに埼玉圏の人口が少ないということの証左でもあったが、実現すればコシガヤシーキャピタルがワシントンSDCを狙う理由はなくなる……ということまでを渚とミケは包み隠さず話していった。

 それは渚たちが今現在彼らの協力を必要としていて、そのためには現在の認識を共有しておく必要があると考えてのものだ。



『なるほど、グリーンドラゴンが宇宙戦艦と融合し宇宙に向かおうとしていたが現時点では発射できておらず、また機械獣たちにアイテールを奪われた結果として埼玉圏中のアイテールを求め始めた……と』


 ここまでの話を聞いた後に賢人ワイズマンから発せられた問いに渚が頷く。


「奪われたアイテールに関しては地下都市に協力を取り付けてハイアイテールジェムをもらうことになってる。けど、宇宙戦艦だけはどうにもならなさそうだから、あたしらはパトリオット教団の技術を頼ってここに来たんだよ」


 その言葉に賢人ワイズマンが目を細めて、少しばかり考えてから口を開いた。


『これが民間の宇宙船だったら……いや、あの場所にあったのなら戦艦以外はあり得ないか』

「あの場所?」

『ナギサ。君が目覚めた軍事基地は存在しないことになっている基地なんだ』

「それは聞いてる。理由までは知らねえけど」

『天上人にも派閥がある。エイリアンウォーによって各々の勢力の立場はフラットな状態になったが、月に住む月界人ルナリアンは元々地球圏を支配していた者たちの末裔だ。選民思想が根強く蔓延っている。天国の円環ヘブンスハイローの住人を泥塗れマッディなんて蔑称で呼ぶぐらいには』


 その言葉にミケの耳がピクッと動いた。


『もしかして、あの軍事基地は月界人ルナリアンに対するカウンターのために用意されたものだったと?』

『あの軍事基地についてはパトリオット教団のダーパが何度か立ち入って調べていてね。その際に集めた記録を見る限りではそのようだ』

「確かミケは天国の円環ヘブンスハイローに対してのものなんじゃないかって言ってたよな?」


 それはこのワシントンSDCに来る途中で立ち寄った地下基地で新世界運営計画を調べている過程でミケが口にしたことだった。もっともミケは首を横に振る。


『あの時はあくまで予測での話だよ。実際、天国の円環ヘブンスハイロー側に情報は残っていなかったようだし、そう考えただけさ』

『ま、記録に残れば嗅ぎ付けられると考えたのだろうよ。ともあれだ。エイリアンウォーで使用された宇宙戦艦となれば簡単には乗っ取ることはできない。正直に言って普通にハッキングをしようとしても突破することは無理だ。機械種であってもな』

「それ、機械種対策がされてるってことだよな?」


 渚の問いに賢人ワイズマンが頷く。


『元々はラモーテ対策なのだけれども、原理が近しい機械種に対しても効果はあるのだよ。そして話に聞くグリーンドラゴンの行動からしてアレの知性は乏しい……少なくとも人間的思考はしていないのだから、なおさら宇宙戦艦を支配することなどできなかろう』

「その問題を解決できる方法を探して、あたしらはここに来たわけだけど、アンタなら可能なのか賢人ワイズマン?」

『ああ、私ならば対処も可能だ。直接宇宙戦艦に接触できれば……ではあるがね』

「待ってください賢人ワイズマン。まさか自ら赴くつもりですか?」


 賢人ワイズマンの言葉にここまで話を聞いていたジョージが感情をあらわにしてそう尋ねた 。そして賢人ワイズマンはできの悪い子を見るような表情をジョージに見せながら口を開く。


『他に手はないのだよジョージ。ナギサたちが自分らの手の内を晒したのは後がない君たちの状況を認識させ、正しく対応できるようにと考えてのことだ』

「しかし……いえ、分かりました」


 納得はできぬという顔をしたジョージだが、賢人ワイズマンの言葉の意味は理解できている。今この場においての判断がパトリオット教団の未来を左右するのだということを。

 

賢人ワイズマン。君が宇宙戦艦に接触するということはグリーンドラゴンにも近づくということだよね。けれども君が近づけば天国の円環ヘブンスハイローから質量兵器が落ちてくるはずじゃないのかい? さすがに関西圏の二の舞はゴメンなのだけれども』


 機械種のコア反応がふたつ以上確認された時点で空にある天国の円環ヘブンスハイローがその場に質量兵器を落とし、全てを破壊すると言われている。実際に竜卵計画により機械種が二体出現したために関西圏は壊滅しており、このまま賢人ワイズマンとグリーンドラゴンが接触すれば、同様の状況が起きるだろうことはミケでなくとも予想がついた。けれども賢人ワイズマンは少しだけ笑ってから首を横に振る。


『もちろん、そんな失敗をするつもりは私にはない』

「じゃあどうすんだよ?」

『私がまた非活性状態になれば問題はない。とはいえ、さすがに接触後は非活性ではいられない。だから』


 賢人ワイズマンが人差し指を天井に向けながら、渚とミケを見た。


天国の円環ヘブンスハイローに気づかれにくい浄化物質のもっとも濃い正午を狙う。照準を合わせられる前にグリーンドラゴンが宇宙戦艦とともに飛び上がれば攻撃も来ない。意味がないからね』

「失敗したら関西圏の二の舞か。けど……このままでも埼玉圏は終わる」


 渚が眉をひそめながら、そう口にする。


天国の円環ヘブンスハイローによってかグリーンドラゴンによってか、どちらにせよ残された選択は多くない。君たちだけなら逃げ切ることも可能だろうが……』


 すでに渚たちは埼玉圏の外にいて、そして渚とミケであれば外でも生きていけるだろうと賢人ワイズマンは考えるが、渚は当然首を横に振った。


「そんなつもりはねえよ。で、アンタが非活性状態になるってんなら動けないアンタをグリーンドラゴンまで運ぶ役もいるわけだよな」


 渚の問いに賢人ワイズマンが頷きながら口を開く。


『そういうことだね。エスコートを頼めるかなナギサ?』


 グリーンドラゴンまでの強行軍。

 賢人ワイズマンの提案を受けて渚の脳裏にはあの巨大な存在の姿が浮かび上がった。


(最初に見たのはこの世界で目覚めてすぐに……あの軍事基地で再会して逃げ出して、それで今度は正面から挑む……か)


 そして、ここまでの戦いから渚は理解している。ザルゴを降し、デキソコナイを壊滅させた。驕りではなく現在の己の戦力は大きい。埼玉圏でもっとも可能性があるのは自分だと。その先にしか未来はない。であれば……


「ああ、任せろよ」


 渚が力強く頷いた。

 それが、のちにオペレーション・ランチボックスと呼ばれる埼玉圏の命運をかけた作戦が決まった瞬間だった。


【解説】

機械種:

 超生命体アウラと外宇宙生命体ラモーテの双方の特性を融合させた機械生命体をベースに永遠進化論によって人工進化を促して生まれた兵器が機械種であると言われている。

 機械種はそれぞれコアを有しており、一体だけでもより環境に適した進化を行うことで強化が可能だが、複数体が集まり、互いを観察し合うことで、より柔軟な、より正確な、より高速な、より大規模な進化を促すことが可能となる。つまり機械種の本来の性能とは群体で発揮されるものなのである。

 ただし、それはもはや地球圏内で扱える力の規模を超えており、彼らが宇宙にしかいないのは当然の話であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そして、全てが始まりの地へ収束していく!! FF10的な胸熱展開ですね
[一言] ワイズマンさんまた隙あらば死のうとしてない?
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