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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
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第280話 リンダさんと螺旋に揺蕩う侏儒たち

 渚がウォーマシンとデキソコナイとの戦闘に突入した頃、リンダとマーシャル、それにミケはドームの入り口前にまでたどり着いていた。

 もっともリンダたちも問題なくここまで来れたわけではない。ウォーマシンがおらずとも当然のように護りは堅く、周囲には戦闘の跡とガードマシンと天井に設置されていたガンポッドの残骸が転がっていた。そして現在はリンダのマシンレッグから伸びたナノワイヤーが入口横の端末と繋がり、クロが開門を試みている。


『後続から敵は来ていないようですわね』

『君のナノワイヤートラップもあるし、しばらくは持ち堪えるだろう。問題はナギサの方だが……』


 ふたりのバイザーに映されているマップには渚の生存を示す光点が点滅していた。けれどもそれは先程から異様な速度で動き回り、戦闘が継続されているだろうことも示していた。またその周囲には無数のデキソコナイと二体のウォーマシンの反応もあり、その場から確認はできないがマーシャルであれば一分も保たぬであろうキルゾーンが中庭で展開されていることは想像に難くない。

 けれどもその表情からマーシャルが何を言いたいかを察しミケは首を横に振った。


『渚なら大丈夫さ』

『ミケの言う通りですわねそれよりもわたくしたちはわたくしたちのやるべきことを進めましょう。そうでなければ、なんのためにここに来たのか分からなくなりますもの』


 そう返すふたりにマーシャルが少しだけ眉をひそめたあと苦笑した。


『まったく、そういう言葉はこちらがいうべきはずなのだが……な』


 その言葉は通信には含まれず、リンダの耳に入ることはなかった。そして、そうこうしている間にクロによる扉の解除は完了し、リンダとマーシャルは言葉を交わすことなく視線での合図で頷き合い、銃を構えながらゆっくりとドームの中へと入っていく。


『何も……ありませんわね?』

『内部も護りを固めていると思っていたが』


 そこは生産工場のようであった。広い円柱のような構造で、内側の外周を人間が入れる程度のサイズのガラス容器が螺旋を描きながら動いており、そのガラス容器の中には恐らく低濃度のアイテールであろう緑の液体が入っているのが確認できた。またガラス容器の中央にポツンと何かが浮いていることに気づいたリンダがバイザーを操作して視界を拡大ズームさせると眉をひそめた。


『これは……人間の胎児……いえ、まさかデキソコナイを造っているんですの?』

『そうでしょうね。あのガラスシリンダーに表示されているモニターにある表記を解析しましたが、どうやらそれぞれが僅かに異なる条件で成長させられているようです』

『どういうことですの?』

『デキソコナイの役回りを考えれば、より目的に近い個体を生み出すための実験を行なっている……いえ、ここまでの数を造り続けているのであれば、突然変異体を故意に起こそうとしているのかもしれません』


 そのクロの言葉の意味は理解できないが、この場がデキソコナイを生み出す場所であるのは確かであるようだった。


『ここでデキソコナイが造られているなら破壊した方が……』

『いや、機械種のコアが手に入ればここは自然と瓦解する。この場で破壊活動する意味はないから先に進んだ方が良いよ』


 ミケがそう言いながら進んでいき、リンダとマーシャルもそれに続いていく。

 ほこりひとつない清浄な空間はどこか神聖な雰囲気を醸し出していたが、そこで生み出されているのがデキソコナイなのだからリンダとしては忌避感しか感じなかった。また奥に進んでいくのに妨害行動がまるでないのも気にかかっていた。


『内部にデキソコナイもウォーマシンもいないんですのね。整備をしているロボットさんはおりますがこちらに反応もしませんし』

『ここは恐らく戦闘禁止区画でしょう。こちらから破壊活動を行わなければ手は出して来ないとは思いますが』

『では、それを過ぎれば』

『監視自体は続いているはず。なので区画を過ぎれば仕掛けてくるでしょうね。外にウォーマシンが出た以上はそれに準じたものが待ち受けている可能性もあります』

『ゾッとしませんわ』


 リンダが嫌そうな顔をしながらそう口にした。


『けど、お祖母様からいただいたヘルメスの翼があればウォーマシンだとしても対処はできます。慎重に進みましょう』


 その言葉にマーシャルが意外そうな顔をした。

 ウォーマシンの脅威をマーシャルはデータ上では把握していた。実際VRシアターを用いた戦闘シミュレーターでは今回連れてきたペンタゴンのメンバーをフルで挑んだときには半数以上を犠牲にしてようやく一体を倒せた……という結果だった。

 リンダはトリー・バーナムの孫であることからそれなりの戦闘能力はあるだろうとマーシャルは推定していたが、今の発言は予想外だった。ただナビゲーションAIのミケとクロが反論しないことからも、今の発言は決して虚言というわけではないのだろう。それをマーシャルが理解した直後である。

 マーシャルの目の前で何かがわずかに緑色に光り、リンダのマシンレッグが高速で跳び上がった。


『クロ!?』


 スパンと壁の一部が斬り裂かれ、驚くリンダの表情とは裏腹にマシンレッグは極めて的確に動き、見えぬ何かの攻撃を避け続ける。


『こいつは……カーリーだと!?』


 マーシャルが驚きをあらわにしてそう口にした。それは六本の腕を持つ細いフレームだけで構成されたロボットだった。

 

『気をつけろ。近接戦ならそいつはウォーマシンを上回るぞ。それに』

『糸ですね』


 クロの言葉と同時にその空中で緑の光が爆ぜた。


『見えていますかリンダ?』

『ええ。なんとか』


 そう返すリンダの足元から緑光を帯びた数千という糸が飛び出し、周囲に展開されていく。それはヘルメスの翼によって生み出されたナノワイヤーだ。それらがマーシャルの言うカーリーの六本の腕から伸びたナノワイヤーを絡め取ってはじき返していた。

 

『あちらはそれぞれの腕から一本ずつ。こちらは無数。分はわたくしたちにありそうですわね』

『相性は良いかもしれませんが油断はしないように。あちらのナノワイヤーはオマケ。主武装は近接戦でしょうから……さあ来ますよ!』


 そしてカーリーが動き出し、対してリンダもカーリーに向かって一気に駆けていった。


【解説】

カーリー:

 室内などの限定された空間内での戦闘を想定した六本腕の人型戦闘兵器。

 被弾面積を少なくするために限界までフレームを細く、衝撃に耐えられるよう硬く、またDOWA(擬似油壁装甲)によってそもそもの攻撃が当たらないように造られている。

 六本の腕それぞれから伸びたアイテールナイフとその先から射出されるナノワイヤーが武器で、対集団を想定した近接戦を得意としている。

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