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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
257/321

第257話 渚さんと破滅を呼ぶ者

『はははは、こんなところまでこのオスカー様に会いにきてくれたのかい子猫ちゃんたち』

『あ、なんか真っ赤で汚いんで近付かないでくれます?』


 すべてのデキソコナイの掃討が完了した後、先頭で戦っていたオスカーがバイクに戻ったヒートチェーンソーに乗りながら近付いてきた。

 オスカーはかつて自身のチームを失い、敵討ちにと自暴自棄になって機械獣と相対し、そこを渚たちに救われた狩猟者ハンターである。主武装を回転式弾倉型グレネードランチャーとバイクに変形する強化武装パワードアームズヒートチェーンソーとしている大物狙い専門であり、男装しているがマリアという名の女性であった。また男女問わず愛せるという特技も持っていた。

 そんな彼女の全身はデキソコナイの血で赤く染まり、さらには飛び散った肉片や臓物がこびりついている。戦いなれているとはいえ、普段は機械獣を相手にしている狩猟者ハンターには刺激の強い格好であり、リンダもあからさま引きつった顔をして後ずさっていた。


『つれないな。なあナギサ』

『いいから洗ってこいよ。マジで。その見た目、本当にキツいからな』


 渚にも指摘されたオスカーが肩をすくめながら街へと戻っていく。なお、他の狩猟者ハンターたちもかなり距離をあけて避けていた。


『瘴気で直には見えないけどさ。この戦場の空気、ちょっとこれまでとは違うな』

『そうだな。瘴気の霧ってのは便利なもんでな。マシンアイ保持者からの情報で倒せるし、死体は見えないから現実感も薄い。ほれ、見てみろよ』


 ルークが指差した先にいたのは、防護服が比較的まだ綺麗な者たちだった。それはまだここに来て間もないようやく中堅に届いたかという狩猟者ハンターたちであり、何人かはオスカーの姿を見て吐いていた。


『あれが普通だ。しかし、お前はともかくリンダも平気とはな』

『平気ではありませんわよ。胃からこみ上げて来そうなのを抑えているだけですわ』

『リンダもサイバネストですし、情緒の面での耐性もありますから』


 リンダのマシンレッグからクロがそう口にした。

 サイバネストとはマシンパーツとの繋ぎを果たす機能を持っているが、強化人間の一種でもあり、限度はあるにせよインプラントされた装置によって生体活動において最適な健康状態を保つ様にプログラミングされている。それは情緒の面でも同様で、戦闘に支障をきたす様な状況をインプラントされた装置が回避した結果が現在のリンダの状況だった。

 それはハードウェアかソフトウェアかの差はあるものの兵士の戦闘技術をインストールされた渚に近いものだ。その事実に渚がわずかばかり眉をひそめたが、すぐさま別のことに意識が向けられた。


『あれ……なあルーク、なんか機械獣が集まって来ていないか?』


 瘴気の霧をフィルタリングして除去した光景をルークの視界にも共有しながら渚がそう口にした。

 近付いて来たのは四本足の細身の機械獣だった。それがデキソコナイの死体の山に近付いていたのだ。


『うーん。スケイルドッグに似ているけど、これまでに見たことがない個体だね』

『ありゃメタルハイエナだ。別名、埼玉圏の掃除屋』

『掃除屋? 気付いてる狩猟者ハンターもいそうなのに、誰も倒そうと動き出してないな』


 渚が周囲を見渡しながら、そう口にする。

 瘴気の霧に包まれて生身では見えないとはいえ、マシンアイ保持者がいて、いまも警戒していないわけがないのだ。であれば、近付いてきているのを把握した上で放置していると考えるのが自然であった。


『連中はデキソコナイを運んでアイテールに換えてくれるからな。ま、害獣よりも益獣寄りの機械獣ってところだ』

『なるほどね。あの数の死体を残しておくのも衛生管理上危険だし、かといって処理するのも手がかかるからね。そういう掃除の仕方をしているのか』


 ミケが感心した顔で頷いた。


『そういうことだ。他の機械獣なら俺らを見ると襲ってくるし対処もするが、メタルハイエナは学習しているのか、こっちが近付かなきゃデキソコナイの死体しか狙わねえ。で、この街はそれで増えたメタルハイエナを間引きすることで報酬のアイテールを手に入れているってわけだ』


 デキソコナイを倒してもアイテールは手に入らない。人型の知能もあるらしい生き物を食べるというのも忌避した結果、こうした形で資源を得ることをハニュウシティの狩猟者ハンターたちは学んでいた。


『なるほどね。それでもリターンは大きいからアレもここに居着き続けているんだろうね』

『そういうことだな。ちなみにデキソコナイの討伐数はマシンアイ保持者がカウントしてるから、俺たちも参加依頼の報酬だけではなく討伐数に応じて報酬がちゃんと支払われるぞ』


 正確にいえば、マシンアイ保持者たちや監視カメラなどの情報を元に統合して管理する遺失技術ロストテックの装置がこの街にあってそれが報酬の割り振りをしているのだが、ルークもそこまでの事情についてまでは明るくない。狩猟者ハンターの討伐数報酬は基本的には自己申告であるため、それが揉め事になることも多いのだが、ここではそうした問題もないようだった。


『ところで皆さま、お祖母様のお姿を見ました?』

『そういえばあのアーガム局長が師匠もここで戦ってるんだって言ってたよな。けど、出てればすぐにわかりそうな気がするけど』

『トリー・バーナムなら大物が出たとき以外は出撃してこないぞ』

『オスカー、早かったな』


 サッパリした(防護服がという意味である)オスカーがその場に戻ってきた。

 

『新型のプラズマナノミスト洗浄ユニットを買ったからな。数秒でこの通りさ』


 自慢げに手を広げて口にした通りに、つい先ほどまでのスプラッターな姿であったオスカーはもうそこにはいなかった。けれどもルークはオスカーの言葉に口元を引きつらせて、眉をひそめた。


『ちょっと待てオスカー。お前……ここには隊を復活させるための資金稼ぎにきてると思ってたんだが……買ったのか。洗浄ユニットを』

『当たり前のことを聞くなよ。東京砂漠で一ヶ月前に発掘されたものでな。目と目があった途端にもう一目惚れだ。その場で金をかき集めて即金で支払ったさ。借金は増えたがね』

『……だろうな』


 ルークが頭を抱えたが、プラズマナノミスト洗浄ユニットとはビークルなどとも接続して使用できる大型のユニットであり、主な使用法は今オスカーがおこなった様に防護服などの洗浄である。黒雨もナノミストに接触時にプラズマ化して消滅するため、汚染されることなく除去が可能である。だからこそ非常に高額なものであり、一度は隊を全滅させて資金繰りにも困っているオスカーが買うなど自殺行為に等しいはずなのだが、本人が気にしている様子はない。オスカーは刹那の刻を生きる女なのであった。

【解説】

メタルハイエナ:

 キャリアスカラベ同様に掃除屋と呼ばれている機械獣。

 埼玉圏でもよく見かけるタイプの機械獣だが主に西方に出没することが多く、渚たちもこれまで遭遇したことがなかった。特筆すべき能力はなく戦闘も得意ではないが中級サイズの機械獣の中でも個体数は上位にあり、機械獣が出没した初期の頃からその姿が確認されている。

 それは形態をいくつも生み出しながら進化と効率化を模索し続ける機械獣の中でも成功した種であると考えてよいだろう。

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