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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
251/321

第251話 渚さんと緑竜の子供

『この蛇型にはコアが存在しない。というよりは全体がコアのようであり、接続し合うことで処理能力をあげていくんだ。これが機械種の特徴を受け継いだ個体であることは間違いないね』


 戦闘後、渚たちは破壊した蛇型の残骸の元に集まっていた。

 稼働していた蛇型を全滅させたもののそれが何であるのかは判明しておらず、その正体についての検証を彼女たちは行っていたのである。そして調べた結果、やはりミケの言う通りに機械種に連なるものであろう……という結論となった。


『なるほどなぁ。となるとこのニョロニョロしてるのってあたしの親戚になんの?』

『君は機械種の力で生体を補強しただけだからちょっと違う。僕は同種だけどね。まあこれは僕ほど高性能に作られているわけではないけれど』


 ミケがそう言ってニャーと鳴いた。その言葉の通り現状のミケは本体から生み出された生体ドローンの一体に過ぎない。とはいえ本体に戻れば記憶は共有されるしその扱いは分身体に近い。


『ふーん。叔父さんじゃなくて良かったよ。それにしてもアイテールのシリンダーがない代わりに固形状のアイテールが骨になってんのか。面白い造りをしてんな、これ』


 渚が蛇型を切り裂いて、部位的には骨のような位置にある固形アイテールをずるりと取り出した。どうやら蛇型はアイテールをただの栄養源とはせず、体を支えるフレーム代わりに使用しているようだった。


『で、こいつはグリーンドラゴンのなんなんだ?』


 腕を組んで蛇型を睨みつけているルークの問いにミケは『ドローンだろうねえ』と返す。


『先ほどの様子からして機械獣を追ってきたんじゃないかな。で、スケイルドッグを発見して戦った』

『スケイルドッグは元々この地域にゃ多く生息してる。戦っていたのは多分グリーンドラゴンのところから逃げて来たもんじゃねえだろ。それに俺らも襲われたってことはこいつらはグリーンドラゴンの元から逃げた機械獣だけを相手するわけじゃなさそうってことだよな』


 ルークの指摘に渚たちが顔をしかめる。


『それにこの蛇型は複数いましたよね。まさかこの群れだけが機械獣を追跡していたと言うわけではないでしょうし』

『埼玉圏中に散らばった可能性は高いだろうね』


 クロとミケの指摘に渚が目を見開いた。どれほどの数が放たれたのかは分からないが、それが人間を襲うとなれば非常に厄介だ。


『目的は機械獣と同じくアイテールの採取だろうねえ。うーん、こいつらって自家精製できるのかな。できないのならアイテールを渡せば見逃してくれるかもしれないけど?』

『んなこと言ってもエアクリーナーに入っている分を奪われたら死んでしまいますわよ』

『だよねえ』


 リンダの言葉をミケが首肯する。瘴気から身を守るエアクリーナーは少量とはいえアイテールを使って動いている。それが奪われれば人は瘴気の中で生きてはいけない。都市外でアイテールを渡すという選択は死ねと言っているのと変わらないのだ。


『それとこれには他にも問題があってね』

『というと?』

『こいつ、まだ生きてるんだよ』

『は?』


 渚が目を丸くして蛇型の残骸を見た。動いている様子はない。けれども何か引っかかる感覚は確かにあった。それから周囲の残骸を見回すと確かに稼働反応があるのを渚は読み取った。


『あー、マジだわ。あっちの個体とかわずかにだけど修復が始まってるな』

『うん。渚がアイテールを抜いた分は休眠状態に入ったけど、それ以外はアイテールを消費しながら修復を開始している。残骸を一塊にまとめたら何匹かは復活しそうだ』

『マジかよ』


 倒せば終わりではないという事実にルークが嫌そうな顔をする。機械獣は本来コアを破壊すれば停止するものなのだが、蛇型はその範疇に当てはまらないということである。そもそもが機械獣とは別種だ。ただ、そのミケの話からしてただ倒せばいいというものではないのは確実だった。


『ひとまずはアイテールを抜いて、後は……放置するしかないかなぁ。燃やすのは難しいだろうし、溶かすでもできればいいんだけど、そんな処理はここでは不可能だからね。色々と厄介な相手だよ』


 ミケがそう口にする。それから渚たちは残骸から固形アイテールを抜きとる作業を終えると、いくつかの蛇型の残骸をサンプルとして回収した。その後は念のため蛇型の残骸をバラバラに散らしてからクキシティに向かい、そのままトラブルに遭遇することなく都市に到着したのであった。




  **********




「おう、よく帰って来たな」


 クキシティにたどり着いた渚たちが最初に向かったのは狩猟者ハンター管理局だ。

 それは地下都市を訪ねる前に蛇型の残骸を管理局に提出するためであったが、訪れた渚たちはすぐさま二階にある局長室へと通された。無論、そこにいたのはライアンだ。


「なんだよ。忙しそうなのにあたしらと会って良かったのか?」


 部屋に入ってすぐの言葉にそう返した渚にライアンが肩をすくめて苦笑する。確かに今、管理局はざわついていた。職員と狩猟者ハンター、そのどちらも忙しなく動いていて、その理由はいうまでもなくグリーンドラゴンから逃げ出した機械獣たちであり、また渚たちが倒した蛇型も討伐の報告が上がっているようであった。


「騒動の対応はしている。それに今回の状況の真相を知るにはお前たちに話を聞くのが早そうな気がしてな」


 ライアンが視線をミケに向けた。この場において最も何かを知っていそうな相手がミケであろうとライアンは考えていたし、そしてその認識は正しい。


『アレがなんなのかというなら、こちらも把握はしているよ。あれはグリーンドラゴンのドローン……子供のようなものかな?』

「は? アレの子供?」


 けれども返ってきた答えは予想外だったのだろう。ライアンはミケの言葉に目を丸くし、大量のグリーンドラゴンが埼玉圏を蹂躙する姿を夢想したのであった。


【解説】

グリーンドラゴンの子供:

 その有り様は女王蟻と働き蟻の関係に近いと言えるだろう。

 コアがない以上は成長すればグリーンドラゴンになる……ということはあり得ないが、体積だけならば理論上は近づくことは可能である。コアなしでは制御がおぼつかないため、それで活動することは不可能だろうが。

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