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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
250/321

第250話 渚さんと進化する蛇

『蛇型の機械獣、リンダとルークは知ってるか?』

『いいえ、わたくしは知りませんわ』


 武装ビークルから出てすぐの渚の問いにリンダが首を横に振るとルークが口を開いた。


『機械獣ってのは動力であるコアとアイテールのシリンダーがあるからそれを積むだけのスペースが必要になるんだ。だから細身の機械獣は少ないのさ』

『少ないっていうと、いないわけじゃないのか?』

『スペースさえあれば他は細くても問題はないからな。過去に頭部がでかいトルネドコブラというのが確認されたことがあったらしいが今はいないから淘汰されたんだろう』


 機械獣もこれまでの年月の間にいくつもの種が入れ替わっている。その法則性について人類側はほとんど把握していないが、環境に合わせた適応進化を行なっているのではないかと考えられていた。

 そもそもの話として機械獣の本来の生息域は埼玉圏外であり、埼玉の地にいる機械獣はハグレに近い存在だ。なので例え適応進化したとしてもソレは埼玉圏に合わせた進化ではないのだろうというのが一般的な認識であった。


『となるとだ。機械獣として向かないその蛇型が出たってのはどういうことだろうな?』

『さてな。あのサイズでスケイルドッグを絡み潰すパワーってのもそうだが、破壊された相手ならともかく機械獣を攻撃して共喰いする機械獣なんて俺も知らねえよ。新種かもしれないが嫌な感じだ』


 ルークがそう言ってから狙撃銃を構えた。正面は瘴気に包まれ、蛇型の姿を直接視認することはできないが、渚の箱庭の世界ミニチュアガーデンによって全員が敵の位置を把握している。


『そんじゃ、まずは俺が一当てする』

『嫌な予感がする。アイテールが勿体無いけど僕も自爆猫スーサイドキャットを出すよ』


 ミケがアイテールから作ったエネルギー体の猫を出して走らせるとルークが迫る蛇型に向かって銃口を向けて撃ち放った。それは瘴気の霧の中をまっすぐに飛び、蛇型の一体を直撃して破壊する。


『当たった。普通に倒せるな』

『けれど内部が……おかしい。有機体と無機物の中間?』

『どういうことだよ?』


 渚の問いにミケが肩をすくめる。現時点ではミケも何かを確信を持って言えるほどの答えは導き出せてはいない。


『それじゃあ、わたくしも行きますわね』

『リンダ、あの蛇型に接触はしないでもらえるかな』


 そのミケの言葉に頷いたリンダが一歩を踏み出し、駆けていく。


『リンダ。翼の制御は私が行います』

『お願いしますわねクロ』


 そしてリンダのヘルメスの翼が起動すると無数の糸が紡がれて二対の羽に変わってまるで羽虫のように超高速で羽ばたき、ホバリング移動を開始する。


『まずは一体!』


 リンダはそのまま蛇型へと近づき、一定の距離を保ちながらライフル銃で仕留めていく。


『やるなぁ、リンダ』

『まったくだ。成長したもんだ』


 そう言いながらルークが狙撃銃のトリガーを引き、渚も両腕の二丁ライフル銃で次々と迫る蛇型を危なげなく破壊する。最初のルークの攻撃で分かっていたことだが、蛇型の細身のボディの耐久力はそこまで高くはなく、今の渚たちの技量からすれば全く問題にならない相手であった。無論的が小さいのだから並の狩猟者ハンターたちでも楽勝かといえばそうではないのだろうが、それでも機械獣の中でそれほどの脅威ではないようだった。


『戦闘力はそこまでではない……というよりも銃撃戦を想定していないというべきかな。ん?』


 状況を観測していたミケが目を細める。その先にいるのは先ほど渚たちを発見した蛇の塊のような姿をした機械獣だ。後方にいるソレが一瞬何かを行なったのをミケは感じ取った。


『今のは強力な電波? あの集合体が何か指令を送った? あ、これは』

『なんだ? 急に銃弾が弾かれたぞ?』

『あれ、蛇型が地中に潜りましたわ?』


 ルークとリンダが共に眉をひそめて口を開く。ルークの放った銃弾が蛇型の表面を弾き、またリンダと相対していた蛇型の群れが唐突に地面に潜り始めたのである。その様子に二人が戸惑う中、ミケが『へぇ』と口にした。


『なるほどね。こりゃあ『正体が割れた』ね』

『どういうことだよミケ?』

『詳しい説明は後でするよ。どうせあの程度の処理能力じゃあそう大したことはできないだろうし、こちらの優勢は変わらないからね。渚はあの集合体を優先的に攻撃してくれるかな?』

『おう、分かった』


 ミケの指示を受けて渚は二丁ライフル銃で蛇型の塊のような機械獣に次々と弾丸を撃ち込んでいく。


『なんだ、ありゃ? あいつ見た目だけじゃなく完全に蛇型の塊だったのか?』


 相手は蛇型の塊のような……ではなく、完全に蛇型の集合体であるようだった。破壊されて転がったのは単体で動いている蛇型と全く同一のものだ。そして渚は眉をひそめながらミケを見る。


『有機体と無機物のハイブリッド。ああ、なるほど。そういうことかよミケ』

『そういうことだよ渚』

『いや、どういうことだよ?』


 横で聞いていたルークがツッコミを入れる。それに対して渚が撃ち続けながらも口を開く。


『別に難しい話じゃないさルーク。機械獣は見た目こそ生物の形をかたどってるが中身は機械だ。けど、あの蛇型は中が生っぽい。かといって生物というにはメカメカし過ぎるだろ。で、ああいうのをあたしらは知ってんだよ』

『知ってる?』

『うん、渚の言う通りだ。アレは機械獣ではなく恐らく機械種の眷属だよ』

『眷属?』

『つまりは今の僕みたいなものだね』


 そこまで言われてルークも気付いた。何しろこの埼玉圏に機械種は二体しかいない。その片割れであるミケに身に覚えがないのであれば当然答えは決まっている。


『それはアレがグリーンドラゴンに従っているヤツだってことだよな?』

『そういうことだよ。よし捉えた』


 渚が削った蛇塊にミケが操作している自爆猫スーサイドキャットが取り憑き、その場で爆発が起こって蛇型が散っていく。


『アレは蛇型を集合させて司令塔として演算能力をあげたものだ。あの蛇型たちは機械獣に対応したタイプだったんだろう。けれども僕らと戦闘になったことで集合体が銃に対して適応するために計算をしてアップデートの情報を送ったことで周囲の蛇型も進化した。まあ、けれどもソレも潰したからね』

『これ以上は厄介にならずに倒せるってこったな』

『そういうことだよ。あ、けれども一応接近はせずに銃だけで仕留めてね。場合によっては融合される危険もあるから』


 ミケの指摘に全員が一瞬ギョッとした顔をしたものの戦闘は渚たちが有利なまま継続され、二十分ほどで危なげなく全滅させるに至った。戦闘中に行われたわずかなアップデート程度では渚たちが追い込まれるわけもなかったのである。

 もっともそれはまだ蛇型が銃を持つ相手に慣れていなかったからということもあるのだろう。

 けれども今後進化したアレらが来た場合、一体どうなってしまうのか……それはまだ渚たちにも判断つかぬことではあった。

【解説】

トルネドコブラ:

 肥大化した頭部にコアがある、珍しい蛇型機械獣。

 毒ではなく電撃を打ち込む牙を持ち、隠密行動も得意ではあった。もっとも大本となる蛇の胴を再現した形状では強度が不安定で全体のバランスも悪く出力にも難があったため、数世代の実地試験の後に有用性を確立できぬと判断して自壊して歴史から姿を消した。

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