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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第025話 渚さんと終わった楽園

天国の円環ヘブンスハイロー……オービタルリングシステムのことをそう呼んでいるのか。ロマンチストなことだね』


 ミケが空を見上げながらそう呟いた。

 南の空を二本の線が横切っている。瘴気の霧によって薄らぼけているが、アレが見たままの大きさだとすれば、それは尋常ではない巨大なもののはずだった。


『RNSが今なら繋がっているし、活動は停止していないようだけど……さて、どうなっているのやら』

(RNS? 以前にGPSの代わりみたいに言ってたやつか?)


 ミケの言葉に渚が反応する。それは昨日の朝に聞いた言葉だ。そして、ミケが頷いた。


『うん。リングナビゲーションシステムの略だよ。上空のオービタルリングシステム。あれは当然ながら人工の建造物でね。浄化物質の薄い朝ならアレと繋がって今の位置も分かるみたいだ。まあ、今の場所は分かっているし必要ないけどね』


 ミケの返しに渚が眉をひそめると、その様子を訝しげに見ていたリンダが『どうしたんですの?』と口にした。


『ああ、いやなんでもねえよ。で、リンダ。その天国の円環ヘブンスハイローってのはなんなんだよ? 空に浮かんでるのか、アレ?』

『そうですわね。大昔に人はあの線の上に住んでいたそうですわ』


 その返答に渚が『あそこに?』と言いながら線を凝視した。

 やはりボヤけて良く見えないが、それでも見えているモノがとてつもないスケールだろうとは理解できる。


『けれども何かしら大きな不幸があって、人間は地上に落とされたと言われておりますのよ』

『そりゃあ……なんというか。神話だかおとぎ話みたいな話だな?』


 渚が思ったままを口にするが、リンダは首を横に振った。


『おとぎ話ではありませんわ。全部が事実ですのよ。話を戻しますが、そこらに落ちている金属の塊は、あの空の上にある線にしか見えない楽園、遺失文明の巨大建造物メガストラクチャーの残骸ですのよ』

『は? あの転がってるのが、あそこから落ちてきたってのか?』


 渚が周囲の巨大な金属片を見る。

 それらすべてがあの二本の線より落ちてきたというのは、渚の想像力を超えていた。


『ええ、そうですわ。それにこの埼玉圏自体が、天国の円環ヘブンスハイローから落ちてきた宇宙船が激突した衝撃で一度崩壊し、その衝撃で地殻変動が起きてこのような状態になったのだと言われております』


 その言葉に渚は改めて、自分の周りを見渡した。

 渚の知っている埼玉とは違う、霧に包まれた岩場と砂漠。その原因が上空の天国の円環ヘブンスハイローによるものだという。それはもはやおとぎ話ではなく、大災害そのものだ。


『マジかよ』

『ああ、なるほど。岩の向きが一定なのは、その宇宙船が激突したインパクトの影響か。まあ、随分とやらかしたものだね』


 リンダの説明には渚だけではなく、ミケも驚いているようだった。


『なんか大変な時代もあったんだな』

『いえ、大変なというか……別にそれは終わった話ではありませんし』

『終わってない?』


 渚がそう口にした途端、どこからか凄まじい衝撃音が響き、続けて大地が揺れた。


『は? なんだ、今の!?』


 それに渚は驚くが、リンダを始め、他の狩猟者ハンター達の反応は驚きではなく警戒であった。


『近いですわね。タイミングが良いといいますか……落ちてきたのですわよ、天遺物が』

『それって、あの転がってるようなのかよ?』


 渚がビルひとつ分はある鉄の残骸を指差して尋ねると、リンダが頷く。


『ええ、そうですわ。この振動からすれば、あれと同サイズかもしれません。空を見れば分かる通り、天国の円環ヘブンスハイローはまだ存在していますし、時折その残骸が落ちてくるんです。場合によっては雨のように』

『おいおい。けど、あんなものが降ったら』

『当たれば当然命はありませんわね。直撃して滅びた村も存在しておりますわ。早々ないことですけどね』


 そう続けられたリンダの言葉に渚がゴクリと喉を鳴らす。

 確かにリンダの言う通り、大変な状況は今も続いているようだった。


『とはいえ、天遺物から遺失技術ロストテックが見つかることもありますから必ずしも悪いことばかりではありませんけど……む?』


 次の瞬間、リンダが何かに気付いてビークルの進んでいる先を見る。

 それと同時にミケが『来たみたいだね』と口にした。その反応に、渚がリンダとミケの視線の先を追ってみれば一番前にいる狩猟者ハンターが手振りで何かを伝えているようだった。


『なんだ?』

『合図ですわ。ええと、機械獣、スケイルドッグ。すでに気付かれている……ですって!?』


 その合図には他の狩猟者ハンターたちも次々に反応し、一斉に持っていた銃を構え始める。そしてリンダも小型のマシンガンを構え、腰に差してある小型二連グレネードランチャーの状態も確認する。


『へぇ、あの人。僕とほとんど同時に把握したんだ。ああ、あれで見てるんだね』


 一方でミケは先頭の狩猟者ハンターのレンズらしきものが伸びているヘルメットを見て、感心しているようだった。どうやら遠方を見るのに特化した装備というのもあるようだ。ともあれ、今は機械獣の襲来である。


『来ましたわね。ナギサ、行けますわね?』


 リンダが尋ね、渚の方もライフル銃を構えて頷いた。

 ナギサの動きはほとんど一瞬のものであり、リンダが『ほぅ』と驚きの声を上げたほど。その動きはマシンアーム『ファング』からインストールされた戦闘技術であり、かつて存在した本当の兵士のそのものだ。

 だからこそ洗練されていて、尚更に美しいものだとリンダの眼には映った。


『問題ない。ひとまずは迎撃だ。行こうぜ相棒』

『え、ええ。やりますわよナギサ』


 そして迫るスケイルドッグの群れを前に、渚たちは戦いを開始したのである。

【解説】

オービタルリングシステム:

 地球の衛星軌道上をグルリと囲んだ形で建造されている巨大建造物メガストラクチャー。この世界においてはそれはふたつ建造され、現存している。現在においても稼働はしているようだが……

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