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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
249/321

第249話 渚さんと謎の蛇

『エントランスの解放は約束』

「この場は俺が守ろう」

「市長とニキータ様によろしくお願いしますね。私は頑張っていると」


 グリーンドラゴン対策の話し合いの結果、支配者ドミネーター級AIのプロミスが住人の避難所としてアゲオアンダーシティのエントランスルーム解放を継続することを了承した。元よりエントランス部の解放については支配者ドミネーターAIの自由裁量があるらしく、これにより今後機械獣の群れが再度アゲオ村に来た場合でも全滅の回避は保証されることとなった。無論、それ以上の侵入は市民IDなしではガードマシンによる強制退去が行われるし、機械種であるグリーンドラゴンが直接襲撃してきた場合には対処のしようもないが、それでもこれまでよりははるかにマシな状況といえる。

 なお、村にはマーカスとミランが残ることとなった。それは地下都市から引き揚げた強化装甲機アームドワーカーやスパイダーを使い、狩猟者ハンターたちが防衛を行う流れとなったためで、その指揮を元騎士団の団長であるマーカスが行い、リミナが補佐を行うこととなったのである。またミランは地下都市との折衝やスパイダーの操縦について狩猟者ハンターたちの指導を行う予定だ。本人としても戦闘を別の人間に押し付けられるならしめたものと了承したが、彼女以上の技量を狩猟者ハンターたちに求めるのは難しく、戦闘参加は当面避けられぬ運命にあった。

 またグリーンドラゴンの情報を伝えに来たウルミはその後すぐに別の都市に向かうために村を去り、渚たちもそれを見送った後にハイアイテールジェムを手に入れるため、クキアンダーシティへと戻ることとなったのであった。

 


「ハァ、まったく一日で戻ることになるとはなぁ」

「最近は時間が経つのが早いのか遅いのか分かりませんわねえ」


 渚とリンダがクキシティに向かって走る武装ビークルの中でそう言葉を交わし合う。最近はともかく忙しない。一日で目まぐるしく状況が変わっている気もするし、たった一日が半年ぐらいかかっているような気すらしてくる。

 それだけ濃密な時間を過ごしているのだろうと渚たちは考えながら、周囲を警戒しつつ移動していた。何しろ今はグリーンドラゴンから逃げた機械獣の群れがどこから来るかも分からないし、どれだけ警戒しても足りない状況だった。一方でグリーンドラゴンの方もそんな機械獣の動きを想定した行動を開始していたのだが、それはもちろん神の視点を持たぬ渚たちにはあずかり知らぬことだ。

 もっとも、その一端については渚たちも道中で目撃することとなった。


「ん、ちょっと待った。ミランダ、車止めてくれ」


 アゲオ村とクキシティの中間ほど進んだところで渚がそう口にする。


『機械獣ですか?』

「ああ、多分な。ちょっと今確認してる」


 すぐさま武装ビークルを停めたミランダに渚がそう返すと、猫耳をウィンウィンと動かした。それは遊んでいるわけではなく、猫耳センサーと武装ビークルのヘッドセンサーの指向性を高めて情報精度を上げるための行動だ。今の渚は瘴気の中であってもかなりの精度の感知能力を発揮することが可能だが、方向性を定めることでさらに細かく調べることができる。そして、ミケもヒゲを揺らしながら立ち上がった。


『ふぅん、ずいぶんと妙なことになってるね』


 渚経由で送られた情報を共有したミケが目を細める。


「なんですの?」

『リンダ、これです』


 クロがフィールドホロを展開して空中にウィンドウを表示させ、そこにリアルタイムで処理された映像が映し出されていく。それは渚が感知した情報をフィルタリングして瘴気の影響を除去した上で、予測補完を行い詳細な映像として出力されたものだ。


「これは……スケイルドッグと、ボヤけた変な蛇のような機械獣の群れがおりますわね?」

『うん。スケイルドッグと違って、蛇の方はこれまで見たことがない機械獣だね。情報が不足しているから補完しきれてないみたいだ』


 ミケがそう補足する。もっとも問題はその未知の蛇型機械獣がいることではない。スケイルドッグと蛇型機械獣の行動こそが問題であった。


「あれ? これってどういうことですの?」


 リンダが眉をひそめる。二種類の機械獣が群れることはそう多くないが、それでもないわけではない。同型機同士ならば連携を取ることはあるし、別種同士でも戦略的な価値を見出せば組むこともあるのだ。そもそも機械獣は環境に適応するために複数の形態を取っているだけで基本的には同じモノだ。

 けれどもリンダの見ている映像の中のスケイルドッグと蛇型機械獣は明らかに『戦って』いた。


「これってアレか? どっちかは機獣使いの操っている機械獣とか?」

『どうだろう? その可能性もあるけど……む、スケイルドッグが負けたね』


 ミケの言う通り、スケイルドッグの群れは蛇型機械獣たちに絡まれ、そのまますべての個体が崩れ落ちていった。蛇型機械獣たちは想像以上にパワーがあるらしく、スケイルドッグたちは可動部位をすべて破壊されているようだった。


「ええと。あの……これ、食べてますわよね? どういうことですの?」


 さらに蛇型機械獣たちはそのままスケイルドッグに噛みつき、捕食を開始した。その様子に渚たちの困惑が強まる。


『どうやらアイテールを奪っているようですね。いえ、パーツすらも捕食してる。機械獣を喰らう機械獣? 一体どういう状況でしょうか?』


 クロもそれには首を傾げた。機械獣同士が争い、さらには勝者が喰っているのだ。それはこれまでにはないものだ。


「ナギサ、戦うか?」

「うーん、そうだな。あの蛇型も気になるしな」


 渚たちが先に発見している以上は迂回すれば回避することも可能だろう。もっとも急ぎとはいえ、クキシティとアゲオ村の間のルートで未知の機械獣を放置して良いものではないと考えた渚が戦闘の判断を口にしようとしたが、状況はそれよりも早く動いた。


『渚。一体、こっちを見てるね』

「え、この距離でですの?」


 リンダが思わず声をあげる。武装ビークルと蛇型機械獣の間は渚とヘッドセンサーがあって初めて感知可能となる距離だ。で、あるにもかかわらず、ミケは敵がこちらを認識したと判断した。


「……蛇の塊みたいのが一体いるな。あれは探査タイプか。じゃあ仕方ねえ。どのみち戦うつもりだったし丁度いいや」


 渚がそう言って横に置いてあったドクロメットを手に取った。


「ミランダ、あたしたちは出るからここでビークルの防衛を頼む。近付かれたら距離をとって牽制。取り憑かれるなよ?」

『はい。承知しました』


 ミランダの返事に渚が頷くとドクロメットを被ると立てかけてあったライフル銃を手に取って動き出し、リンダとルークもそれに続く。


『しっかし、この状況で妙な機械獣が出たな。妙なことにならなきゃいいけど』


 相手は未確認の蛇型機械獣。その出現が一体何を意味するのか、それはこの時点での渚たちには知る由もなかった。

【解説】

機械獣:

 アイテール回収型ドローンに分類される。

 基本的に人間を襲うことはなく、生態系に影響を及ぼさぬ範囲で有機物を加工してアイテールに変換して回収している。

 なお人間の定義は一般的には市民IDが適用されているか否かで判断されている。また市民ID所持者であっても適用される地下都市外では人間とは判断されないのだが、都市外でも適用される権限を持つ世界市民ID所持者は例外となる。

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