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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
248/321

第248話 渚さんと希望の宝石

『グリーンドラゴン……厄介』

「だなぁ」


 市長室で渚とプロミスがそんな言葉を交わし合う。

 村長の家でウルミから話を聞いた後、渚たちはプロミスと相談すべく再び地下都市第四階層にある市役所まで戻っていた。地上の人間が地下都市の支配者ドミネーター級AIと対等に話し合える……という埼玉圏の歴史の中でもほとんど起こり得なかった珍事を成功させた渚たちではあったが、その顔は明るくはない。

 ウルミの持ってきた情報によれば機械獣たちは地下を経由しグリーンドラゴンの元へと接近し、宇宙船のアイテールタンクを破壊して流出したソレを奪って一斉に逃走。そのことに激怒したのか、軍事基地ではグリーンドラゴンが暴れているとのことであった。そしてグリーンドラゴンについてはともかく、逃げた機械獣たちがどうなったかについては渚たちも身を以て知っている。


「それが今回の襲撃に結びつくってわけだ。機械獣が持っていたのは宇宙船のアイテール。ドラゴン様はブチ切れ。なだめるのには苦労しそうだな」


 ルークがそう言って肩をすくめた。


『うん、道理でアイテールの純度も高かったわけだね。それにしてもあの爆発でも残っていたあの宇宙船か。基地自体があれを隠す目的で置かれていた可能性もあるね』


 軍事基地内に貯蔵してあったアイテールは渚が目覚めた際に自爆して消滅している。その後にグリーンドラゴンがあの場から宇宙船を発掘したということは、基地の自爆の爆発が届かぬほどに宇宙船が頑強に封印されていただろうことは間違いない。それがどういう意味を持つのかまでは渚たちには分からないが。


「それで機械獣の群れが四方八方に散り、その一部がこの村に到達したというわけですわね。他の都市や村の状況が心配ですわ」

「その調査もあって私が動いてたわけ。機械獣の進行速度よりも早く動けないと意味ないから。一応コシガヤシーキャピタル、カスカベの町、クキシティ、ハニュウシティは問題なかった。ただ、機械獣も迷っている可能性が高いから時間差で来る可能性は十分にあるのだけれどね」


 瘴気による情報の遮断は人類だけに影響するものではなく、それ故に無数の機械獣の群れが埼玉圏内を彷徨う状況となっているはずであった。


「西部の方も不味いだろうな。オオタキ旅団が壊滅状態だから、まともに統制取れてねえんじゃねえか?」


 ルークが物憂げな顔でそう口にする。


「オオタキ旅団がいないと……ヤバイのか?」

「まあな。あんな連中の支配下でも無秩序な状態よりはいいだろうよ」


 圧政であろうと、悪政であろうと、一定の秩序がないよりはマシなのは過去の歴史からでも明らかで、実際にオオタキ旅団による力の支配は正しく機能していたからこそコシガヤシーキャピタルともやり合えていたとも言える。けれども、それが今はない。


「それについてはガヴァナーが考えてるみたいだけど」


 ウルミの言葉にマーカスが目を細めて頷いた。


「その点は母上に任せておけば問題はないだろう。少なくとも今俺たちに西部に対して何かをする余裕はない」

『まあ、僕たちはまず自分たちのことを考えるべきだろう』

『で、どうする?』


 そしてプロミスが問う。問題は今後の自分たちの対応だ。


「うーん。まずはここの防衛だな。散った機械獣はこちらから積極的に狩りに行くことはできないし、昨日一昨日の規模の襲撃がまたないとは限らないよな?」

「ですわね」


 渚の言葉にリンダが頷き、他のメンバーもそれには異存ないようだった。


「で、あたしとしては暴れているグリーンドラゴンをどうにかしたい」

『そうだね。一番の不安要素はアレだ。アイテールがなくなったからどこかにいってくれるならいいんだけど、場合によってはアイテールを奪いにくる可能性がある』

『ここが襲われたら防衛は不可能。入り口を閉鎖しても地中には崩壊の影響で細かい穴がある。そもそも機械種を相手に地下都市程度では防衛は不可能』


 プロミスの言葉にリンダやルーク、ミランが驚きの顔をする。彼らにしてみれば地下都市というものは絶対的な存在だ。それはこの埼玉圏内では信仰にも近い。けれども機械種にとって地下都市とは所詮ただの都市のひとつであり、壁も破壊するなり融合するなりしてしまえば容易に対処は可能なのである。


「じゃあ、どうしますの?」

『こればかりは運に期待するしかないでしょうねリンダ』


 黒猫のクロがそう返す。それに他のメンバーも不安げな顔をしたが、渚は少しだけ考えてから口を開いた。


「対処のしようがないことを考えても仕方ないんじゃねえかな。来たら逃げる。それを徹底しよう」


 渚が以前に目撃したグリーンドラゴンの姿を思い出しながら言う。アレが相手では戦いにすらならないし、あの質量を止めるすべなどないのだから防衛が意味をなさない……と渚は理解していた。


『そうだね。今の僕らにグリーンドラゴンを倒すのは不可能だろう。僕の本体なら進化すれば可能性はあるけど、戦う前に天国の円環ヘブンスハイローから質量兵器を撃たれて埼玉圏はお終いだ』

「そうだな。で、戦えないなら出ていってもらうしかないわけだけど……となると方法は?」

『アイテールを補充させる』


 プロミスの言葉にミケがヒゲを揺らしながら頷く。


『そうだね。グリーンドラゴンの奪われたアイテールを補充して宇宙船を飛ばしてやればいい。簡単な話だね』

『この地下にもアイテールは貯蓄している』


 プロミスの提案にミケが今度は首を横に振った。


『それは今後の地下都市復興の際に使いたいから最後の手段だ。それに他に当てもあるしね』

「当て?」


 首を傾げる渚にミケが『そうだよ』と返した。


『何しろ、これは僕たちだけの問題じゃない。埼玉圏全体の問題だ。機械種を前にしては地下都市とて例外じゃないのさ。そうだろうミラン?』


 ミケがミランを見てそう言った。そしてミランが眉をひそめてミケを睨んだ。ミケが何を言いたいのかを彼女は理解したのだ。


「ミケ、まさかあなた?」

『まさか……ではないよ。必要な状況になる可能性を考慮して彼らは貯めていたんじゃないか。機械種に渡すことまで想定していたわけではないだろうけどね』


 その言葉を聞けば渚たちもミケが何を狙っているのかに気がついた。何しろ彼女たちは数日前にソレをクキシティまで運んでいたのだ。


『それでも地下都市と僕らは協力関係にある。であれば、協力してもらおうじゃないか』

「そりゃぁ、ハイアイテールジェムを使うってことかミケ?」


 そして、その渚の問いにミケがにゃーと鳴いて頷いた。

【解説】

宇宙船:

  詳細不明。軍事基地のさらに地下に封印されていたことから、エイリアン・ウォー時に使用された宇宙戦艦の生き残りの可能性がある。

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