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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
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第246話 渚さんと不吉な予想

『うーん。これはどういうことだろう?』


 戦闘終了後。機械獣からアイテールやパーツを回収し終えたミケが用意された村長の部屋の中で難しそうな顔で唸っていた。


「何を悩んでんだよミケ」


 いつもとは違うミケの様子にそばで休んでいた渚が眉をひそめながら尋ねる。

 基本的にナビゲーションAIであるミケが困惑を見せることは少ない。情報を整理し、すぐさま状況を把握することができるし、分からないということは分からないものとして判断した後は検証を繰り返すことはあっても悩むことはない。けれども、今のミケはここまでとは若干違う戸惑いを見せていた。


『いやね。おかしいんだよ。昨日の機械獣に加えて今日の機械獣の群れもアイテールをかなりの量溜め込んでいたんだ。正直に言って今回の襲撃では地下都市の備蓄から相当な出費を用いたはずなんだけど……それが丸ごと補填できるくらいにアイテールが回収できている』


 ちなみに撃破率から機械獣の回収した戦利品の大部分は渚たちのものとなっていたが、だからといって狩猟者ハンターたちの取り分が少なかったというわけではなかった。それほどに今回と前回の戦果は大きいものであったのだ。それはミケの認識からしても大き過ぎるほどに。


「なあ、ミケ。それの何がいけないんだ? 予想よりもアイテールが多く手に入った……ってことなんだよな? 悪いことじゃあないだろ」

『そうだね。そこだけを切り取って考えればその通りだよ』


 その会話が聞こえたリンダやマーカス、ルークもふたりに近付いて耳を傾ける。

 なお、この場にいないミランダは強化装甲機アームドワーカーで回収作業の後片付けをしており、ミランは地下都市からの指示があったらしく村長と打ち合わせに入っていた。


『問題はね。あの機械獣たちがどこから来たか……ということなんだよ渚』

「そりゃあ、グリーンドラゴンのところから……だよな?」


 渚の言葉にリンダたちも頷き、それから全員が「ん?」という顔をする。渚の言葉に妙な違和感があることに気づいたのだ。


「だとしたら……なんでアイテールがいっぱいあるんだ?」


 その渚の問いはリンダたちにとっても同様の疑問だった。


『そういうことだよ渚。機械獣たちは軍事基地の地下にあった宇宙船に大量に眠っているであろうアイテールを狙って集まっていたはずなんだ。けれども宇宙船はグリーンドラゴンが融合を行い、守り続けていて彼らは近付けない。監視している騎士団からの報告でもそうなっていたよね?』

「ああ、その認識で間違いはない。クキシティを出る前の報告ではグリーンドラゴンと機械獣の間で戦闘が起き、それで機械獣の群れのいくつかが離れた……と報告を受けていた。これは以前に話した通りのはずだ」


 マーカスの言う通り、その情報は全員がすでに共有しているものだ。だからグリーンドラゴンの攻撃から逃れるために機械獣は動いていたのだと渚たちは理解していた。

 けれども逃げたはずの機械獣が多量のアイテールを保持していたとなれば、前提が崩れる。つまり機械獣は奪えず逃げて来たのではなく、奪ったからこそ離れたのではないか……と。


「おいおい。それじゃああいつらはグリーンドラゴンから奪ってここまで来たってことなのか? あのグリーンドラゴンだぞ?」


 ルークの疑問はこの場の全員共通のものだ。グリーンドラゴンは埼玉圏の伝説そのものだ。遭遇すれば死は免れず、それは天災そのものであるのだと。機械獣も脅威には違いないが、その危険度は熊と竜巻の差に等しい。


「そんなことが、まさか……可能ですの?」

『問題はそこでね。機械種であるグリーンドラゴンが倒されたとは考えにくい。けれども現状はグリーンドラゴンが機械獣にアイテールを奪われた可能性が高いとも予測できる。少なくとも今僕らの持つ情報からはそう判断するしかないわけだ』

『そうなると、事態は少し深刻かもしれないですね』


 フィールドホロで出現した黒猫のクロがそう口にする。


「クロ、どういうことですの?」

『簡単ですよリンダ。グリーンドラゴンは宇宙船と融合しようとしていました。つまりは宇宙に向かうつもりだったというのは分かりますね』

「それは、そうですわね」


 仲間のもとに向かうのか、別の目的があるのかは分からない。けれども宇宙船を使ってグリーンドラゴンがどこかに向かおうとしているというのはリンダも理解している。


『こちらがどうにかするまでもなく、準備が整えばグリーンドラゴンは勝手にいなくなってくれる可能性は高いと私たちは判断していました』

『アレがどの程度の期間でここから離れるかは分からなかったけど、その点だけは楽観視していたんだよ。まあ、周囲の機械獣を散らしてそれを早めよう……ということくらいは考えていたのだけれどね』

『けれども燃料がなくなったら……飛べません』


 クロの指摘に渚が「確かに」と返す。飛べない以上、グリーンドラゴンが融合した宇宙船から再び己を切り離してその場を移動するかは分からない。居残り続けるなら機械種反応をふたつ同時に観測させるわけにはいかない以上、コシガヤシーキャピタルにいるミケの本体を移動させることができなくなる。それどころか……


「おい、ナギサ。それって、場合によっちゃあグリーンドラゴンがアイテールを求めて周辺を襲う可能性もないか?」

「ああ。ない……とは言えないよな」

『そうだね。僕としてはどこかの地下都市が襲撃される可能性は高いと思う。アイテールを一番貯蓄しているのは地下都市だから』


 ミケの指摘に全員の顔が強張った。


「それはつまり、ここにも?」

『可能性がないとは言えないよ。グリーンドラゴンがどういう認識を持っているか分からないけど、少なくとも機械獣と違って『機械種』は必要があれば地下都市を攻撃することを厭わないだろうからね』


 命令の優先順位は地下都市よりもミリタリークラスに該当する機械種の方が高い。そして自分たちが導いた推測を前に全員が言葉に詰まり、その場が静まった。そして時間がわずかに流れた後、渚の耳に「なんだよ」と言う声が届いた。


「勝利の後にしては随分とシンミリしてんな」

「あ、バルザさん」


 渚が部屋の入り口に視線を向けるとそこにいたのはアゲオ村の村長バルザだった。


「よお、今日も昨日もご苦労だったな。ちと緊急の用だっていう客人が来たんで連れて来たぜ」

「この状況で緊急かよ。嫌な予感がするぜ」

「俺もだ」


 ルークとマーカスが苦い顔をしてそう言い合うと、バルザの背後からスッと女性が現れた。そして、その人物を渚たちは知っていた。


「ここにいると聞いたけれども、マーカス団長もいるとはね」

「あれ、ウルミさんじゃん」


 そこにいたのは、かつて渚たちが共に戦ったコシガヤシーキャピタルの騎士のひとり、ウルミであった。

【解説】

宇宙:

 現在判明している宇宙の勢力はオービタルリングシステム『天国の円環ヘブンスハイロー』にいる天上人と月面基地にいる月界人ルナリアン、地球を捨てた火星人マーシャン金星人ヴィーナシアン外宇宙脱出計画コスモエクソダスにより太陽圏外を離脱し散っていった『エクソダス星船団』などが存在しているが、いずれも渚の生きている時代では生存が確認できていない。

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