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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
242/321

第242話 渚さんと大小オッター

「ええと……機械獣がまた来たって、それどんな感じなんだ?」

『これ』


 その問いにプロミスが空中に出現させたホロウィンドウを渚の前に投げた。そこには確かに機械獣の群れが表示されていた。


「これ、どうやって撮影してんだ?」


 瘴気の中では通信は遮断されてしまうというのが埼玉圏の常識だが、プロミスは『有線』と返した。


『地下都市から外に向けられた監視カメラのひとつ』

「へぇ。便利だな、そりゃあ」

『とはいえ、通常時はあまり使わない。黒雨対策のフィルターを通し、解析除去を行う必要がある』

「除去?」

『それはね』


 首を傾げる渚にミケが口を開く。


『映像データからのハッキングをかけても来るんだよ、黒雨ってのはね。分散した情報を映像解析処理を利用して内部で結合し、そのままバックドアを仕掛けるなんて芸当もできる。アイテール変換装置をハッキングすることはおろか、視覚情報を通して人体にナノプラントを作って自身を量産させることも可能だからね。この地下都市でも診断して除去する機能が付いているんだろう』

『そう』


 プロミスが頷く。手間はかかるとしても、常時監視は黒雨への対策としては必要なものだった。それから全員の視線がホロウィンドウに映る機械獣に集中する。


「それで機械獣だが、この小さいのは多分ランドスモールオッターだな」

「オッター?」

『カワウソのことだね』


 ミケの言葉に渚がなるほどと頷いた。確かに見た目はカワウソだ。それは動物を模しただけの機械ではあるはずだが、その表情はどことなく愛嬌があり、今まさに迫って来ている敵であるにもかかわらず、どことなく和みを与える外見だった。けれどもそこにいるのは、その小さなカワウソの機械獣だけではなかった。


「なんかデカいの混じってないか?」


 渚が指差した先にいるのは、ランドスモールオッターと形は似ているものの五倍は大きい機械獣だった。それを見てルークが眉をひそめる。


「そいつはランドギガントオッターだ。それも二十体か。厄介だな」

「強いのか?」

「まあな。プロミス、拡大してもらっていいか?」


 ルークの言葉にプロミスが頷くとホロウィンドウ内の映像がズームし、ランドギガントオッターの全容が明らかになっていく。機械であるにもかかわらず筋肉質なフォルムにまるで地獄の鬼のような形相をした顔が付いた機械獣にリンダが一歩引いた。


「こ、殺し屋みたいな顔しておりますわね」

「ああ。鋼鉄も容易に噛み砕くし力も強い。強化装甲機アームドワーカーを噛み砕いて喰ったなんて話もある」

「それは事実だ。腕ごと持っていかれたヤツが騎士団にはいる」

「うへぇ、そいつはご愁傷様。まあ……ともかくあいつらの厄介なところは集団で戦うことだ。それにランドスモールオッターも面倒でな」

「あそこまで姿勢が低いと銃が当たりにくい?」

「そういうことだ。それと表面も銃弾を弾きやすいし、テクノゲーターと違って大口を開かないし関節部の隙間も少ないから単純に弱点が少ない。装甲そのものはそこまでの強度はないけど数が多いし、連携が上手いんだ」

「テクノゲーターよりも構成パーツが少ないことも確認されていたな。電磁流体装甲もオミットしていて、テクノゲーターよりも安価だが同レベルの性能の機体に仕上がっているらしい。言ってみればアレはテクノゲーターの後継機に近い」

「ワニからカワウソに進化ってダーウィン無視し過ぎだろう」

「誰だそりゃ?」


 ルークの問いに渚が肩をすくめる。進化論を説いた人だった気がしたが、説明できるほど渚は覚えていなかった。


「ランドスモールオッターは可愛いのにな」

『見た目に騙されては駄目だよ渚。それよりもプロミス、アレらが現在いるのはどこなんだい?』

『このアゲオアンダーシティから南下した位置。およそ十分ほどで地上の集落に接触する。すでに地上では接近に気付いていて動いているみたい』


 それはつまりリミナたちが戦闘の準備をしているということなのだろうが、前回の五倍の大群相手では生きた心地はしていないだろう。であればどう動くか……それを誰かが口にする前にミケがプロミスに問いかけた。


『プロミス、君たちの権限で迫る機械獣への対処は可能かい?』

『できない。アイテール回収型ドローンと我々は敵対していない。また敵対したとしても地下都市外への戦力の投入は許可されない』

『なるほど』

『機械種様が制圧すれば別。けれど今はできない』


 つまりは現状、プロミスたちは機械獣との戦いに参加はしないということだった。


「ええと。だったらみんなを地下都市内に避難させるのはできるのか?」

『ロビー付近なら肯定。あの場所ならゲスト権限を無制限で発行可能だから』


 その言葉に渚とミケが頷きあう。以前にも村の住人は地下都市内に避難していたが、ガードマシンに排斥される恐れがないのであれば、これまでよりもずっと安全が確保できることになる。


「へぇ、地下都市は入り口だけでも結構な広さがあるからな。あの場所が使えるなら、村の人間全員が生活することも可能じゃないか?」


 地下都市内であれば、黒雨による大雨と雷の影響を回避もできる。とはいえ、それは戦いの後で考えれば良いことだ。だからリンダは「ひとまずは避難ですわね」と口にした。


「ああ、すぐさま地上に戻ってみんなを地下都市内に誘導して……とはいえ、村を荒らされるのは良くはねえよな」

「確かに。対処しないと今後の生活もあるし、場合によってはクキシティに向かう可能性もある」


 そしてクキアンダーシティは当然の如く助けはしないだろう。そもそもプロミスの話を聞く限り、地下都市はその意思はどうあれ、地上を直接助けることはできないようである。そしてミケがさらに口を開いた。


『あとひとつ、良いかなプロミス?』

『肯定。質問を』


 その問いに頷くミケがこう尋ねた。


『この都市内の武器さ。ぼくらが勝手に使う分には問題ないよね?』

【解説】

ランドスモールオッター:

 埼玉圏では、ランドスモールオッターを見れば子供が笑い、ランドギガントオッターは見たれば大人も泣く……というジョークがある。

 外見だけで判断してはいけないが、機械獣に関しては見た目通りの凶暴さを持っている。

 なお、姿勢が低い機械獣は全般的に直立型に比べて戦いにくい相手であり、特に戦い慣れていない新米狩猟者ハンターにとっては天敵となる。

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