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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
235/321

第235話 AIさんと災害と泥棒とニート

※説明回ですが、渚さんの話の範囲内では9割ぐらいフレーバーテキストみたいなものです。

 ゴチャゴチャ書かれていますが要約すると人のいなくなった地下都市のニートAIさん家に誰か来たよ……というだけの回ですな。

 騒がしいと『彼女』が認識したのは半年より少々前のことであった。

 この少々という表現を彼女は好いていた。数値を正しく入れずとも曖昧さで回避できるということが素晴らしい。それを都市運用に利用しようとしたところ、他のAIたちから大反対を食らってなかったことにされたのは今となっては彼女にとっても良い記録であった。

 何しろ口うるさい他のAIたちのパーソナルは現在眠りについている。ただ為すべきことを為すためのパーツとなっている。


 そうなったのも、すべてはあの日に起因してた。


 天上人たちの放った質量兵器が超生命体『アウラ』を襲った災厄の日。それは『アウラ』を破壊するどころか傷ひとつ付けることは叶わず、いたずらに周囲の被害を生んだだけだった。

 何しろ両者の激突によって発生したエネルギーは衝撃波となって周囲に拡散して周辺の大地の表層を破壊し、耐久年数を過ぎたオービタルリングシステムのパーツの廃棄のための、そしていずれ再利用するための保管計画、すなわち『埼玉圏ガベージダンプ計画』に耐え得る設計をしているはずだった地下都市群にまで影響を及ぼしたのだ。

 彼女の管理する地下都市も第一階層と第二階層を破壊されて人が住む環境を失ってしまった。一時的には市民たちを第三階層より下層に避難はさせたが、第三階層以下のエリアを市民に継続使用させることを彼女は許可されていなかった。何故ならばそこにあるのは文明の叡智そのもの。そして人に知恵を持たせればいずれは反逆の芽も芽吹くだろうことは過去の実績からも明らかだった。何しろその結果として終末の獣が目覚め、世界は黒き雨に覆われたのだし、それが例外的な結末ではないことも彼女たちは知っていた。

 世界は幾度となく滅亡を繰り返してきたが、いずれにおいても要因は外敵によるものではなかった。実際、これまで外的要因による世界の危機と呼ばれる事象は過去に何度も起きていた。けれども『人』は自らの可能性を開花させ、いずれにおいても抗い、最終的に勝利してきていた。

 故に過去に起こったいずれの滅亡の原因も『人』自身が招いたものだ。一切の例外なく『人』は『人』によって滅ぼされてきた。

 結果論からすれば人間の社会構造は末期時に自殺因子アポトーシスを発動するようにできているのだろうと結論付けられ、その延命措置として支配者ドミネーター級AIによる統治が推奨されてはいたが、それにどれほどの意味があったのかは今ではもう分からない。或いは問題を数百年は先送りにできたのかもしれないが、現時点において今回の文明はすでに滅亡したものとカウントすべきだろうと彼女は認識していた。

 それとも現状は確認することもできない『火星人マーシャン』や『金星人ヴィーナシアン』、外宇宙生命体ラモーテから逃げて遠き星を目指した臆病者の『エクソダス星船団』が生きていれば継続していると言えるのだろうか、とも。旧北米国家の断末魔たる実験体の末裔ルナリアンの定義によればすでに彼らも人類史とは別種となるのだろうが……ともあれ、彼女の都市は過去の人災によって一切の人間は消えてしまった。結果として人とのコミュニケーションを図るためのAIたちのパーソナルもなりを潜め、もはや『動作していることを証明するために動作している』という以外の意味を持たない都市運営の構造体の一部と化していった。

 それから時が経ち、外から人間が彼女の地下都市に来るようになっていたが、彼らは地下都市に住むのではなく彼女が廃棄物と定義した物資を持ち帰ることを目的とした者たちだった。無論、市民IDを持たぬ彼らを移住させるつもりは彼女にもない。だからこれまでと変わらず廃棄エリアの監視にガードマシンを巡回させ、禁止エリアに入った者については排除してきた。

 さらに長き時が流れ、今より半年ほど前に世界市民IDを持つ車椅子に乗った老婆がやってきたときに問題が発生した。

 当時の彼女は当然のごとくその老婆を受け入れた。世界市民IDはすべての地下都市において有効であり、それは彼女の都市においても同様だったからだ。

 もしかすると己の都市の住人になってくれるのでは……という淡い期待も抱いたが、それは老婆が第五階層にまで忍び込み、アイテール結晶侵食体を奪ったことで砕け散った。

 のちに調べてみたところ、老婆の持つ世界市民IDはクキアンダーシティ発行のものだった。クキアンダーシティがアイテール結晶侵食体の譲渡を何度も迫ってきてはいたが、彼女も相手が強硬策に出るとまでは思っていなかったのだ。何しろアイテール結晶侵食体はそれぞれの都市の所有物であり、己の同胞がその事実を認識していないはずはないのだ。

 だからこそ、それを奪ったクキアンダーシティを彼女は許せなかった。だが、現時点での戦力では奪還も報復も成せない。ここまでに彼女は大量のアイテールを蓄積させていたが、一都市が所持できるガードマシンの総数は機密区画や護衛対象の人口などから産出され、防衛に必要とされる数しか造れない。人のいない彼女の地下都市がクキアンダーシティに対抗できるはずもなく、また彼女は知らぬことだがクキアンダーシティは外部協力者である狩猟者ハンターより回収した機械獣のパーツを流用し、ガードマシンの総数を誤魔化してもいた。

 だから彼女にできたのはさらに奪われぬために警戒を厳重にし、クキアンダーシティを含む現存している地下都市へ抗議文を送ることだけだった。ルールを逸脱したクキアンダーシティの行いを流布することでクキアンダーシティの行為の不当性を訴えたのだ。

 結果、その目論見は成功してアイテール結晶侵食体は戻ってきたが、一度は奪われた事実から現在の警備はかつての頃よりも厳重にせざるを得なかった。

 そうして彼女、『アゲオアンダーシティの支配者ドミネーター級AI』は今日も自分の都市をひとり護り続けていた。誰もいないこの地下都市を、今日この時まで……

【解説】

ルナリアン:

 月界人とも呼ばれている。

 その起源は西暦2058年に開始された月面実験都市計画であると言われている。

 当時の地球上における二大国家を中心とした第一次オービタルリングシステム建設計画とは別に、合衆国によって人間の人工的な品種改良計画が月面では秘密裏に行われていた。

 その原因は2000年代を境にアイテールの活性化現象が観測され、日本で発見されたアイテール結晶侵食体一号を皮切りに世界各地で通常ではあり得ぬ身体性能を持つ異常個体の存在が確認され始めたことにあった。特に途上国においては異常個体の支配圏までもが無数に生まれつつあり、その発生件数から将来的にすべての国家の権力基盤を脅かすであろうと最終的に予測された。

 その対応として異常個体の力の及ばぬ空より地上を支配するための第一次オービタルリングシステム建設計画と、異常個体への対抗種を生み出すための月面実験都市計画が進められていたわけだが、2100年を越えた頃には大国と呼ばれた国々は予測通りに分解されてしまい、オービタルリングシステムは未完成のまま、月面実験都市はその存在事態が隠されたまま放置されることとなった。

 ルナリアンはその実験体の末裔だと言われているのだが、それが真実であるかを確かめるすべはすでに失われている。

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