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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
232/321

第232話 渚さんと驚きの村長さん


「あー、マーカスさんってやっぱり有名人なんだよな」

「んな、呑気な。この埼玉圏じゃトップテンに入るくらいの人物だよ」


 渚の軽い言葉にリミナが頭を抱えながらそう返した。埼玉圏内の人間は騎士団に抵抗がある者も少なくはないが、マーカス・ウィンドは別格だ。狩猟者ハンターであっても軽んじることができないほどに、ここまで築き上げてきた彼の実績は大きい。

 とはいえ、渚にとってのマーカスはガヴァナー・ウィンドの息子であり、オオタキ旅団団長のザルゴと戦った時の戦友である。残念ながら埼玉圏歴の浅い渚にとってマーカスに対してはそれ以上の印象はなく、そんな渚の様子にバルザもリミナもなんとも言えない顔をしていた。


「で、ナギサはなんだってそんな人の下に付いてるんだい?」

「いや、それは違う。ナギサが下なのでなく、俺がナギサの下にいる」

「は?」「何?」


 予想外のマーカスの返しにリミナとザルゴが惚けた顔をして、それからふたりは「どういうことだ?」という意味を込めて渚を見た。


「まあ、マーカスさんはアゲオアンダーシティ復興計画委員会のメンバーで、あたしがリーダーってことだよ」

「アゲオの復興だと?」


 バルザが目を細めて尋ねる。言葉の意味は分かる。ただ、それはバルザにとっては妄想の類にしか思えない。或いは自分の解釈が違っているのではというバルザの懸念を……


「アゲオアンダーシティを直す。そんでみんなで住む」


 渚は吹き飛ばした。


「おいおい、そんなことできるわけが」

「コシガヤシーキャピタルはナギサに全面的に協力することになっている」


 バルザの言葉を遮る形でマーカスが口を出し、それにバルザが言葉を失い、目を泳がせ、それから渚に改めて視線を向けた。


「ほ、本当なのか?」

「冗談でマーカスさんが来るかよ。埼玉圏トップテン入りなんだろ」


 その返しにバルザが「うむむ」と唸った。確かにあまりにも現実離れした空想……と切り捨てるにはその場にいるメンツがおかしかった。またここにはいないがクキアンダーシティの代理人も来ていることはバルザも報告を受けていた。実のところ、バルザの立場で言えば本来はマーカスもミランも頭を下げて歓待すべき相手なのだ。


「それはつまりコシガヤシーキャピタルが協力し、クキアンダーシティもそれを認めているというわけか?」

「そうだな。アゲオアンダーシティ次第だけど、他のアンダーシティの協力だって仰げるようにクキアンダーシティの市長さんらには話を通してるよ。ま、来る途中で村が襲われるって聞いて急いで飛んできたんだけどさ」

「それはまあ、非常に助かったんだが……ナギサ。お前、なんだってそんな状況になってるんだ?」

「なんだってって言ってもなぁ。やれることをやるって決めただけだよ。まあ、そういう遺失技術ロストテックを手に入れたと考えてくれればいいんじゃねえかな」


 その言葉にバルザが訝しげな顔をするとミケが口を開いた。


『ああ、その遺失技術ロストテックを他の人間が独占するようなことは無理だと一応言っておくよ』

「いや、独占なんぞ考えてやしないさ。ワシはまだ死にたくはないからな」


 この埼玉圏の権力を丸ごと相手にするのに等しい所業を行えるほどバルザは自殺志願者ではなかった。しかし、まったく何も口を出さないというわけにもいかない。バルザはアゲオ村の村長で、村の人間に対して責任がある。


「そ、それよりもだ。その話が進んだとして、ワシの村はどうなる?」

「そうだな。今後はダンジョンとして遺失技術ロストテック探索をさせるわけにはいかなくなるだろうが、コシガヤシーキャピタルや、クキアンダーシティおよび周辺のアンダーシティの協力も仰いで大規模な工事が行われることになるだろう。バルザ村長、こちらの意図に添わぬ行動をしない限りはお前が村長のままでも問題はない」


 マーカスの言葉にバルザが目を細めて頷く。

 村長としての地位は維持。村も存続……どころか各方面のバックアップがあるということは今以上に栄えるのは間違いないだろう。けれどもバルザにとっての終着地点はそこではない。そのことを理解しているマーカスは話を続けていく。


「その上でアゲオアンダーシティの修理が完成した暁には村の人間の地下都市への移住も叶うだろう。それはナギサの意向でもあるからな」

「本当なのかい? ミミカも入れてくれるんだろうね?」

「ああ、そのためにやるんだよリミナさん」


 渚が真面目な顔で頷いた。


「ふふ、そりゃあいいね。バルザ、私は乗ったよ」

「ふぅ。年甲斐もなくはしゃぐなリミナ。それにどう足掻こうと乗るしかないさ。この状況ではな」


 バルザがため息混じりにそう返す。

 マーカスは言ったのだ。『こちらの意図に添わぬ行動を『しない限り』はお前が村長のままでも問題はない』と。

 つまりは反対や妨害をすれば排除される。大きな流れの中では己の命など吹けば即座に飛ぶだろうと。その事実に苦笑しつつも、それでも未来にもたらされるのは輝かしいものではないか……とバルザも感じざるを得なかった。

【解説】

埼玉圏トップテン:

 マーカス、ウィンド、ザルゴ、ヘラクレス、トリーは入っている。世間は狭い。

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