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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第023話 リミナさんとお酒の肴

「で、本当に良かったのか。メディカロイド、壊れているとはいえ……ありゃあ直す気みたいだぞ。やはり勿体無いだろう」


 村長の家の中、バルザがそう口にした。

 その言葉をぶつけられた相手はリミナだ。渚たちが3人仲良く夕食をとっているのと同じ頃、リミナはバルザとミーティングも兼ねてふたりで酒を飲んでいた。


「メディスン系統のマシンアーム……であれば直せるかもしれないねえ。けど、どの道マシン技師たちが匙を投げてたシロモノだ。分解してバラ売りしようにもナノマシンプラントもAIボックスも動かなかったんじゃあ、二束三文で買い叩かれるのがオチさ。それが嫌だってんで放置していたもんだから、今回であの子に恩を売れたと考えれば逆に良い買い物だったと思えないのかねえ」


 リミナが合成酒をあおりながら、そう返す。

 彼らが飲んでいるのはアイテール変換装置で生み出された味の悪い安酒で、ただ飲めれば良いという程度の代物だ。

 この地上ではそれ以上の品はほとんど出回ってはおらず、地上の人間にはそれでも贅沢品の類であった。その酒を飲みながら、バルザが目を細めて尋ねる。


「あの娘。確かにマシンアームこそ上等だったが、お前がそこまで入れ込むほどの相手か。ガキだぞ?」

「馬鹿言ってんじゃないよバルザ。当然、入れ込むさ。マシンアームが重要なんじゃない。あの子の力の本質は多分そこじゃない。これで渡したメディカロイドが実際に直っていたら、尚更私の言葉が正しいって分かるだろうさ」


 そう言ってから、リミナが自嘲した顔をしてから首を横に振る。


「いや、そうじゃあないね。それはそれさ。何よりナギサは娘の命の恩人だ。ミミカの前でアレを見せずにも済んだ。バルザ。アンタには悪いが、私はあの子の味方で通させてもらう」


 リミナがそう言って、自身の腕を見た。

 そこにはまるでひび割れたかのような痕があった。

 それこそはレギオンラットと対峙したリミナが奥の手を使おうとした際にできた変容痕だ。

 実のところ、あの戦いは『あの場からでも』リミナは倒しきることも可能であった。

 ただ『変身』した姿を娘に見られることを嫌ったリミナは最後の最後まで躊躇し、限界と感じた段階でミミカが崖から落下してしまったのだ。

 状況からして渚がいなければミミカが死んでいた可能性は高く、現役から遠ざかったとはいえ、その事実はリミナにとってはひどく重いものだった。

 だからこそ、余計に渚への感謝の念が強くもある。

 そのリミナの言葉にバルザは「そうかい」と返して、酒を飲む。


「それにさ。あの子はまだ若いし、世間を知らない」

「そのようだな。あの肌……リンダと同じ市民か?」


 バルザの問いにリミナが肩をすくめた。


「私も最初はそう思ったけど……あの肌は綺麗ではあるが、地下都市育ち特有の青白い肌じゃない。リンダとはやっぱり違うだろ?」

「そこまでしっかりと見たわけではないが、となると首都民か?」

「さてね。多分別の土地の人間なんじゃないかと思うけど……まあ、あまり詮索はしない方が幸せな気もするね」

「かもしれん」


 あまり嬉しくもなさそうな顔でバルザは頷く。

 ここ最近イレギュラーな出来事が立て続けに起こっているため、彼の近辺は非常に慌ただしくなっている。シティから来た上級市民の探索者トレジャーにミリタリークラスのガードマシンを起動させられ、今日シャッフルと呼ばれる機械獣の動きがあったことも確認された。


「本当に、これ以上の面倒ごとはごめんだな」

「だったらごねずに黙って見送りな。それに素性はともかく、あの子は初心うぶだ。恩人が変な連中に取り込まれて不幸になるのはちょっと頂けない」

「お前みたいに……か?」


 バルザの問いにリミナが苦笑する。若気の至りとはいえ、リミナも随分と無茶もしたし、痛い目も見てきた。


「そういうことさね。ま、ミミカはいい子だ。父親なんてどうでもいい。でもそんな子を増やす気も私にはないんだよ」

「だからリンダも贔屓にするか。まあお前の意図は理解しているし、メディカロイドはもう渡したんだから諦めるさ。だがな」


 バルザがサイタマトカゲの燻製肉を刺したフォークをリミナに向ける。


「お前もあまり情を移し過ぎるなよ。母性が騒ぐのはいいが、手を広げすぎるな。足元が見えなくなったら意味がない。お前の役目はこの村の防衛、ひいては娘を護ることだ。それを第一に考えておけ」

「分かってるさバルザ。それに私だって別に考えなしじゃない」

「それはナギサを『あの』リンダとコンビを組ませようという件のことか」


 その問いにリミナが頷く。

 それは先ほどバルザがリミナより聞かされたことだった。リミナが拾ってきたサイバネストの娘と、リミナが預かっていたバーナムの娘を組ませるという話だ。


「ナギサは良いよ。強いし、ああして治療だってできるし、それに元気だしね。あのビークルに、直せればメディカロイドも付くわけだ。狩猟者ハンターになればすぐさま活躍もするだろう。けど、あの子は使え過ぎて、場合によっては使い潰されかねない」

「だから、リンダのバーナム家に庇護させると? 結果的にルークも付くわけか」


 リミナの頷きにバルザが苦い顔をする。

 その案件もバルザにとっては頭の痛い話であった。リンダ・バーナムの扱いは非常に難しい。かつてのよしみでリミナへの指名があったために、止む無く村とも関わりができたが、アンダーシティの上級市民のお家ごとなど、できれば抱え込んでほしくはない事案だった。

 そのバルザの心の内を察するように、リミナがさらに苦笑しながら話を続ける。


「それは同時にリンダの生存にも繋がるさ。地上に残ることを『志願した』リンダの意思は尊重しているんだろうが、バーナムの御当主も激情家だ。大事な孫娘まで失えば、こっちにどうとばっちりが来るかも分かりゃしない。やれる限りは義理も筋も通す。どちらにとっても最善を選ぶ。それが私の生き方さ」

「それも明日、あいつらが全滅したらご破算だがな」

「ま、そこはそれだよ。あんたが私を行かせなかった以上、今の状況じゃあ、あの子らに頼るしかないんだ」


 その返しにフンッとバルザが息を荒くして酒をあおり、リミナも注がれたソレを飲み干した。

 翌日に渚たちは出立する。リミナの見立てであれば、ふたりならば機械獣を倒せずとも生き残ることはできるだろうという算段があった。もっとも現実は終わってみなければ結果は分からない。

 だから今のリミナにできることはただ彼女らの無事をこの村から祈るだけであったのだ。

【解説】

変容痕:

 一部の強化兵士は自身の肉体を変体メタモルフォーゼさせることで驚異的な身体能力を得ることが可能となるが、元に戻った後でもしばらくの間は身体に変体の名残の痕が残る。

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