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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
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第229話 リンダさんと最速の翼

 アーマードベアアンサー。

 それはかつてアゲオ村とクキシティの間に居座っていたアーマードベアの群れのボスであり、当時のリンダでは手も足も出ず渚に任せるしかなかった機械獣だ。

 その全長はアーマードベアよりも大きく、分厚い装甲を持ち、左右の腕と背にブースターを装備し、さらにはエアウォールという空気の壁を発生させることも可能で、極めて戦闘能力に秀でている個体だ。けれども、今のリンダはかつての強敵を前にしてもしっかりと相手を見据えて立っていた。


『クロ、いいですわね』

『愚問ですよリンダ。それよりも心拍数が上がっていますが大丈夫ですか?』

『ちょっと興奮しているだけですの。問題はありませんわ』


 リンダがそう返しながらも腰を落とし、自身のマシンアーム『ヘルメス』のコンソールを操作する。補助兵装『ヘルメスの翼』は極めて強力な兵器であり、その出力の高さと危険度、また燃費の悪さと制御の難しさから常時発動することはできない。そのため、通常は厳重にロックがかかっており、封印を解除できるのも現在ではマスターとなったリンダだけであった。

 そして封印解除によりヘルメスの翼が起動し、足首に設置されている小さな銀の翼が蠕動し始める。


『GUMAAAAAAAAAAAA!』


 対してアーマードベアアンサーはリンダの動きなど気にも留めずに咆哮しながら突撃を開始した。


『単純な動きですわね』


 リンダが焦ることもなくそう呟く。アーマードベアアンサーの三点ブーストからのチャージアタックは岩をも砕く凶悪な突撃ではあるが、渚の発動させている箱庭の世界ミニチュアガーデンの恩恵を受けずとも、今のリンダにとってはただのテレフォンパンチと変わらない。そしてリンダが大きく息を吸い込んだ直後、その姿がフッと消えた。

 その状況にアーマードベアアンサーの思考回路が一瞬止まる。判断が遅れたと気付いた時には目標のいた地点を越えていた。


『GUMA!?』


 リンダの姿を見失ったアーマードベアアンサーが急停止をして、周囲を見回す。

 一体相手はどこに行ったのか? カメラアイで探るが見つからず、それどころか次の瞬間にはアーマードベアアンサーの右腕が斬り裂かれて宙を舞い、同時に跳ねるようにリンダがアーマードベアアンサーの真横を通り過ぎていった。


『むぅ、腕一本ですか。真っ二つを狙ったのですけど』

『気を付けて下さい。すべてを制御しようとすると廃人になりかねませんよ。テンプレートに沿った動きをお願いします』

『分かっていますわよ。それにしても怖いですわね。お祖母様、現役時代になんてものを使っていたんでしょう』


 振り返ったアーマードベアアンサーがリンダへとカメラアイを向けると、そこにはホバリングしているリンダの姿があった。またリンダの足元は緑の光を帯びながら歪んでいるようにもアーマードベアアンサーには見えていたが、その現象の正体まではまだ解析できない。


『リンダ。全力使用だと制御可能時間は残り十秒程度となります』

『承知しましたわ。調整はできました。次でケリを付けましょう』


 そしてリンダが動き出す。対してアーマードベアアンサーは今度は残った左腕を前に出して防御の構えを見せた。不要な突撃は危険だと、リンダを恐るべき敵だとこの機械獣は判断したのだ。不用意な突撃は相手に隙を与えるだけだと、であれば受けた瞬間こそを狙おうと。


『GUUUUMAAA!』


 うなり声のような音を出しながらアーマードベアアンサーが処理能力のすべてを解析に回し始める。なにが起きているのか。それが分からなければ対処のしようがない。だが目星は付いている。足元。問題は『ソレ』だ。ここまでの解析からリンダの足元の歪みはアイテールライトを発生させながら虫の羽のように超高速で羽ばたいているものだと推測できていた。


 問題なのはその正体。


 アーマードベアアンサーの解析は進む。リンダが動き出したことで風の流れの観測から足元の羽が形状変化を開始したことを察知した。同時にアイテールライトの出力も上がり、対象の危険度が跳ね上がる。


『GUMA!?』


 そこからの変化の流れは一瞬。けれどもアーマードベアアンサーはその正体を掴んだ。

 わずかなたわみが羽の正体が無数の糸だと教えてくれたのだ。それが組み合わさって羽の形状をとっていた。けれども動き出したリンダの羽は今では左足のものがバネのようになり、右足の方は弧の形に曲がった刃のようになっていた。

 その刃こそが、先ほどアーマードベアアンサーの腕を切り飛ばしたものの正体。そう理解できた。けれどもアーマードベアアンサーの解析が可能だったのはそこまでだ。

 次の瞬間には先ほどのリンダの言葉の通りにアーマードベアアンサーの巨体は緑光に染まった鎌によって左右に真っ二つに斬り裂かれ、崩れ落ちていく。


『狙い通りですわね』

『お見事ですリンダ』


 そして爆発するアーマードベアアンサーから距離を取ったリンダがクロとそんな言葉を交わし合う。

 リンダが祖母より授かった補助兵装『ヘルメスの翼』は極めて強力な兵器だ。その正体は翼型のアタッチメントから伸びた、自在に操作が可能な数十万本にも及ぶナノワイヤー。それらは言ってみれば簡易的な補助腕サブアームの集合体であり、アイテールライトを纏った最小の刃の集合体でもある。

 その総数からすべてをマニュアルで操作することは不可能。故にすべてのナノワイヤーに予め動作を組んでおり、それらをグループ化し、動作を予め仕込んでおいた上でクロとの共同でリンダは制御を行っていたのである。

 そしてこの戦いで見せた、ホバリングを行いながら姿を消すほどの速度で移動する羽の形態を『タラリア』、左右でそれぞれバネと鎌の形態を『ハルペー』といい、それらこそがヘルメスの真の形態にして、トリー・バーナムを伝説の狩猟者ハンターへと押し上げた兵装であった。


【解説】

ヘルメスの翼:

 リンダがトリー・バーナムから譲り受けたヘルメスの翼は正確に言えば、ナノワイヤーの生成装置である。アイテールを変換し、アイテールライトを発生させ自在に操作が可能なナノワイヤーを生み出している。そのため、この兵装を使用するには多量のアイテールを必要としていた。

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