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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第6章 地下都市
225/321

第225話 渚さんと銀の翼

※第6章は今話で終了です。また、次章以降は週一(土曜0時)の更新となります。

「ただいま戻りましたわ」

『すみません。少々かかりました』


 日も落ちて暗くなった頃、リンダの家にリンダとクロがようやく戻ってきた。そして二人を玄関で出迎えたのは渚とミケであった。


「よおふたりとも。遅かったな。マーカスさんとミランさんは宿に戻っちまったし、待ってたんだぜ」


 渚がそう口にした通りにマーカスたちはそれぞれに泊まる場所があり、マーカスは騎士団の支部に、ミランは地下都市所有の施設へと、またミケランジェロはドクの元に戻るためにカスカベの町に向かってしまった。なので家にいるのは渚とミケ、それに今は夕食の準備をしているミランダとセバスのみである。

 もっとも都市内でならば通信の類は使えるためにリンダたちが遅れて戻ることをすでに渚も知らされていた。そしてリンダたちが遅れた理由は……


「で、修理されたヘルメスの調子はどうだったんだよリンダ。訓練場で試してはきたんだよな?」


 渚の言葉にリンダが頷く。渚たちと別れたリンダはデウスからマシンレッグ『ヘルメス』を受け取り装着した後、ハンター用の訓練場で動作チェックをしていた。そして、結果はリンダの笑顔からも明らかで、満足のいくものだったようだ。


「ふふ。以前に比べて制御リミッターを緩めていますので、動きが良くなっていましたわよ。その分、操作に関しては難しくなりましたが」


 リミッターを緩めたということはその分動き自体がピーキーになっているということである。もっともマシンレッグで逃げながらサブマシンガンを撃っていただけの頃ならともかく、現状のリンダであれば対応可能なレベルであった。


「へぇ。そいつは頼もしいな。それにそのチッコイ羽根なんだよ?」

「ああ、これはお祖母様の用意してくれた装備で、これが付いてようやく本来のヘルメスの姿なのだとデウスさんがおっしゃっておりましたわ 」

「へぇ。本来のって……ことは飾りではないってことだよな?」

『そうですね。なかなか強力な兵装でしたよ』


 ヒョイとクロが会話に参加した。それからリンダがクロの言葉に頷く。


「そうですわね。これは本当に強力ではあるのですが……お祖母様の言うジャムになるの意味も分かりましたわ。あれは操作を誤れば言葉通りの状態になりますわね」

「?」


 何かを思い出してブルっと震えたリンダを見て、渚が首を傾げた。どうやら相当怖い目にあったようである。


「地上に出た当時のわたくしがこれを使えば間違いなく即死だったでしょう。いえ、今だってクロの補助なしに発動させれば命がいくらあっても足りませんわね」

『大丈夫なのかい、それは?』


 ミケの当然の疑問にクロが『まあ、問題はないでしょう』と返す。


『私の補助とセンスブーストを使えば実戦でも使用できますよ。戦闘経験を積めば最適化も進められるでしょうし』

『なるほど。どんなものなのかはだいたい読めてきたよ』

「マジか? あたしにゃさっぱりなんだけど?」

「説明はいたしますけど実際に見てもらった方が分かると思いますわ。お祖母様がひとりでフォートレスホエールを墜とせた理由もようやくこれで分かりましたもの」

『なるほど。ともあれ、今はセバスたちが夕食の準備をして待っているんだ。続きは食事の後でもいいんじゃないかな?』


 そのミケの言葉には渚もリンダも頷く。

 そして夕食時の話題は当然リンダの新装備『ヘルメスの翼』であった。一方、渚たちと分かれたマーカスはといえば……




  **********




「そうか。首都からの報告は特にない……と」

「は、マーカス団長」


 渚とリンダが夕食をとっている頃、マーカスはクキシティ内にある騎士団の支部にいた。

 自分が地下都市内にいた間に何かしらの連絡があるかとマーカスは考えていたのだが現状は何もないようだった。なお、母からの連絡があることも期待していたマーカスは何もなかったことに若干落ち込んでいたのだが、ポーカーフェイスを装っているために目の前にいる団員は気付かなかった。


「コーエンと言ったな。団長はよせ。俺はもう騎士団の人間ではない」

「話はうかがっていますが……本当に?」


 コーエンが尋ねてしまうのも無理からぬことだった。

 彼の前にいるマーカスはつい一週間前までは彼らの頂点にいる男であったのだ。それが突然辞めて狩猟者ハンターの少女の仲間になったと通達があったのだから団員たちの動揺は大きく、現在においても騎士団は混乱の極みにあった。


「母上……ガヴァナー・ウィンドの許可も得ている」

「そうなのでしょうが……そうでなければ辞めることなどできぬはずですが、信じられません。あなたはここまで私たちを導いてきた。私に取っては雲の上のような方であったのに……今はこうしてひとりでここに……」

「コーエン、重要なのは俺の地位ではない。すべてはコシガヤシーキャピタルの未来のために必要なことなのだ。今はまだ理解できなくとも、俺の行動の意味はそう遠くないうちに明らかになるだろう」

「そう……なのですか?」


 コーエンにしてみれば半信半疑の言葉である。それにマーカスが母親のガヴァナー・ウィンドに傾倒していることは騎士団内でも有名な話で、マザコンとロリコンを拗らせているという噂は常につきまとっていて、今回付いていった狩猟者ハンターが少女であったことから『ああ、そういうことなのでは?』という疑いを持たれてもいた。というか、納得のいく理由はそれしか考えられなかったのである。

 とはいえ、浄化物質のタイムリミットを考えれば、これから渚が行う事業にマーカスが参加することには大きな意味がある。だから、そんな疑いを持たれているとは全く思っていないマーカスは神妙な顔で「そうなのだ」と言葉を返していた。


「いずれはお前たちにも動いてもらうことが……む?」

「いかがしました?」


 突如としてマーカスが訝しげな顔をして部屋の入り口へと視線を向けると、外からバタンとドアが勢いよく開いた。


「なんだ!? と、お前はランド?」

「こ、コーエンか。あ、マーカス団長も!?」


 勢いよく部屋へと入ってきた男がマーカスがその場にいたことに驚きの顔をする。


「団長ではない……ということを言っている場合ではなさそうだな。その様子、かなり急ぎのようだがどうした?」

「ハッ、はい。首都より緊急連絡がありまして……その、動き出しました」


 ランドと呼ばれた団員が顔を青くして続きの言葉を口にする。


「グリーンドラゴンが動き出し、機械獣たちと戦闘を開始しました!」

【解説】

騎士団支部:

 コエドベースのような基地と呼べるほどのものではないが、コシガヤシーキャピタルの騎士団は各都市に支部としての施設を有している。もっとも埼玉圏西域の都市は野盗バンディットの襲撃が頻繁に行われたため、閉鎖されている。

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