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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第6章 地下都市
219/321

第219話 渚さんと本題の告知

※前話の後半の文章に今話分の文章が書きかけで入っていました。

 なんで前話のラストからは削除し、修正して今話の最初に入っています。

 遙か昔に特殊な用途のために生み出された埼玉圏という人工エリア。そこは大地を滅却消毒し、浄化物質というナノミストを覆うことによって造られた黒雨のない特殊な地域であった。

 地上に住む者もなく、地下通路によって連結された地下都市群の中で生きる地球上では数少ない人造の楽園。けれどもそれは埼玉の地に眠る超生命体『アウラ』を抹殺しようとした愚か者によって崩壊した。

 アウラを狙って地球外より超高速で質量兵器と化した宇宙船が地上へと落下したのだ。シールドを正面に張った突貫は地を砕く一撃と化したが、対してアウラもシールドを展開。その衝撃は大地を抉り、埼玉圏全土に壊滅的な被害をもたらした。

 結果としていくつかの地下都市と、地下都市同士を繋ぐ通路が破壊され、現在の形の埼玉圏へと変わったのだとニキータは説明していった。


『幸いだったのはシールド同士の衝撃が真横に逃げたことだね。地表に近い部分は大きな被害を被ったが、深度が深い地下にまではそれほどの影響はなかった。それにしても、どういう意図があったのかは知らないけど天上人が今更アレをどうにかできる発想を持っているなんて思わなかったよ』

『うーん、そんなことがあったんだね。恐らくは軍事基地が閉鎖になった後のことなのだろうけど、確かに外は僕の知っていた頃とは様変わりしてたもの』


 ミケランジェロとの同期によりある程度の記録を取り戻したミケは、軍事基地などの詳細な状況をすでに把握している。けれども、その記録の中でも地下都市や、アウラと宇宙船の激突についての情報は存在していなかった。

 そしてミケの言葉にニキータが『あそこか』と口にする。


『軍事基地、それは今もグリーンドラゴンのいる場所の地下にあった施設のことかな。アレは埼玉圏ガベージダンプ化計画のために閉鎖された場所だ。まあ、権限の問題で我々も手出しできないところではあるのだけれどね』

「ガベージダンプ化計画?」

『それについては僕の口からは言えないな。権限がない』

「また、権限かよ」


 ウンザリした顔をする渚にニキータが笑う。


『悪いが、その辺りの制限は徹底してるからね。人間同士だとそうでもないんだろうけど、AIである僕には遵守する制約がある』

『ナギサ、それも仕方のないことなんだよ。かつて外宇宙生命ラモーテとの戦争に勝つため地球全体を強引に統一した結果によるものでね』


 元々記録を失っておらず、ドクとも知識を共有しているミケランジェロがそう返す。


外宇宙生命ラモーテってのは大昔に地球にやって来た宇宙人だっけか?」

『人の形はしてないけどね』


 外宇宙生命ラモーテについては渚も少しだけ知識はある。

 ミケや、ミケのオリジナルが製造されるよりもさらに昔、外宇宙より太陽系へと辿り着いた外宇宙生命ラモーテと人類の戦争があったのだ。それは敗北を悟った多くの人類を太陽系外へと脱出させ、また残された人々は最終兵器『機械種』を生み出し勝利を収めたという話だった。

 なお、渚自身も今や機械種の影響を受けた生命体となっているのだが、その実感は今の所あまりなかった。


『統一機構となった人類は、その力を結集するために命令系統の徹底を行ったんだよ。個別の権利を奪い、あらゆる技術、あらゆる権力、あらゆる財力。種族や因縁の垣根も取り払い、すべてを結集し、人類の総力を持って戦争に勝った。もっとも自浄作用のない組織は衰退するものなんだろうね。手に入れた平和の中で人々は腐り、最終的にはこうして文明が崩壊に至って、今の人類はその栄華の残りカスにすがって生き続けている有様だ』

「だとしてもあたしらは生きてるし、生きることを止める気もねえよミケランジェロ」


 渚の言葉にミケランジェロも頷く。


『自虐になってもいいことはないからね。まあドクも同じだからこうして僕も出向いているわけだけれども』

「そうだな。つーか、ミケランジェロは出て来てからさっきまであまり喋ってなかったよな。急に饒舌になったけど」

『まあ、ミケとキャラ被りしている上に、そちらのニキータも似たような感じだからね。先ほどは遠慮してたんだよ』


 ミケランジェロの言葉に、ニキータとミケが目を合わせる。


『うーん。僕は温和なキャラで売っているわけだから、こういう口調なんだけどね』

『僕のシリーズはデフォルトの性格設定だと大体こうなるんだよ。今から変えるかい渚?』

「いや、それはいいよ。今のミケの感じの方がミケって気がするし」

『そう。ならいいけどね』


 そう言ってミケが再び丸くなった。


『ところで話を戻したいのだけれども。まず浄化物質が残り十年というのはどこから来た話だい? こちらとしてもおおよその推測として残り五年から五十年辺りとは見ていたんだけど』


 ニキータの言葉に渚がミケランジェロを見た。情報の出元はドクであり、それを話すのであればミケランジェロの方が相応しいだろうというのが渚の判断だった。そして渚の視線の意図を察したミケランジェロが再び口を開く。


『情報の出元はディーマリア、つまりドクからだ。流れからいえばドクがカスカベアンダーテンプルでアイテール結晶侵食体を介してアウラと接触し、その演算能力を利用してシミュレートし時間を割り出した。協力する意思があるなら詳細なデータを開示する用意はあるよ』

「そうか。カスカベの襲撃の後にアウラの活動反応が出ていたのはそのためか。随分と無茶をする。アレが目覚めれば最悪、カスカベの町が壊滅するどころじゃない被害があったんだぞ」


 ミーアが怒りの視線をミケランジェロに向ける。4894年も昔に生まれ、現在も成長し生き続けている超常の生命体アウラ。ただ身を守ろうとしただけで埼玉圏を崩壊させるほどの眠れる神であり、意識を伸ばしただけでその場をアイテール結晶で覆い尽くすような存在だ。もっともミケランジェロは涼しい顔で肩をすくめた。


『まあ、彼女はそこらへんに対する責任を負うつもりはないみたいだったね』

「……勝手な」

『ミーア。結果的にとはいえ、正しい時間が分かったことを喜ぼう。さすがに二度として欲しくはないけれどね』

『それはこちらも同じだよ』


 ミケランジェロが自分の体をクルリンと回した。緑の水晶でできたその体は偶然によって得られたものだ。次に同じことをして生きていられる可能性は低いだろうとミケランジェロも考えていた。


『まあ、そうだろうね。それで……ようやく本題なのだけれども、対策とは何をしようというんだい?』

「一応言っておくが、このクキアンダーシティに地上の人間を受け入れろというのは無理だぞ? キャパがないのは市民IDを希望していたナギサ、お前にも理解できているだろう?」


 ミーアが鋭い視線を渚に向けると渚も頷いた。

 地下都市は市民IDを用いて徹底した人口調整を行い続けてきたからこそ今日まで生き永らえてきた。過去の例を見ても急激な人口増大が地下都市に与える影響は計り知れず、ミーアの懸念ももっともなものではある。

 とはいえ、渚もそれはすでに承知のこと。だから渚はミーアにこう告げた。


「そうじゃなくてさ。あたしたちはアゲオアンダーシティを修理して使う許可をあんたらにもらいたいんだよ」

【解説】

アウラ抹殺計画:

 コシガヤシーキャピタルの本拠となっている宇宙船『アースシップ』を地球圏外から質量兵器として落下させ、アウラを消滅させようとした計画は天上人によって行われたものである。

 現在の地上人にとっては天上人=天国の円環ヘブンスハイローの住人という認識となっているが、アウラ抹殺計画は月面基地のマスドライバーを用いた攻撃であり、天国の円環ヘブンスハイローの天上人と月面基地の天上人は実のところ別の組織に所属している。

 なお宇宙船が無傷で残っていることからも分かる通り、宇宙船のエネルギーが尽きてシールドが消えた時点でアウラもシールドを解いている。彼女は文字通り自分の身を守っただけであった。

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