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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第6章 地下都市
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第216話 渚さんと狼狽え市長


「猫が二匹?」


 ミーアとミラン、それにマーカスが驚きの眼差しでミケと緑水晶の猫、ミケランジェロを交互に眺めつつ呆気にとられた顔をしている。そして、突如としてミケの中から現れたミケランジェロが軽く会釈をしてから口を開く。


『はじめましてミーア市長、ミラン。それにそちらのマーカスもはじめましてだったね。まあ、カスカベの町から僕はずっとそばにいたのだけれども』

「お前は誰だ?」


 マーカスがミケランジェロに警戒の視線を向けながらそう尋ねた。


『僕の名前はミケランジェロ。正確には今はナビゲーションAIというよりはアイテール結晶侵食体というべきかな。もっとも僕は肉体が元からなかったし、別に侵食されたわけではないのだからその呼び名も正確とは言い難いのだけれども』


 おおよそミケと同じ口調で話すミケランジェロに一同が若干の戸惑いを覚えている中、渚はミケを睨んで「黙ってたな?」と口にした。

 目の前のミケはケロッとした顔をしていて、乗っ取られたという様子はまったくなさそうだった。そしてミケの方は少しだけ申し訳なさそうな顔をして渚を見て頭を下げる。


『ごめんね渚。この件に関しての交渉は本人たちがすべきだと僕とミケランジェロは意見を一致していたし、この事実を知っている者は少ない方がいいと思ったからね。それにここまでずっと監視が付いていたようだし』


そう返したミケの言葉にミーアは眉をひそめたが流石にボロを出すような言葉を口にすることはなかった。

カスカベの町で襲った野盗バンディットや、道中にミランを付け、さらには地下都市内でアルを使って一度バーナム家を尋ねさせた件。それらはミーアが渚たちを観察して交渉のための判断材料とするための仕込みであったのは確かだ。どこまでを察せられているのかという疑念はあったが、けれども現在のミーアの思考は突如として現れたミケランジェロの方へと向けられた。


「アイテール結晶侵食体のミケランジェロ。お前の出自も気になるが、ディー・マリアの人権回復だと? あれはそもそも我々の所有物だぞ。このクキアンダーシティができた時点でそう登録されていたはずだ」

『そうはいかないんだよ、ミーア・バルトア。君はそちらのミランの報告から個体名『ディー・マリア』の過去の記録を調べてはいないのかい?』

「過去の記録だと? 再生体のオリジナルとは書かれていたが、それだけだ。記録自体に特に問題は」

「ちょっと待ってください市長。オリジナルとは? 嘘を言わないでくださいよ」

「嘘だと? 何を言って」

「私はあの空に浮かんでいる天国の円環ヘブンスハイローの研究施設の研究員だと報告しているはずです。何を誤魔化しているんですか!?」


 ミランが激昂した。ミランからすれば殺されかけた上に、報告についても隠蔽をしようとしているようにしか見えなかったのだからその反応も当然ではあった。対してミランの反応にミーアは明らかに狼狽していた。


「誤魔化しだと? そんなことは……いや、これは一体どういうことだ?」

『なるほど。報告書に検閲が入ったのかな?』

「そりゃ、どういうことだよミケ?」


 怒れるミランと狼狽えるミーアの様子に渚が事情をある程度理解できているらしいミケに問いかける。


『まあ簡単な話、ミランから送られた報告書の内容が彼女の権限レベルでは知ってはいけないものだったのだろうね。なので、当たり障りのないものに途中で差し替えられたんじゃないかな』


 その言葉にミーアが「まさかニキータが?」と呟いたが、ミケは気にせず渚に話を続けていく。


『いいかい渚、彼女はこの世界においては地上を支配しているに等しい地下都市の運営者ではある。けれども大局的に見れば、たかだか『一都市の管理者』だ。それはつまり、かつての世界の枠組みにおいてはそう大きな権限ではないんだよ』

「言いたい放題だな。今はもう時代が違うというのに」


 明らかに不快という表情のミーアに対して、ミケは肩をすくめる。


『残念ながらかつての仕組みを利用してこの都市が動いている以上、今でも有効な事実だよ。簡単に言えば君は『民間人』だ。天国の円環ヘブンスハイローの情報は地上にとっては極めて扱いの難しいものでね。合わせてミケランジェロが有していたドクトル・マリアの詳細な情報を今、僕が地下都市内に転送した。これでこちらの要望を無視はできない。悪いけど、ミーア・バルトア。君が事情を知っているか否かはさておきイニシアチブはこちらに握らせてもらうよ』

「いつの間に……あ、コード!?」


 気が付けばミケの身体から極小のコードが床に伸びていた。その様子にメイド少女が舌打ちする。この場の全員がミケの対応に気付いていなかったのだ。


『まあ、外は黒雨対策で強力なフィルターが物理的にも何百層とかかっているんだろうけど、流石に市長室内からなら止められないだろうからね』

『別にそんなことをしなくても、妨害なんてする気は無かったよ』


 ミケの言葉に対してこの場の誰のものでもない声が響き、そしてそれぞれが驚きの顔を見せる前でテーブルの上に東洋系の顔立ちの少女が出現した。


「ニキータ、なんで!?」

『ごめんねミーア。さすがにこれ以上は僕の領分だ』


 その少女はどうやらミーアと知り合いのようであった。そして渚がニキータと呼ばれた少女に訝しげな顔を向けた。


「あんた、誰だよ?」

『はじめましてナギサ、機械種の加護を受けし者よ。僕の名前はニキータ、このクキアンダーシティの支配者ドミネーターAIだ。つまり』


 そして、少女はこう告げた。


『この地下都市を擬人化した存在だよ』

【解説】

地下都市内の通信網:

 地球上の人類を破滅に追いやった災厄のナノマシン『黒雨』は実体がなくとも通信を介して情報のみを送り出すことで、あらゆる手段を用いて自身を送信先で生成する特性も持っている。その手法はアイテール変換以外にも、聴覚情報や視覚情報から人間の脳にアクセスし遺伝子操作を用いて人体内でナノマシンコロニーを構築することすらも可能であった。

 そのため地下都市は通信網にフィルターを仕込んで、黒雨に潜り込まれないような対処を行なっている。

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