第201話 渚さんと忖度された野盗
※今回短めです。
「計画に噛ませて欲しいってどういうことだよデウスさん?」
渚が訝しげな視線をデウスに向ける。目の前の機械人の意図が渚には掴めない。対してデウスは『ソノママノ意味ダヨ』と返す。
『僕タチハココガ転換期ダト見タ。ダカラコレカラ君ガオコナウ事業ニ手ヲ貸シタイ。実ノトコロ、瘴気……浄化物質ガ保タナイトイウノハ僕タチモ知ッテイタンダ』
「!?」
その言葉に渚とリンダの目が開かれる。
「デウスさん、知っていて黙ってたということですの?」
『ソウダネ。モットモ時期マデハ分カラナカッタシ、ソコマデナラソチラノまーかすモ同様ダッタトハ思ウケドネ』
「解決策がなければ話したところで混乱しか生まないからな」
マーカスがボソリと口にした。その言葉にリンダも少しだけ何かを言いかけて、それから口にするのを止めた。情報が漏れれば場合によっては地上の人間とアンダーシティが戦うことになる……そうした可能性を考慮してリンダも伝えられていなかったのだから。
「先ほどの話の通り、機械人は複数の身体を持っている上に情報の蒐集家だ。それでも少なくとも数百年という記録の中で、こいつらは自分たちが得た情報を勝手に漏らしたことはない。今日、反故にされたがな」
『ハハハハ、痛イトコロヲ突イテクルネ。タダ僕タチノ望ミハ人類種ノ存続ダ。ダカラ瘴気ニ異常ガアルコトヲ察知シテカラハ、黒雨デモ生キ延ビラレルヨウニ手モ打ッテキタ』
「手を打ってきた?」
渚が首を傾げる。機械人は埼玉圏内で人間に対してアイテールを対価として銃器などを含む様々な物品を交換してくれる存在という以上のことを渚は聞いていない。
『ココ十年ハあすとろくろうずノ生産ヲ増ヤシタリ完全機械化ノ施術ヲオコナッタリカナ。マア、結果ハカンバシクナカッタカラ、一地域ニ留メテハイタンダケドネ』
その言葉に渚がますます分からないという顔をする。
そこにマーカスが忌々しいという顔で口を挟んできた。
「ナギサ。要するにそいつらは野盗を優先的に支援していたんだ」
「ハァ? なんでそんなことを?」
そう言いながらも渚はオオタキ旅団の襲撃を思い返していた。オオタキ旅団の野盗モランたちは全身が機械化されていた。ザルゴの装備もアストロクロウズを改造したものだった。少なくともそれらは渚がここまでに見ていた狩猟者たちの装備よりも進んだ技術であったろうと。
『コチラ側ハあんだーしてぃヤこしがやしーきゃぴたるガアルカラネ。ヨリ危機的状況デアル埼玉圏西部ヲ優先スルノハ当然ダロウ?』
「結局それはコシガヤシーキャピタルを害することになったんだがな」
そう言うマーカスにデウスが首を横に振る。
『ソレハ僕ラノ問題デハナイネ。僕ラハアクマさぽーとダ。与エタモノヲドウ使オウト、僕ラニ咎メル権利ハナイヨ。君タチダッテ僕タチガ渡シタ銃ヲ戦カウタメニ使ッテイルダロウ。撃ッタ相手ハ機械獣ダケデハナイハズダ』
その言葉にリンダもマーカスも、渚ですらも返す言葉を持たない。
『それでも野盗たちだけに独占的にというのは納得し難いものがあるけどね』
『ソウダロウネ。あぷろーちニ失敗シタコトハ認メヨウ。タダ僕ラノ存在意義ハ人類種ノさぽーとナンダ。ソコガあんだーしてぃノ支配者AIトハ違ウトコロデネ。僕タチニハ狩猟者デモ野盗デモ人類デアルコトニ違イハナインダ』
「どういう意味だよ?」
『彼ら機械人は市民IDとは関係なく人類という種をサポートすることを目的としていると言っているようだね』
「つまり?」
『僕が君をサポートするように彼らは人類という種全体をサポートするように指示されているということだろう』
その言葉に渚があーと声をあげた。
『ウン、ソウイウコトダネ』
その言葉にマーカスがデウスを睨みつけながら口を開く。
「それで中立であったお前たちが今回、それを破って渚に接近した理由は機械種が原因か?」
『ソウダネ。埼玉圏ノ存続ヲ確実ナモノトスルニハ現状維持ヲ放棄シテモ君タチヲ支援スルベキダト判断シタ。ツマリ我々モあげおあんだーしてぃ復興計画委員会ヘ参加サセテクレナイカ……トイウ提案ナンダケド、ドウカナ?』
【解説】
全身機械化:
生体部位20パーセント以下の機械化の総称。埼玉圏西部で機械人が試験的に行なっていた。
なお、施術は野盗に限定していたわけではなく、西部であれば誰でも機械人に頼むことは可能。そのため数は多くないが全身機械化の狩猟者も存在している。




