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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第6章 地下都市
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第191話 リンダさんとミーティングタイム

「監視官の方、そのまま部屋から出してくれましたが……慎重な様子でしたわね」

『そうですね。どうやらリンダが耳にした話はかなり重要度の高い内容だったようです。しかもそれはコシガヤシーキャピタルもある程度は把握していたものだったのでしょう』


 アースシップ内の隔離室でのザルゴとの面会を終えたリンダは、渚に会うべく現在は湖底ドームに向かうエレベーターに乗っていた。エレベーター内から見える湖の中は暗かったが、頭上の湖面から届く光は今がまだ日中であることを示していたし、湖中にも何かしらのマシンが放たれているようで点滅しながら移動している光源がいくつか確認できた。

 それらに視線を向けながら、リンダは己のマシンアームへと主観を戻しているクロと会話をしていた。その内容はやはり先ほどのザルゴとの話についてであった。


「まず……クロ、ザルゴの話の確認ですわよ」

『はい。すでに『関西圏は壊滅』しているということ。そしてそう遠くないうちに瘴気が消えるという話ですね』

「ええ。それは前提としてどちらもあり得ることですの?」

『関西圏については情報が不足していますし、ザルゴが嘘をつく意味があるのかも不明です。ただザルゴが言うように今回の件が失敗したことと混乱している関西圏への移住をオオタキ地獄村に提案し受け入れられた場合、埼玉圏内の問題が若干片付くのは確かでしょう。こちらにもメリットがあるからこそザルゴは話を持ちかけたのだと思います』


 クロの言葉にリンダも頷く。眉唾な話ではあるし、ザルゴも把握し切れてはいないと言っていたが、リンダは確かに聞いたのだ。何かしらの落下物が関西圏に落ちて中心部が壊滅し、今関西圏周辺は大混乱の極みにあるのだと。また、いずれは埼玉圏にも関西圏の難民が押し寄せてくる可能性が高いだろうとも。


「ザルゴはああ言っていましたが、関西圏から埼玉圏までは『森』が続いています。大概は機械獣に捕食されてしまうでしょうね」


 リンダが眉を潜めながらそう口にした。埼玉圏の中も過酷ではあるが、瘴気の外はさらに人類には厳しい環境なのだ。そこには緑あふれる世界が広がっているが、黒雨の影響で人はアストロクロウズなどの完全密閉の防護服なしでは歩くこともできず、また機械獣の数も埼玉圏より多い。

 埼玉圏へ向かって集団で移動しようものならば待っているのは想像を絶する地獄となろう。その大半が命を落とし、アイテールへと変わってしまうはずだった。

 そしてザルゴがリンダにその話を持ちかけたのは、オオタキ地獄村の者たちを関西圏へと移住させるためだとのことであった。

 もともとザルゴは今回の首都襲撃に失敗した場合は関西圏への移民を検討していたのだという。混乱している今の関西圏であれば食い込めるだろうとザルゴは考えていたのだ。

 もっとも今回の戦いで旅団の幹部のほとんどは死に、逃走しオオタキ旅団の次を担うであろう神脚のラッガはまだ幹部となってから日が浅いためにザルゴの計画を完全に把握してはいない。本来であればザルゴが戻らなかった場合には直接襲撃に参加する予定のなかったドクが関西圏への移住を伝える役割を担うはずであったらしいのだが、そのドクも旅団にはもういない。


「まあわたくしたちが直接連絡するかどうかを考えるよりもガヴァナー・ウィンドにお伝えする方が良いのでしょう」

『ええ、ザルゴもそれを見越して話を持ちかけたのでしょう。今ももう監視官からガヴァナー・ウィンドに連絡がいっているかもしれません』

「であればこちらの手間が省けますわね。それともうひとつの件ですが」


 リンダが視線を落とす。関西圏とは違い、そちらはもっと直接的な埼玉圏の……そして自分にも関わる問題だった。


『瘴気が消えるか否か……ということでしたら十分にあり得ます』


 クロの返答にリンダが苦い顔をする。渚と共に行動し、リンダも瘴気が人類を守っているものであることはもう理解できていた。当然、瘴気が消えて黒雨が埼玉圏内に降り注げばどうなるかも分かっている。


「そんなことになれば、下手しなくとも地上は全滅ですわよ」

『でしょうね。けれどもナノマシンは比較的耐久性の低い技術です。そもそも消耗するものなんですよリンダ。だから生産し続けるためにプラントナノマシンというものが使われているのですが』

「プラント?」


 リンダが眉を潜める。プラントナノマシンというのはリンダも聞いたことがない単語であった。


『はい。ナノマシンを製造するナノマシンです。瘴気の発生範囲を考えると大規模なプラントマシンの存在も考えましたが、それが発見されたという話もありませんので、恐らくはプラントナノマシンが使われていると考えるべきでしょう』

「あの、クロ。それは一体どういったものなのですか?」

『ナノマシンを水と光と幾分かの物質で生産と拡大を行い、広範囲にナノミストを発生させるナノマシンです。黒雨の前世代版とでも言いましょうか。とはいえ、それも永遠にというわけにはいきませんが』


 その言葉にリンダが首を傾げた。光と水でナノマシンがナノマシンを生み続けるのだから、それは永久機関にも等しいのではと考えたのだが実際はそうでもないらしい。


「永続はしないと?」

『そうです。延々と繰り返していく内にプラントナノマシン内のプロセスにもズレが生じます。変異とでも言いましょうか、言いようによっては進化とも言えますが……そうなると意図した役回りから外れ、危険な存在へと変質する可能性があります。なのでナノマシンというものは基本的にズレが実際に運用に影響を及ぼす前に自壊するように作られているんです』

「なんというか……繊細なのですね?」

『どうでしょうか。何しろ数十年単位での話ですし、本来消耗品ですので、かつては問題にはならなかったようですが……とはいえ、通常は高耐久なものでも耐久年数は百年程度でしょう』

「保った方と?」

『ええ、正確な期間は分かりませんがここまで自壊プログラムが働いていないということは恐ろしく長期的な耐久年数を持つナノマシンなのでしょうね。ギネスにも載せられるくらいの』

「ギネ?」


 またも聞き馴れない言葉にリンダが目をパチクリさせると、クロが『いえ、なんでもありません』と返した。とうの昔に失われた文化の名残りなどこの時代には残っていない。


『ザルゴの言葉の真偽はともあれ、可能性は否定できません。何よりザルゴのあの会話で監視官が動気を見せていました。故にあの会話には相応に重要な意味が含まれていたのだと私は推測します』

「……なるほど。理解いたしましたわ」


 リンダが深く頷く。


『それとリンダ、ザルゴの話していたモランのことはあまり気にしない方が良いですよ。アレはあなたの同情を引くためのものです』

「分かっておりますわよ。けれども、瘴気が消えるよりも確かな話ではあるんですのよクロ」


 埼玉圏最西端にあるオオタキ旅団の本拠オオタキ地獄村はただの盗賊団のアジトというだけではない。規模は大きくないがコシガヤシーキャピタル、アンダーシティに並ぶ勢力であり、当然そこには非戦闘員や子供もいて生活がある。どうあれ彼らの略奪行為は自分たちが生きるために行っていたことであり、その影響が及べばザルゴの言う通りに弱者から淘汰されるのは間違いない。


「もちろん、割り切ってはいますわ。そんなことは狩猟者ハンターになった時点で理解しています。ですが、事実は事実なのです」

『気を付けてくださいリンダ。先ほどの話は』

「着きましたわ。お話はここまでです」


 クロの話の途中でエレベーターが湖底ドームへと着いた。そしてエレベーターの入り口が開くと、開いたドアの先にはウィンドがひとり立っていたのである。

【解説】

関西圏:

 質量兵器により壊滅した。

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