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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第019話 渚さんと救いの手

「こりゃ、酷いな」

『切り傷や打撲ばかりだね。銃痕はないから話通りに相手は機械獣か』


 渚とミケがそう口にし合う。

 ミケに催促され、「何かの役には立つかもしれない」と言ってリミナとリンダに付いていった渚だが、辿り着いた部屋の中には十人ほどの男たちが床に敷かれて布団に並べられていた。

 その様子を眺めていたリミナがリンダに尋ねる。


「随分とやられたね。リンダ、残りの連中はどこに?」

「マークとラゾット、ラルタルは強行軍に参加するために今は休んでますわ。あとは……」

「いや、そうだね。もうアイテールに変えられてる頃かい」


 リミナが苦い顔でそう口にすると、その言葉を聞いた渚が眉をひそめた。


「変えられた?」


 渚の呟きにリンダが訝しげな顔をすると、それに気付いたリミナがリンダに「訳ありの子でね」と口にした。


「ナギサ、機械獣は有機物を取り込んでアイテールへと変える。それは人間も例外じゃない。機械獣に殺されれば、私たちはアイテールにされるんだ」

「人間……も?」


 その言葉に渚が驚きを露わにした。そして、横にいるミケに視線を送る。


(おい、どういうことだよミケ?)

『どういうことも何もそのままの意味だろうね。技術の進歩とでもいうべきか。機械獣はアイテールの生産が可能だということさ。なるほど、それは凄いね』


 ミケがこれまでになく興奮した口調で話すが、渚は眉をひそめる。


(けど……それってさ。アイテールの材料が人間ってことだよな)

『対象は有機物と言っていただろう。人間だけの話じゃないよ。食物連鎖を考えれば、別におかしいものじゃないさ』


 そのミケの言葉に渚は顔をしかめたが、返せる言葉はない。

 また、渚とミケがそんな話をしている間にもリミナは部屋の中へと進んでいた。その先に医者に介護されている重傷そうな男がいて、男にリミナが声をかける。


「やあノックス。昨日ぶりかい? 随分とやられたみたいだね」

「はは、どうもです」


 そしてリミナにノックスと呼ばれた男が、辛そうな顔で笑いながら手を挙げた。


「リミナ教官、昨日会ってすぐにこれで……ゴプッ」

「ああ、もう。汚いね。やられたのは内臓なかかい?」


 リミナの視線が血染めの包帯で巻かれた腹部に向けられた。手足の怪我も酷いが、問題は内臓部の損傷によるものだ。


「メディックマシンがあれば良かったのですが、今は街に引き上げさせてしまってますし……お医者様もここの設備ではどうにかできるものではないと」


 リンダの言葉に、横にいる医者らしき男が悔しさをにじませた顔で頷いた。医療に長けた者とて、相応の設備なしでは応急処置ぐらいしか対応ができない。重傷であれば街に送り届けるべきなのだが、アーマードベアがいるために今はそれも不可能なのだ。


「仕方ないさ。必要がないなら、必要がある場所に移動させるのが普通だからね。まったく、ウチに元々あるオンボロはもう壊れて使えないし、運がないよ。アンタらは」


 リミナとリンダがちらりと見た先には、壁に立て掛けられて置かれているロボットがあった。それに気付いた渚が目を細めてそれに注視する。


(あれ、ロボットか?)


 そこにあるのは人型ではあったが、まるで鉄パイプとパソコンを組み合わせたような姿をした、いかにもロボットらしい形をしたロボットであった。それは無造作に置かれていて、動く気配はない。


『メディカノイド。ある程度の手術やナノマシン治療もできるロボットだね。けれど壊れてる? まあ、確かにすぐには起動できそうにないけど』

(すぐにはできないってことは……可能なのか?)


 渚の問いにミケが頷く。


『多分ね。けどそっちの男を助けるのには間に合わない』


 ミケの視線がノックスに向けられる。リミナが話しかけているが、もう意識が朦朧としているようで、今にも糸がプッツリと途切れそうな雰囲気があった。


『機械獣の攻撃を直接腹部に受けたんだろう。保って一時間というところだろうね』


 そう言われて渚の顔が歪む。そして、その渚に対してミケが口を開く。


『それでだ渚。ひとつ、提案があるんだ』


 ミケの言葉に渚が首を傾げる。


『今君と繋がっている義手、ここではマシンアームと言ったね。それがあれば、彼らを助けることができると思う』

(マジか!?)


 目を丸くした渚にミケが頷いた。


『忘れたのかい渚? チップは君の右腕の傷を修復したし、マシンアームは生身で外に出た君を浄化物質から護った。それらはすべてナノマシンの恩恵によるものだ。そして、それは君だけにしか適用できないというわけじゃない』

(じゃあ、助けられるんだな)

『ああ。これを彼らとの交渉材料にして、僕たちに有利な条件を……』

(アホか。そんなの後だ)


 即答する渚にミケが『え?』と返すが、渚はさっさとリミナの元に近付いていく。


「なあ、リミナさん。ちょっとそっちの人、見せてもらっていいか?」

「え、良いけど……おっと」


 リミナの了解を得た渚がすぐさまノックスに駆け寄っていく。

 その様子にリンダが眉をひそめて近付こうとするが、それをリミナが止めた。


「リミナさん?」

「まあ、ちょっと様子を見よう。もしかするかもしれないしね」


 そう口にするリミナの表情が少しだけ希望に満ちたものに変わり、それにリンダがどういうことかという顔をしたが、渚は気にせずにマシンアームをノックスの前へと突き出した。その様子に意識が朦朧としているノックスが「嬢ちゃん?」と口にしたが、渚は「ちょいと待ってな」と言ってミケを見た。

 

(で、どうすんだよミケ?)

『まあ、君がそうしたいなら仕方がないね。掌をお腹の辺りに向けて。そうだ。よし、解析スキャン完了。破裂している箇所がいくつもある。こりゃあギリギリだったかな』

(間に合うんだな?)

『確実ではないけどね。まあ、口を動かすより手を動かすべきか』


 ミケがそう言いながら、肩部から補助腕サブアームを二本出して動かし、補助腕サブアームの先から出したチューブをノックスの脇腹へと突き刺した。それにノックスが少しだけ呻き声を上げたが、もう彼には意識はない。それよりも、後ろで見ていたリンダの方こそ反応が大きかった。


「ちょっと、アナタ。何をしてますの!?」

「いや、待てリンダ。ナギサ、まさかそのマシンアーム、メディスン系統なのかい?」

「あん? なんだよ、それ?」


 リミナの問いに渚が首を傾げる。その意味が当然渚には分からない。その反応にリミナが頭をかいて「ああ、アンタはそうだったね」と言いながら、説明を続ける。


「メディスン系統ってのは、メディカノイドやメディックマシンのシステムをコンパクトにしたマシンアームのことさ。ようするにナノマシンを注入して治療ができるんだ。あんたのマシンアームも、つまりはそういうことなんだろ?」

「なるほど。確かにナノマシンで治療してんだよ」


 渚がそう返すと、ミケが『ナノマシン変換完了』と口にした。


『各ナノマシンに行動ルーチンの書き込みを完了。BK07F99を注入。安定後注入用のZI67BB67も製造。安定確認。注入』

(おいミケ、なんだ? どういう意味だ?)

『彼の症状に合わせて合成したナノマシンのコードだけど今回限りのものだし気にしなくていい。ともかく治療は完了したよ。穴も塞いだし、容態も安定してくるはずだ』

「お、呼吸が……」


 ノックスの表情が落ち着き、それから目を閉じて呼吸が安定し始めたのを見て、渚だけが安堵の息をついた。


『体内に有機型のナノマシンプラントも構築させたから、食事を与えてエネルギー補給を怠らなければこのままの状態は維持できる。後でちゃんとした治療は必要だとしても、少なくとも命の心配はもうないよ』

「あの、どうなったんですの?」


 渚の治療が終わったらしいと理解したリンダがおそるおそる尋ねてきた。外から見ていただけでは、終わったようだとは分かっても何が起きたのかは分からない。


「あー、うん。よく分かんねえけど、多分これで大丈夫っぽい。顔色も良くなってるだろ」

「ええ、そうですわね。本当にこれで」

「そんで、次はどいつだ?」

「次?」


 リンダが何の話かと顔を上げると、渚の方は呆れたような顔で口を開いた。


「他の連中も治療が必要なんだろ? 乗り掛かった船だ。ちゃっちゃとやろうぜ!」


 その言葉にリンダが慌てて頷き、重傷な者から順に案内していくと渚が次々と治療を行っていった。そして、一時間も経たぬ内に室内から苦痛に呻く声は次々と消えていき、男たちの安らかな吐息へと変わっていったのである。

【解説】

メディカロイド:

 治療用ナノマシンプラントを内蔵した人型のメディックマシン。人型であるために、治療行為以外にも様々な介護が可能なロボットである。

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