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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第6章 地下都市
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第184話 渚さんと猫耳モード

『ウルミ先生、最後の機械獣を仕留めたみたいだぜ』


 強化装甲機アームドワーカーの中で、荒い息を吐きながらカモネギ従騎士団の団長ビィがそう口にした。その側には同じく強化装甲機アームドワーカーを纏ったケイと、すでに機体を大破させて補助外装サポートフレームで戦闘に参加していたアイや、また他の団員たちも息絶え絶えになりながらも共に待機していた。

 マッドシティ方面より進撃してきた機械獣の群れからの都市防衛戦は深夜に始まり、明け方を超えて昼過ぎとなった今ようやく終了した。夜明け前にオオタキ旅団のザルゴ団長が捕獲され、その事実を知らされた野盗バンディットたちが退いたことで騎士団の戦力は機械獣の群れへと集中し、結果としてどうにか被害を抑えながらの勝利へと結びついていた。

 また、幸いなことにカモネギ従騎士団の面々からは死傷者が出ていなかった。それは人数的な余力ができたことで最前線から後衛へと回されたためではあったが、それでも子供である彼らにとってはかつてない危機的な戦闘であったし、最前線で戦っていた騎士たちからは少なくない犠牲が出たのも確かであった。


『油断はするな……と言いたいところだが、ここから先は騎士団に任せてお前たちは下がって休息を取れ』

『え、いいのかよ? まだ後始末だって』

『ビィ、団員の状況も考えなさい。今回はあの遠征ほど絶望的ではなかったにせよ、消耗自体ははるかに大きいわ。戦いが終わったのに過労で死亡なんて笑えないでしょ』


 その言葉にビィが仲間たちを見渡し、それから『分かったよ先生』と返して団員を集め撤収の準備に入り始めた。その様子を見てからウルミは視線を戦場跡へと戻し、その光景を睨みつけながら目を細める。


(戦いはひとまず終結した。しかし、今回の襲撃は一体なんだったのかしら)


 一般団員たちにはまだ伝えられていないが、上級騎士でありその場の指揮を任されていたウルミは首都中枢のアースシップの入り口にまでザルゴが侵入したが、渚たちによって食い止められたことを知らされていた。

 機械獣の群れを動かした方法までは分からぬが、野盗バンディットと機械獣の襲撃はザルゴが単独でアースシップを乗っ取るための囮であったという。

 聞いた時には無茶なことだとしか思えなかったウルミだが、マーカスをはじめとした上級騎士やタツヨシたちウォーマシンが戦闘不能に追い込まれたという報告まで聞いてしまえば無謀と笑うこともできない。


(とはいえ、少なくとも野盗バンディットは今回の件でもう当面は大きな活動はできないでしょうね。こちらとてグリーンドラゴンの件が終われば報復を行うのは確実だろうし……いかに連中の環境が劣悪であろうともここまで性急に動く意味が分からない)


 今回の件は限られた人材と資源しか持たない野盗バンディットにとっては大きな賭けだったはずだ。騎士団が直接的な報復に出なかったとしても、埼玉圏内の勢力図が一気に変わるのは確実であろうということも含め、自分の知らない何かが起きているとウルミは感じていた。




  **********




「あれ?」


 そしてウルミたちの戦いが終わった頃、アースシップの真下の湖底内に設置されたドームの中の一室では渚が目を開けて首を傾げていた。


「あたしは……ザルゴをぶっ倒してから……ええと、どうしたんだっけ?」


 キャットファングの一撃でザルゴを倒したことは覚えている。その後、アースシップから人がやってきてザルゴを確保したこともおぼろげながら記憶していた。だがそこから先の記憶がない。


「おや、起きたみたいですね」

「ありゃ、アンタ……山田さんだったっけ?」


 そして渚は自分のすぐ側に人がいることに気が付いた。いや、正確にはいたことは『把握していた』。だから思考の優先順位を後回しにしていた……というのがこの場合は正しいのだろう。


「ええ、山田です。ナギサさん、今自分がどういう状況かは分かりますか?」

「……多分だけど、ザルゴをぶっ倒した後に意識を失って……治療された?」

「その通りです。記憶の混濁もないようですね。それは良かった。外見同様に中身も変わっていたらどうしようかと思いましたが」


 その言葉に渚がハッとして自分を見た。

 穴が空いていたはずの胸は見事に塞がっている。白いシャツの中を覗くと、わずかに膨らんでいる胸に恐らくは穴が空いた場所であろう肌の色が若干白い。それからそばに山田がいることに気付いた渚が「は!?」と声をあげて自分の胸元を隠した。その様子に山田が肩をすくめる。


「いえ。見ませんから。服の手配も着替えも女性の職員にやらせていますのでご安心を」


 その言葉に、渚は自分の着ているものがアストロクロウズではないことにようやく気付いた。いつの間にやら薄い下着のような服を着せられていたのだ。それから渚が少しだけ落ち着いた顔で山田を見る。


「いや、悪りぃ。私のなんか見ても面白くもねえだろうしな。自意識過剰だったよ」

「ハァ、まあお気にせずに。私はもう少し起伏がない方が好みなのです」

「嫌なカミングアウトをすんなよ!?」


 ひどい告白であった。


「すみません。それよりも体に違和感はありませんか? 特に右腕とその頭に生えた猫耳なのですが」

「猫耳?」

「猫耳です」


 山田がパチンと指を鳴らすと渚の前の空間にウィンドウが開いて、そこに渚自身の頭部が映し出された。以前と違い、今の渚は緑の瞳と緑の髪をしており、何よりも頭からは二本の三角の形をした動物の耳のようなものが飛び出ていた。それは渚の見る限り、山田の言うように猫の耳のようであった。


「な、なんじゃこりゃあ!?」


 その姿に渚が叫ぶとわずかに髪と目が発光し、猫耳がピクピクと動いた。


「ふぅ、そうですか。違和感がないというのは逆に恐ろしいですね。見ての通り、通常の人間の耳も付いています。恐らくですがその新しい耳は音を感じとるだけではなく、各種センサーのような機能を持った新しい器官……であるようです」

「新しい器官ってなんだよ、それ」


 渚が目をパチクリさせる。


「それとその右腕ですが」


 山田の指摘に渚が自分の右腕を見ながら頷いた。それは以前のファングとは違う、より有機的なフォルムの機械の腕だ。


「ああ、こっちは覚えてる。ファングがパワーアップしてキャットファングになったんだ」

「キャット……プッ」

「笑うな」

「いえ、すみません。可愛らしい名前で結構。それで機能なのですが、ほらシリンダーに三つのカートリッジが仕込まれているでしょう」

「ああ」


 山田の指摘に渚が頷く。ちょうどリボルバーのようなシリンダーには三つの穴が空いており、それらには大きな銃弾のような何かが埋まっていた。


「そのカートリッジにはアイテールのオーバーロードを意図的に発生させたものが圧縮されていて、最大三回のタンクバスターモードが使用できるそうです」


 その説明に渚は己の頭の中にある情報と一致することを理解し頷いた。


「確か、アイテールを供給する事でカートリッジを変換生成することも可能だって話だろ。カートリッジの維持も必要だからシリンダーから外すことはできないって説明を焼き付けられたけど……って、あれ?」

「どうかしましたか?」


 山田の問いに、渚が首を傾げながら「いや……さ」と口にした。


「あたしの頭の中にいるはずのミケの気配が……ない?」


 確信を持てぬまま、渚はそう口にした。だがいないとしか思えない。今まで感じていたものを今は感じなかったのだ。そう、渚がこの世界で目覚めてからずっと側にいた頼れる相棒。その気配が彼女の頭の中からすっぽりと消えていたことに渚は気付いたのであった。

【解説】

猫耳:

 機能増設を目的として追加された人工的な器官。猫耳である理由はない。

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