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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第5章 首都攻防
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第180話 ミケさんと永遠進化論

『チッ』


 ザルゴが舌打ちをしながら、高速で迫るミケの突撃をとっさにかわす。

 いかに速度があろうとも直線的な動きであればAIロデムの行動予測で避けることは難しくない。だがミケの突撃は四足歩行としては異常とも言える速さだ。当たれば即死だろうと理解しているザルゴは極度の緊張感を強いられており『バケモノ風情がッ』と苛立ちを吐き出した。

 もっともザルゴもただ避けただけというわけではない。振り向き様に三本のドラグーンからレーザーを撃ち込んだのだが、ミケに届く前に歪んで曲がり、あらぬ方向へと飛んでいった。


『周囲の空間に干渉してるのか』

『光学迷彩マントを吸収しているからねえ。ま、干渉力を最大にしていればこういう芸当もできるってことさ、そして、これはフィールドホロ発生装置の応用だ』


 そう口にしたミケの身体に生えているアイテール結晶から緑色の何かがいくつも飛び出してきた。それは猫の形をとった無数の緑光の物体だ。


『ミケさんがいっぱいですの?』

『エネルギータイプの猫型ドローンだよ』


 驚くリンダにミケがそう返し、その間にも数十の猫がザルゴに向かって駆けていく。見ようによっては微笑ましくもある光景だが、ザルゴにしてみればそれは死の行軍だ。


『アイテール製? まさか、これは不味いか!?』


 危険を感じたザルゴがドラグーン三本をそれぞれ散弾モードにして撃ち始めると、撃たれた緑光ミケが着弾と同時に次々に爆発していく。


『自爆兵器とは悪趣味だな』

『そうかな。ま、確かにそれは爆弾の役割も兼ねてる。当たればただじゃあすまないよ。ほら、もっと行くよ。全部防げるかな?』


 ミケがそう言いながら爆弾猫を次々と生み出し、ザルゴがドラグーンを撃ち続けて爆発させていく。しかし爆煙が広がり、また高濃度のアイテールが周囲にばら撒かれることでザルゴの各種センサーの反応も鈍くなっていく。


『これは目くらましか!?』


 その事実に気付いたザルゴがブースターで一気に跳び下がると、同時に全周囲から煙に隠れて近付いていた爆弾猫が飛びかかってザルゴが1秒前にいた場所に着弾して大爆発が起きた。


『離れたか。勘がいいね』


 ミケがそう呟きながら前足で頭を洗った。今の攻撃でもザルゴにはダメージを与えられていない。その事実にミケがさらにストレスを増していく一方で、ザルゴもただやられてばかりというわけではなかった。


『喰らえっ』


 彼の反撃はすでに開始していたのだ。爆発の煙を壁に、左右から迂回してのファングの有線パンチがミケへと飛んでいく。けれども拳が届く前にミケの姿はその場から消えていた。


『何っ!?』

『あれは……光学迷彩マントの能力ですわね』


 ミケが姿を消したところを見ていたリンダがそう口にする。

 それは先ほどのような超高速で移動したわけではなく、ただ搔き消えるように見えなくなっていたのだ。同時にその場の認識がそらされる違和感をリンダは感じており、それが光学迷彩マントの能力の一種である認識阻害を誘発する特殊な波長の音波が発生したためだということも察していた。


『ロデム。周囲計測の測定レベルを上げろ。遺失技術ロストテックを使われている』

『確認しました。真後ろです』

『やはりか!』


 次の瞬間にザルゴのファングとドラグーンが一本ずつ地面を支え、四本のマシンアームがクロスして振り下ろされたミケの不可視の猫パンチを受け止めた。


『あら、やっぱり駄目か』

『まったく、やってくれるな』


 そう話している間にも地面にヒビが入ってザルゴの足元に小規模なクレーターが生まれたが、衝撃はすべてマシンアームが吸収しているためにザルゴの身体にダメージはない。また接触によりミケの透明化が消えてその姿があらわになった。


『次から次へと手品を見せるなバケモノ』

『まあそこまで手札があるわけでもないんだけどね。で、これはどうかな?』


 そう返したミケの周囲の空間が振動してヴヴヴヴヴという音が響いた。

 そして、その現象をザルゴは知っていた。


『分解か。ロデム、アイテールをナノミスト拡散しろ』


 ザルゴの言葉にハイアイテールジェムが光って緑色の霧を噴き出し、その場を包んでいく。


『分解が……働かない?』

『くたばれ』


 ミケが疑問を口にし、その間にブースターを逆噴射させてその場を退いたザルゴのドラグーンがアイテールライトのレーザーを緑の霧へと撃ち、直後に大爆発が起きた。


『これなら流石に……いや駄目か?』


 ザルゴが眉をひそめながら緑の爆発を観察する。

 炎の中にある影は未だ変わらぬ足取りで動いており、ソレはすぐさま炎の中から飛び出てきた。


『アイテールのナノミストを散布し、その場の濃度を上げることで分解を防いだわけか。で、距離を取ってすぐにアイテールライトを放ってナノミストを誘爆させた……と。スペックでは上回っているはずなのに常に一歩先に行かれているのはやはり僕が戦闘用ではないからかな? ストレスは解消されるどころか増すばかりだ』


 そう嘯くミケに対してザルゴが苦い顔をする。


『効かぬのか、このバケモノめ』

『いいや、そんなことはないよ。ちゃんと通用はしている。ただ、僕の身体はそれ以上に今、修復と進化を繰り返しているからそう見えるだけで……まあ、だからもうすぐ効かなくはなってしまうだろうけどね』


 そう口にした通りに爆炎の中から出てきたミケの身体は進化して一回り大きくなっており、より凶悪な形状へと変わっていた。それどころか全身が蠕動し今も変質し続けていた。

 修復と進化。それこそが機械種の特徴であるという事実をザルゴは知らぬが、AIとして機能しているロデムが探査を続けているためにミケの変化自体は理解できている。


『今の戦闘で蓄積された情報から最適な姿に変わりつつある。君に手が届かない苛立ちが進化の方向を定めてくれているんだ。大きくなっているのは、エネルギーの問題を考えなければ巨大化がもっとも手っ取り早く強くなれる手段ではあるからだろうね。こうなってしまうのは仕方がないよ』

『つくづくバケモノか』


 ザルゴの呟きにミケがにゃあと鳴いて笑う。その瞳は吊り上がり、身体はより攻撃的に、禍々しく変異している。その声にも先ほどまであった落ち着きは薄れ、どこか昂揚しているようでもあった。


『化け物? ははは、確かに……今の僕は抑えが利かなくなっている怪物だろう。このまま続ければ僕はさらに巨大化し強力な力を得ていく。ストレスの原因である君をいたぶり尽くすまではね。それで君はどうするザルゴ?』


 その言葉にザルゴが眉間にしわを寄せてミケを睨みつける。

 敵は紛れもなく強くなっており、これ以上に強力になるというのも間違いではないだろうと察していた。だが、それ以上にザルゴは目の前にあるソレを危険と感じていた。己の内にある何か、本能とでもいうべきものが目の前の存在の脅威を訴えていた。そこにあるのは人の世にあってはならぬものだと。

 ウィンドという標的も未だ存在している状況だが、目の前の敵に対して中途半端な攻撃は無意味。だとすれば……


『であれば、チリも残さぬように破壊してくれよう!』


 意を決したザルゴが左の三本のドラグーンのファイターバスターモードを発動させ、目を細めて見ているミケに三つの巨大なアイテールライトの砲弾を放った。

【解説】

機械種ミケ:

 現在のミケは渚が装備していた武装を取り込んでその能力を増幅して使用することが可能となっていた。またミケの意志を受けてその機械の肉体は進化をし続け、最終的にはグリーンドラゴンに近い存在にまで変質する可能性を秘めている。

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