第175話 渚さんと突撃するビークル
『クッ』
大量の銃弾がザルゴへと飛び、それをザルゴはとっさにアイテールライトのカーテンで弾いていくが、何発かはその合間を縫ってザルゴへと直撃した。その様子をミケが見て眉をひそめる。
『ふぅむ。薄地の防護服に見えてあれもアストロクロウズだね。それも軍事用だ』
『どういうことだよ?』
『銃弾が貫通しない』
『効かないってことか?』
『いや、ダメージがないわけじゃない。それに、あそこを見て』
ザルゴの左の肩口。そこには先ほどのすれ違いにミケが斬りつけた跡があった。
『メテオファングで傷つけたところか』
『そうさ。メテオライオスの牙であるメテオファングならば通用するってことだね。もしくはあの場所に集弾させれば』
『やれるってことか。ミケ、補助腕の制御を頼む。こいつをあの人に近づけるわけにゃあいかない』
『何と話しているか知らんが、あの人? ウィンドのことか。安心しろ。アレは殺さんよ』
『そういうことじゃあねえんだよ』
渚が攻撃の手を緩めずにそう叫んだ。
『あんたの狙いはなんだ? 宇宙船だよなぁ』
補助腕に装着されたメテオファングやライフル銃などを受け、それらをしのぎながらザルゴが『ああ、そうだが?』と返す。
『それってアレだよな。瘴気のタイムリミットを知って、シェルターを探してるってことだよな?』
それはミケランジェロ経由で得たドクの情報から渚も知っていた。タイムリミットが迫っていると知っているからこそ、ザルゴはドクのカスカベの町の襲撃を許可した。彼自身もまた、ドクの求める情報を渇望していたのだ。
『ふん、お前も知ってるようだな。ドクから聞いたのか? いや、あれがお前にそんな話をする理由は……そもそもお前は何者だナギサ?』
『あたしだってよくは知らねえよ』
渚の返しにザルゴが目を細める。言葉通りに受け取ったのか、話す気がないと解釈したのか『まあ、いい』と言葉を返した。
『そういうことだ。時間は有限。俺たちは黒雨に負けない家を探している。十年後か、五年後か、一年後か。あるいは来週か、それとも明日か。終わりの時を待ちながら、ただ死に怯えながら暮らす日々を断ち切るためにここにいるわけだ』
ザルゴがそう答え、その言葉に嘘はないと渚は感じた。
『アンダーシティを襲うなんて自殺行為はできんし、かといって廃棄地下都市は崩壊していて黒雨を防げる保証もない。生き残るのであれば、整備されていて運用も容易なここがもっとも確率的に高い』
ザルゴが渚を睨みつけながら言う。渚たちは瘴気が終わる期限を十年後だと知っているが、ザルゴは違う。いつ終わるかも分からぬ世界の真実に気付き、だからこそ模索した結果がこの襲撃だったのだ。
『そのためにあんたはきっと街の人間を……』
『殺すさ。当然だろう。席は限られている。ならば奪うしかあるまい』
その言葉に渚が目を見開き、マシンアームにメテオファング付きの補助腕を重ねてブースターで加速しながらザルゴへと突撃した。
『つまりあんたを通せば、あんたはみんなを殺すってわけだよな』
『ぬぅぅうう!?』
渚の突撃をザルゴは三重のバスターモードで押さえるが、両者が膠着した直後に渚の補助腕が一斉に銃撃を開始してザルゴを襲う。弾丸自体は弾けても内部への衝撃を全て殺しきれぬためにザルゴが呻く。
『グッ、やるな。しかし、殺すと言うならばあの女も同じはずだ。救えるものだけを救い、他は切り捨てる。そうでなければ、この世界では生きられない。そこに違いなどない』
『だろうな』
『否定はしないか』
突撃の勢いが殺されたことで渚が飛び下がりながら、ハンドグレネードを落として、それが作動するよりも前にライフル銃で撃ってザルゴが対処する前に爆破させる。だが、ザルゴは三重の緑光の拳を振るうことで爆発の衝撃を封じた。
タンクバスターモードではないが、ハイアイテールジェムによって強化された出力がそれを可能としていた。
『そうしなきゃあ誰も救えねえってことだろ』
『そうだ。であれば』
『善悪論で語る気はねえんだよ。あんたの言葉が間違ってるともあたしは言わねえ』
『渚、来たよ』
『何っ!?』
ミケの言葉とともに、クレーターに開いた穴から勢い良く何かが飛び出してきた。それは渚たちの武装ビークルだ。ビークルがベアーアームのブースターで勢いよくザルゴに向かって直進していく。
『一体どこから!?』
『あんたが開けてくれた穴からだぜ。開いてんなら使わなきゃ損だろ!』
黒雨の影響下とはいえ、ミケは展望台でもエレベーターの移動空間を通じてビークルを無線で操作できていた。同様に今度は黒雨の影響下の薄い穴を通じてビークルを操作し呼び寄せていたのである。そしてビークルがスタンポールを振るってザルゴを攻撃しようとするが、
『そんなものが通用すると思うなよ!』
ザルゴは緑光の三重の拳を振るい、正面から迫るビークルを弾き飛ばす。しかし、ザルゴの顔にわずかな戸惑いの色が浮かんだ。
『なんだ、今の感触は? あれは電磁流体装甲か』
ゴロゴロと転がりながら離れていくビークルを見て、ザルゴが眉をひそめた。
バスターモードのファングでもビークルを正面から破壊することぐらいは可能であるはずだったが、まるでツルリとした感じで弾かれた感触があった。
『あーあ、せっかくビークルの活躍の場だったのになぁ』
『しょうがないよ。あれは僕たちの家だよ。壊されなかっただけありがたいと思わなきゃ』
雷雨の中でほとんどかき消えてはいるがわずかな駆動音がその場に響き渡り、ザルゴがその音の方へと目を向けるとそこには一輪バイクに乗った渚がいた。バイクはビークルとともに自動操縦でここまで到達し、ビークルを囮にして渚へと合流していたのである。
『ナギサ』
『ま、別にあんたが間違ってるとは言わないさ。野盗って連中の事情も理解はしているつもりだ。けど……』
そしてバイクに乗せていた厳ついアイテールチェーンソーを構えながら、渚がアクセルを踏んで動き出した。
『あたしはあの人の方がいいんだ。どちらかを切り捨てるなら、あんたを捨てるさザルゴ!』
【解説】
渚フルバースト・アクセラレータ:
渚の八本の補助腕それぞれにメテオファングとライフル銃を装備させ、自身の両腕も武装して一輪バイクに乗っている状態を指している。なお、ミケが命名した。