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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第4章 地の底より
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第154話 渚さんと再戦の予感

「なるほどな。ミケは俺よりも現実が見えているようだ」


 ライアンがそう言って皮肉そうに笑って渚を見た。


「ナギサ、これが広まったら止められないぞ。アンダーシティの閉鎖後にはコシガヤシーキャピタルに人が集まるだろう。ただあっちにもそこまでのキャパがあるわけじゃあない。自滅していくのは目に見えている。ハァ……いや、ホントなんで俺そんな話に巻き込まれてんだ?」


 話している途中でライアンの顔が辛そうなものに変わっていく。

 確かに話せと最初に言ったのはライアンだが、気が付けば想像以上の厄介ごとを抱えることとなっていたのだから仕方のないことではある。そして、その様子にミケがヒゲを揺らしながら『おや?』と口にした。


『ライアン。君はこのまま何も知らないまま日々を送り、何もかもが手遅れになった後、わけも分からないまま黒雨に侵されて腐って死にたかったのかな?』

「んなわけねえだろ。だけど、重過ぎるぜ。あと、ナギサ。お前に同居している猫はさかし過ぎる」

「まあ、あたしの保護者みたいなもんだからなぁ」


 渚の返しにライアンが深いため息をついた。大して物事も知らない、いいとこで生きていた風な少女がなぜここまで生き続けてこられたのか、その理由がようやく理解できたのだ。


「たださ局長。瘴気の消滅については野盗バンディットも知ってるんだぜ。タイムリミットまでは把握してないにしろ、あたしらが口をつぐめば広まらないって話じゃねえだろ?」

「ああ、それが厄介だな」


 ライアンがそう言って思案顔になる。そこにミケが口を挟む。


『とはいえ、知っているのは団長のザルゴとその下あたりまでだろうね。あのモランのような相手には話していないんじゃないかな。少なくともあのザルゴという男はそういう配慮はできる思慮深い相手のように感じたよ』

「んー、そうか?」


 渚の印象としてザルゴという男は非情、そして阿修羅という感じであった。複数のドラグーンとファングを持つだけでも脅威ではあるのだが、その上にハイアイテールジェムという限りなく膨大なエネルギー源を持っている点を考えてもその戦闘能力は計り知れない。

 ただ、人間性に関して理解できるほど渚はザルゴを知らない。


「強そうってのは分かるんだけどな。あの腕で一斉に攻撃を仕掛けられたら手に負えないだろうし」

「ザルゴか。ほんとにどうなってんだろうなぁ。以前はドラグーン二本だけだったんだがな」


 そのライアンの言葉に渚が眉をひそめた。その話は渚も初耳であったのだ。


「え、そうなのか?」

「ああ。お前の持つハンズオブグローリーシリーズを集めているって話は掴んでいたんだな。ドラグーンを二本持っていて、ファイターバスターモードを使うと取り替えて二発目を撃つんだ」

「ああ、そういう使い方もできるのか」


 渚が感心した顔で頷いた。タンクバスターモードを使用後はインターバルを待つしかないと思っていた渚としてはコロンブスの卵的な発想であった。もっともライアンにしてみれば敵勢力の戦力の増強は頭の痛い話である。


「感心してんなよナギサ。六本腕だぞ。ますます手に負えなくなってやがるとはなぁ……クソッタレな話さ」


 その言葉を聞いてミケが『ドクかなぁ』と口にした。


『彼女の技術力があれば、そうしたことが可能かもしれない。何かしらの遺失技術ロストテックを使って能力を拡張しているのかもしれないけど』

「そうだとすればドクも厄介なことするなぁ」


 そう言って渚が眉をひそめる。

 チップが増えたことで、今の渚ならばタンクバスターモードは短時間であれば二回使用できるようになっている。けれどもザルゴの方もタンクバスターモードであれば同様に二回、ファイターバスターモードに至っては三回使える計算だ。

 まともにやり合っては勝ち目はない。


「いや……まあ、近接戦でなら行けるかもしれないか」


 渚はそう呟きながら考える。ドラグーンがある以上、距離を離して戦っては勝負にならない。だが近距離ならば勝ち目がないとは思っていなかった。そして、それにはミケも同意の頷きを返す。


『そうだね。彼の腕からは補助腕サブアームがオミットされていた。六本の腕に集中するためだろうが処理能力が足りていないんだろう。それに彼が君と同様に戦闘技術のインストールができているとは思えない」


 渚がファングから戦闘技術をインストールできたのは、チップという受け入れ口があったためだ。条件は必ずしも渚に分が悪いだけではない。


「そこを突ければ僕らにも分がある』

「おいおい、お前らなぁ。またあのザルゴとやり合おうってのか?」


 呆れた顔でライアンがそう口にすると渚が肩をすくめた。


「再戦の機会はあるからな。だったら考えておかねえと」


 その言葉にライアンが首を傾げたが、問いかけられる前にミケが話を続けていく。


『ま、彼の戦闘能力はともかくとしてだ。彼らが野盗バンディットである以上、自らを潤すために必要な相手を干上がらせる意味はない。それをあの六本腕の男ザルゴは理解しているんだろう。何しろあのドクを従わせていたという点だけ見てもただのチンピラのカシラではないだろうからね』

「だが、捨て置けねえのは確かだ。そもそもアンダーシティの乗っ取りを一番やりかねないのはアイツらだぞ。というかまだやってねえってのがそもそも信じられねえ」

『そうだね。ただ、彼らの最初の標的はアンダーシティじゃないんだ』

「なんだと?」


 そのミケの言葉にライアンが目を見開いた。この上にまだ何かあるのかという顔をするライアンにミケが頷く。


『本来の彼らの目的はコシガヤシーキャピタルなんだよライアン。ドクの情報によれば、本来の彼らの目的はソレで、ここの襲撃はドクが主導したオマケに過ぎない』

「は、オマケ? 今回のこの規模でか」

「そうらしいぜ。あのドクから聞いた話だ」


 正確に言えば、それは同期したミケランジェロから得た情報だ。そこからミケはオオタキ旅団の今後の計画をすでに知っていて、ソレは渚にも共有されていた。

 カスカベの町を一時的に占拠することはできても攻めてきたオオタキ旅団の人数では長期的に支配し続けることも、クキシティやコシガヤシーキャピタルの戦力に対抗もできないことも現時点で実際に取り返されていることから明らかである。

 そもそもドクたちは目的を果たした段階で占拠していたこの町を放棄して逃げるつもりだったのだ。


『彼らは最大の戦力でもってコシガヤシーキャピタルを、正確には首都内にある宇宙船アースシップを乗っ取ろうとしている。あれなら黒雨をしのげるからね。で、今もその準備が進められているところなんだ』


 その言葉にライアンが先ほどの渚の言葉を思い出した。


「つまり再戦っていうのは……」


 その問いに渚は拳を握り締めて頷いた。


「ああ、この情報がある以上、主導権はこっちにある。コシガヤシーキャピタルで迎え討って次こそは勝ってみせるさ!」


【解説】

ザルゴ:

 ザルゴが団長として君臨してからすでに十年以上、オオタキ旅団はこの埼玉圏内で猛威を振るっている。

 もっともザルゴ当人が表に出ることは滅多になく、左腕のマシンアーム『ドラグーン』に関しても戦闘では大概の相手であれば皆殺しにしているという経緯もあってその存在はほとんど知られてはいない。


※第4章長くなり過ぎたので『第4章 地の底より』に改題し、次回以降を『第5章 首都攻防』開始とします。

※1月3日の渚さんの更新はお休みします。次回更新は1月5日 0:00となります。

 また1月1日 8:00より『がっちゃ!』という新作を開始いたしますので、そちらも読んでいただけると幸いです。

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