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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第4章 地の底より
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第148話 渚さんと逆襲のモラン

『ミィケェ、なんで教えてくれなかったんだよ?』

『暗号解析に手間取ってたんだ。とはいえ、あちらもすぐさま行動に移れたわけじゃあないだろう。だから、まだ間に合うんじゃないのかな』


 渚の言葉にミケがそう返す。すでに勝敗はおおよそ決している状況とはいえ、散々町を荒らされた上にこのまま逃げられては……というのが狩猟者ハンターの大部分の認識であり、彼らはすぐさま追撃を選択した。それについてはリンダも同様の考えであり、また渚も特に反対はしなかった。そしてノックス指揮の元、町の入り口にいるライアンたちへ通信で連絡だけ行い、渚たちは東地区へと移動し続けている。


『そんでリンダ。治療用ナノマシンをとりあえず投与はしたけど、身体の方は大丈夫か?』

『ええ、問題はありませんわ。ありがとうございますナギサ。元々が打撲程度のものでしたし、アストロクロウズの補助機能もありますから動くのに支障はありません。それよりもモランだけは絶対に逃がしませんわ』

『気負いすぎないようにしてくださいねリンダ』


 再びブレードマンティスのボディに入ったクロの言葉にリンダが頷く。先ほどのように単独で仕掛けても返り討ちにあっては意味がない。無謀に挑んで死んでしまえば、相手を喜ばせるだけなのだ。それは決してリンダの望むものではない。


『それとミケ、団長が来るって言ってたけど。確かザルゴとかいうやつだよな?』

『そうだね。君の右腕を狙っている男だ』

『そいつが壁を壊すってことか? 確かドラグーンとかいうのを持ってるとか言ってたよな』


 渚の問いにミケが頷く。


『そうだね。話の通りであればザルゴはドラグーンを持っている。であれば君が使うタンクバスターモードと対をなすファイターバスターというモードが使えるはずだ』

『ファイター?』


 渚は戦士のことを思い浮かべたが、ミケは『戦闘機だよ』と口にした。


『アイテールライトでできた弾丸を打ち込むんだけど、生成された弾丸自体に使い捨ての簡易AIが備わっていて、独自の判断で戦闘機を撃ち落とす精度の誘導性能を持っているんだ。威力こそタンクバスターモードに劣るけど、非常に厄介なものだと言えるだろうね』


 その言葉に渚が顔をしかめる。


『待って。止まって渚』


 それから渚が何か言葉を返そうとする前にミケの注意が飛び、そして視界にピックアップされて表示された隠れている野盗バンディットの姿を確認した渚がすぐさま『みんな奇襲だ』と声をあげながら、リンダの手を掴んで近くの建物の陰へと飛び込んだ。


『チッ、野盗バンディットか!?』

『隠れろぉぉお』


 直後に銃弾の雨が降り注ぎ、逃げ遅れた狩猟者ハンターが悲鳴をあげて倒れていったが、大部分は渚の言葉に従って直撃を免れていた。


『クッソ。まぁた、テメエか』


 そして、その場で荒げた男の声が響き渡った。

 建物の陰からその先を覗き込んだ渚の目に、さきほど拘束した男の姿が映った。


『あいつ、モランか』

『ああ、そうだよクソガキ。テメェラらが追って来てるって言うから歓迎の準備をしてたってのにさ。そいつをいただいてくれねえってのはどういう了見だ。最近のガキは常識ねえのか!?』


 そう口にしたモランの周囲には野盗バンディットたちがワラワラと並んでいる。室内の時とは違い、モラン自身のボディも渚が以前見た時よりも一回り大きいものだ。どうやら完全な戦闘用のものらしかった。

 その様子を見ながら渚が言葉を返す。


『ハッ、馬鹿みたいなこと言ってんなよモラン。それよりもいいのかよ、こんなところにいてさ。頼みの団長様がお助けに来てくれるんだろ。さっさと行かないと叱られるんじゃないのか?』

『テメェ、どうしてそれを知ってやがる?』


 渚の言葉にモランの顔色が変わった。

 自分たちが町の壁沿いに逃げ始めたことは見ていれば分かるだろうが、その理由に渚が気付いているということは情報が漏れているということを示している。


『まさかドクが裏切ったか?』

『いいや、残念だけどドクなら死んだよ。よく分かんねえけど地下でなんかして失敗してな。それよりもあんた、あまり人望ないのかもなぁ。周りにいる連中のこと、もうちょっと見た方がいいんじゃないか?』

『黙れ。いっちょ前に挑発してんじゃねえぞ』


 周囲の野盗バンディットたちが首を横に振って自分は伝えてないという顔をしたが、モランは特にそちらを見ることも動揺した顔も見せなかった。渚の言葉はあからさまに不審を誘導するものだったし、モランもそれに乗せられるほどの馬鹿でもない。

 もっとも渚にしても、それはモランの動揺を期待しての挑発ではなかった。


(これであいつら、ドクが死んだって信じたかな?)

『まあ、そういう可能性は提示できたんじゃないかな? 別に義理立てる必要もないし問題はないよ』


 ミケの言葉に渚が苦笑する。渚の挑発は、自分が死んだと野盗バンディットに伝えて欲しいというドクからの依頼によるものだった。とはいえ、渚の言葉は間違いともいえない。ドクの肉体はすでに死んでおり、その後に魂が別のところに憑いたのだ。また、今後についてもドク自身が行動を起こさぬ限りはどの陣営からも死んだという結論以外は出てこないはずだった。


(まあ、瘴気のこととか何か分かったら教えてくれるとも言ってたしなぁ。サービスしとけばいいこともあんじゃないかな)


 渚は心の声でミケにそう返すと、となりにいるリンダに声をかけた。


『で、どうするリンダ?』

『ナギサ……どうするとは?』


 眉をひそめるリンダに渚が話を続けていく。


『あたしはさ。正直、分かんねえんだよ。復讐とか仇とかってな』


 そう言って渚が自嘲気味に笑う。


『ま、昔の記憶なんて姉ちゃんのものしかねえし、こっちで出会った人で目の前で殺されたって人もいないしな。人としての経験がない上に妙に割り切りやすくもなってるらしいし』

『ナギサ……』

『自覚もしてるんだけどな。多分あたしって人間は薄っぺらい。出す言葉もどこまで重みがあるのかも分かんねえ』

『そんなことはないですわよ』

『ならいいんだけどな。けど、お前が仇をとるっていう……その想いを大事にしてるってのは分かる。それが人としての正しくはないものだとしてもだ』


 そして渚がリンダを見て、こう告げた。


『あたしたちはコンビだ。コンビを組んだ以上は一蓮托生、リンダが望むならあたしはお前の道を切り開くよ』

【解説】

モランボディ:

 現在のモランのボディは室内では使えぬ兵装で構成された純戦闘用のもの。脳モジュールの交換によるスピーディな戦況対応もマシンナーズソルジャーの利点である。

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