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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第014話 渚さんと鼠の洪水

 少女の母親に渚は加勢だと答えたが、状況は切迫していた。

 警戒していたネズミ型機械獣はすでに駆け出し、渚も即座にネズミ型機械獣たちへとライフル銃を向ける。


『センスブースト!』


 そして、その掛け声と共に渚の世界は再び減速していく。

 その世界で変わらぬのは義手とミケのみだ。ネズミ型機械獣の動きも今の渚にはスローモーションに見えている。もっとも先ほどはそれでも外したのだ。


(おいミケ。狙いの方、今度は大丈夫か?)

『プログラムを修正して、表示形式も変更した。移動予測を表示するから渚はそれを狙って欲しい』


 ミケの言葉と共に弾道予測線と同じような形で動いているネズミ型機械獣の移動予測が残像のような形で表示されていく。


(なんだ、こりゃ?)

『機械獣の動きを計算した未来予測だ。君の判断も合わせることで狙いの精度を上げる』

(つまり残像の方を狙えばいいんだな。了解。相変わらず便利だなミケ)

『ナビだからね、僕は』


 ミケの言葉に笑った渚が残像へと銃口を向け、次々とトリガーを引いていく。それは通常時間においては間髪入れずの速射にしか見えぬものだが、実際には渚が一体一体を慎重に狙いを定めて撃ったものだ。


(おっし、楽勝!)


 かわそうとする動きすらも予測して、放たれた弾丸は迫るネズミ型機械獣五体すべてに命中し、コアごと機械の身体を貫いた。


(このまま一気に)

『いや、一度センスブーストを解くよ』

『へ?』


 渚が続けて巨大ネズミ型機械獣を相手取ろうとするが、そうなる前にミケがセンスブーストを解いた。


『おい。どういうことだよミケ?』

『渚、負荷メーターを表示する。さっき崖下で使ったときに限界に近い倍率で使用したからもうギリギリだ』


 ミケの言葉と共に、視界にセンスブーストの負荷率メーターが表示された。


『ゲッ、本当にもうギリじゃねえか』


 メーターを見た渚が思わず声を上げた。

 黄から赤からに変わるエリア直前にまでメーターは伸びていて、何かしらの限界が近付いているのが渚にも理解できたのだ。


『使うにしても少し時間をおかないと、これ以上の連続使用は戦闘が継続できなくなる恐れがある』

『けど、一番の大物が残ってるんだぞ?』


 巨大ネズミ型機械獣は渚を警戒しているのか未だ動いていないが、すでに渚に狙いを定めた動きをしてもいる。それに、その機械獣は熊にも匹敵する大きさであった。


『落ち着いて渚。センスブーストがなくとも戦える。それだけの能力と武器を君は持っている。例えば銃口の下に付いているモノは、こういうときのためにあるんだろ?』

『下? グレネードランチャーの……そうか。捕縛弾か!』

『PGYYYYYYYY!!』


 渚がミケの意図を察したのと同時に、巨大ネズミ型機械獣が渚に向かって突進し始めた。だがミケは慌てず渚にアドバイスを続けていく。


『弾道予測線も相手の移動予測も、今の状態でも君は使えるんだ。渚、センスブーストのときと同じように狙いを定め、足元を狙って動きを止めて』

『あいよっ!』


 そう返した渚がライフル銃に付いたアドオン型グレネードランチャーのトリガーを握って狙いを定め、巨大ネズミ型機械獣の足へと捕縛弾を放った。


『よし。当たった……けど、駄目か?』


 着弾させた後に渚が疑問の言葉を呟く。

 捕縛弾は蜘蛛の巣のように広がって右足に付着したものの、巨大ネズミ型機械獣を止めるには至っていない。だがミケは『駄目じゃないよ』と返した。


『可動部分に巻き込んで動きが鈍ってる。もう一発当てれば動きも止められるはず』

『もう一発か。分かったぜ』


 ミケの言葉に従って、渚は腰のホルダーに挿してある予備の捕縛弾を抜くとすぐさまグレネードランチャーへと装填して構え直し。


『ここならどうよ?』


 それから今度は左足へと狙いを定めて渚がトリガーを引いた。


『上手い。内股側なら右と絡まって動きを止められる』


 ミケがそう口にした通り、二発目の捕縛弾は左足内側へと着弾した。それは一発目の捕縛弾の糸と絡み、両足の動きを止めていく。


『これで後は仕留めるだけか』

『そうだね。いや、待って渚!?』

『待ちなアンタ。そいつは分裂するんだよ!』


 渚が少しばかり気を緩めた途端にミケが、さらには後ろにいる女性が警告を発した。


『は? って、なんだよこれ!?』


 次の瞬間に巨大ネズミ型機械獣の姿が崩れた。

 そして、分解した巨大ネズミ型機械獣のパーツはそれぞれネズミ型機械獣に変形していき、渚に対して飛びかかっていく。


『こいつ合体してやがったのか!?』

『こりゃダメだね。渚、センスブーストを再度使おう!』


 もはや、負荷を考慮する状況ではなかった。

 とっさのミケの判断により渚の世界は再び減速していく。

 メーターはまだ回復していないが、だからといってここで使用しない選択はない。


(サンキューミケ。けど近過ぎる。ライフル銃じゃあ厳しいか)

『なら拳銃を使うんだ渚』


 ミケの指摘を受けた渚はすぐさま持っていたライフル銃を手離すと、腰に差していた二丁の拳銃を取り出して構えた。


(時間が厳しいか。ミケ、義手の操作は任せる)

『共同作業かい。分かったよ』


 渚の意図を察したミケが義手の操作権を己に変更し、渚も自身の生身の左腕で拳銃の操作に集中する。


(近え。けどな。あたしとミケのコンビなら)


 渚が視線鋭くトリガーに指をかける。義手とは違い生身の腕の動きはこの減速した世界では鈍く重いが、それでもネズミ型機械獣が到達するより銃口を向ける方が早い。


(1、2、3)


 そして上半身が分裂して飛び出した個体を渚が一体、その間にミケが二体、それぞれ仕留める。


(4、5)


 さらに右腕と左腕が変形したネズミ型機械獣をふたりが同時に倒すと、捕縛弾に捕まっていた足のネズミ型機械獣が粘ついた装甲をパージして襲いかかってくる。その数四体。


(チッ、間に合わねえか。いや)


 距離はもはや限りなくゼロに近いが渚は恐れない。それどころか拳銃も捨てて一歩前へと進む。


(ミケ、爪を使え!)

『渚、義手は返すよ!』


 そしてミケが補助腕サブアームを操作して獅子の牙で二体を貫き、渚の方も義手の手刀で一体を貫いて破壊し、最後の一体がさらに飛びかかってくる。


(ラストは無理か)

『なら弾く!』


 攻撃は間に合わない。であればと、最後に飛びかかったネズミ型機械獣をミケが残りの補助腕サブアームを操作してその場から弾き飛ばした。


(うぉ、これは!?)


 その直後である。渚の視界が赤く染まり始め、頭の中が焼けるように熱くなっていく。


『不味い。渚、もう限界だ!』


 ミケがそう警告する。それが負荷の限界点であった。ズキンと頭に何かに叩きつけられるような衝撃が走り、渚がグラリと体を仰け反らせ、次の行動が出遅れた……と考えた次の瞬間である。


(あ!?)


 一発の銃弾が弾かれて宙を舞うネズミ型機械獣に命中したのを渚は目撃した。

 そしてソレが地面に落ちるのを見ながら、渚はようやくセンスブーストを解除して、その場で尻餅をついた。


『……た、助かったか。つぅ』


 気が付けば表示されたメーターはレッドゾーンに入り込んでいる。渚は今起きている頭痛の正体が負荷の反動によるものだと理解して、涙目になりつつもゆっくり息を吐いた。


『これが負荷かよ。基地のときよりもよっぽど……にしてもさ。最後は助けられたみたいだな』


 渚が顔を歪めながらも後ろを向いて、先ほどの銃弾を放った相手を見た。最後にネズミ型機械獣を撃ったのは渚とミケではなく、であれば、それは当然この場にいた少女の母親が撃ったものであったのだ。

 もっとも渚の言葉に相手の方は首を横に振って『助けたっていうのかね』と苦笑していた。


『加勢どころかほとんどあんたが持っていっちゃったからねえ。最後に私も意地を通させてもらっただけだよ』


 それから気の強そうな声をしたその女性は周囲を見回してから肩をすくめて笑う。


『まったく、恐ろしく強いドクロメットのお嬢さんだね。私はリミナ。アゲオ村のリミナだ。助けられたことには感謝するよ』


 そう言ってリミナが手を出し、渚もそれを握って握手をした。


『私の名前は渚ってんだ。無事で良かったぜリミナさん』


 そう言って渚も笑う。どちらも防護服に包まれていて直接触れ合うことはなかったが、それでもようやく会えた人の手であった。渚にとって、それはとても温かいように感じられていた。

【解説】

防護服:

 渚が遭遇した親子は、渚同様に防護服にヘルメットを被っていた。それは背のエアクリーナーとチューブで繋がっていて、大体の造りは渚の着ているものと同じようである。もっともドクロの形状に似た渚のメットとは違い、親子のメットは透明なバイザーによって覆われていて、顔が見える構造をしていた。

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[良い点] 上尾村になっとるwww
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