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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第4章 地の底より
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第134話 渚さんとお猿さん

『あっぶねえ……』


 渚が安堵の息を漏らしながらそう口にした。

 その横ではミランがあっけにとられた顔をしている。何しろ自分たちがいた場所が今や炎に包まれているのだ。一歩間違えればあの炎の中で自分が死んでいたかもしれないのだからミランが衝撃を受けているのも当然ではあった。

 そして今、渚たちがいるのは隠し部屋の外にある通路だ。渚がミランを抱えてすぐさま部屋から脱出していたためにふたりは爆発からまぬがれていた。


「い、今のは自爆モードよね。どういうこと? けどナギサ、あなたには助けられたわ」

『いやぁ、それはいいんだけどさ。なんで自爆装置なんて付いてるんだよ?』


 渚の当然の疑問にミランは「機密保持のためね」と返した。


「あの部屋にあった端末はそれ自体に特殊な権限がセットされてあったのよ。だから万が一のために外部からここを自爆させる機能が付いていたの。ただ緊急閉鎖ボタンが自爆ボタンにすり替えられていただなんて……どうしてそんなことが。ネットワークとは物理的に遮断されているはずなのに」


 ミランが驚きの顔でそう口にしたが、ミケが渚に『いやね』と話しかけた。


『別にあのボタンと自爆装置が連動していたわけじゃあないんだけどね。あのボタンを出すためのコマンドがキーになってたんだ。だからボタンを押さずとも爆発はしていたはずだし、ギリギリ遅延させられたからなんとかなったんだけど……結構危なかったよ』


 その言葉の通り、ミケがマシンアームからコードを伸ばしてとっさに端末を操作して自爆シークエンスを遅延させた時間で渚たちは脱出できていたのである。


『まあ、助かったからいいじゃんかミランさん。で、これってあのドクってのにやられたってことなのか?』

「ええ、恐らくそうでしょうね。どうやったのかは検討もつかないけど……この端末を事前に把握していて、先んじて仕掛けていたのでしょう」


 苦々しいという顔でミランがそう口にすると、ミケが再度『渚』と声をかけてきた。普段であれば第三者のいる場ではあまり話しかけてこないミケの言葉に渚が訝しげな顔をしながら尋ね返す。


(なんだよミケ? 何かあったのか?)

『うん、実はね。さっき端末と繋がったとき、同類の気配を感じたんだ』

(は?)


 渚にはミケの言っている言葉の意味が分からなかった。同類とは何を指すのか。だが、渚がその答えを予測するよりも早くミケが口を開いた。


『僕と同じタイプのAIがいるということさ渚。恐らく僕とは違う、完全な状態のAIだと思う』

(えーと、そりゃどういうことだ? いや、そもそもなんでこんな場所にいるんだよ?)

『何故かは分からないけど予想はつくかな。この施設にハッキングをかけられるほどの相手なら僕と同じナビゲーションAIと一緒にいてもおかしくは無い』

(ああ、つまりはドクと一緒にいるってことか?)


 渚の問いにミケが頷く。


『そういうこと。接触できれば色々と情報が得られるかもしれない。ただ、接触するには敵の中心に行かないといけないし当然危険は伴う』


 その言葉に渚が眉をひそめた。どうやらミケは同じAIと会いたいらしく、一方でミランの方も渚に対して何か言いたげな顔を向けていた。

 その表情からしてミランはまだ地下を閉鎖することを諦めていないのだろうと理解した渚は、であれば……とミランにひとつの提案をしたのであった。




  **********




『くそったれが。爆発を起こしただと。あの女、モグラを確保しろって言ったのはあいつだろうが』


 爆発が起き、渚たちが次の行動を起こしたのと同じ頃、オオタキ旅団のモランは部下達と共に通路を駆けていた。

 何しろクキアンダーシティの管理官はD地区ではなくC地区にいて、それもすでに爆殺されたかもしれないとの報告が部下から上がってきたのだ。故に彼らは急ぎ爆発の起きた場所へと確認に向かっていたのである。


『いい加減、付き合うのも疲れてきますぜ。あの女、何考えてるんすかね?』

『知るか。ドクはえらく気分屋だからな。それに扉が開くんならモグラ女に価値はねえ。必ずしも欲しいってわけじゃあねえから扱いも雑なんじゃねえのか』


 モランがそう吐き捨てるように言葉を返した。


『にしてもいくら団長に贔屓にされてるからって、好き勝手し過ぎじゃねえですか。今回の件だって、あの女のワガママでやることになったって話じゃあないですか』


 モランの部下の言う通り、今回のカスカベの町の襲撃はドクが希望し、オオタキ旅団の団長であるザルゴが許可を出して開始されていた。

 襲撃のプランはドクによるものではあるものの、この街に忍ばせていたメンバーを根こそぎ今作戦に投入せざるを得なかったことは今後の旅団にとってはかなりの痛手となるはずで、それがドクという数ヶ月前に突然現れた余所者の指示で行われているのだから、彼らの心情からすれば当然面白いはずがなかった。


『それに関しては仕方がねえとしか言いようはないな。残念だが、あのクソ女は本当のクソだが、俺らとはものが違うクソだ。頭の中がクソな代わりに神様はあいつに上等な贈り物を渡してやがる。そいつはお前たちも分かってんだろ』


 その言葉に部下たちが言葉を止めて唸った。

 モランに言われるまでもなく、彼らは結果的にドクに助けられた者たちだ。突如として起きた機械獣たちの大移動『シャッフル』。それをドクは事前に察知することでオオタキ旅団の被害を最小限に留めていたし、彼女のもたらした技術は旅団の力を向上させてもいた。


『それよりも……む、止まれ』


 次の瞬間、何かに気付いたモランが足を止めて窓へと視線を向けると同時に外から窓ガラスを割って小柄な何者かが飛び込んでくるのが見えた。


『敵か!?』


 モランが声をあげて銃を構え、また彼の部下達も一斉に戦闘を開始する。その場で銃声が響き渡り、マズルフラッシュの光がその場を覆う。しかしましらの如き何者かは彼らの放つ銃弾の雨をかいくぐり、そして……


『おいおい。両手足切断かよ。猟奇的な野郎だな』


 銃声が消えた頃にはモランの肩と、部下のひとりが地面に転がっていた。それを見てモランが眉間にしわを寄せながら口を開いた。

 倒れている部下の両腕と両足は切断され、またモランの肩や他の部下たちもいくつか切り裂かれていた。何が起きたのかといえば、その何者かはモランたちの間を抜けながらアイテールブレードを振るって攻撃を仕掛けてきたのだ。


『猟奇的って……あんたら腕も足も機械だろ。それよりも本命のあんたには避けられちゃったし。せっかくの奇襲だってのに上手くいかないもんだな。まったく』


 通路の角からそんな声がモランの耳に届いた。

 その先に銃撃をかいくぐりながら彼の部下を倒して一旦逃げた怪物がいるはずなのだ。もっとも響いてきた声は彼の想像のものとは違い、少女のソレであった。


『その声、女か。しかもガキ。クソッタレ。どいつもこいつも』


 思わずモランの口からそんな罵声が吐き出される。

 その相手がモグラではないのは一目瞭然で、狩猟者ハンターか否かは分からないが敵であるには違いなかった。それもとびきり凶悪な相手だろうと理解して、モランは『ついてねえな』と呟きながら己の銃を通路の角へと向けた。

【解説】

機械化:

 機械人オートマータが機械化できるのは手足や目のみならず頭部や臓器、さらには電子脳といったものまで存在している。もっとも現状の埼玉圏では整備環境の問題もあり、特に臓器類の機械化は生存率が低下する傾向にある。

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