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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第4章 地の底より
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第129話 渚さんと奪われた町

『助かったぜ。狩猟者ハンターの嬢ちゃんがた』


 渚とリンダが倒した野盗バンディットたちをロープで拘束していると商人のビークルが戻ってきて中からデップリした男が降りてきた。その人物に渚は覚えがなかったが、渚の横にいたリンダは『ユギルさん』と口にした。どうやら知り合いのようである。


『おっと、その声にでっかい胸はお嬢か。お前さんに助けられるとは運がいい』

『知り合いかリンダ?』


 ユギルと呼ばれた男の方もリンダを知っているようで、渚がリンダに視線を向ける。


『以前にルークと一緒にキャラバンの護衛を何度かしたことがありますのよ』


 なるほどと渚が頷く。

 狩猟者ハンターの仕事をしていればそういう機会も多くある。


『はっは、あんときのお嬢はサブマシンガン握りしめて頼りねえ感じだったがな。変われば変わるもんだ』

『お世辞はいいですわよユギルさん。それよりもこんな場所でオオタキ旅団に襲われるだなんて。護衛はどうしましたの? まさか付けずに来たわけではないですわよね?』


 その問いに『まさか』と言って、ユギルが拘束されている野盗バンディットたちを睨みつけた。


『こいつらにやられたんだよ。糞盗賊どもが忌々しい』

『…………』


 リンダも苦い顔をして、野盗バンディットへと視線を向ける。

 それに気圧された野盗バンディットたちが拘束された状態で後ずさったが、ユギルもリンダもその場で私刑リンチにかけようということはしなかった。それからクロが武装ビークルの中に閉じ篭っていた野盗バンディットを引きずり降ろして近付いてきた。


『リンダ、機獣使いを見つけました』

『なんなんだこいつ? 喋る機械獣だと?』


 機獣使いと言われた男は、言葉を介するクロの姿を見て驚きの顔を見せていた。


『なんだよ。機獣使いのくせにクロに驚くのか?』

『あちらの機獣使いはどうやら私とは違う方法で操作しているようですね』


 クロの言葉に渚が首を傾げる。


『どういうことだよ。AIで制御しているんじゃないのか?』

『いえ、どうやら機械獣に直接ハッキングをかけて同じ仲間として認識するように設定をいじっているようですね。アイテールを供給することで餌付けもしているようです』


 渚が『そういうこともできるんだな』と感心した顔をしてからユギルを見た。


『それでおっさんたちは、カスカベの町からクキシティに向かう途中で襲われたのか? 野盗バンディットがここらへんまで出てくるのは確か珍しいって聞いてるんだけど』


 埼玉圏の西域はコシガヤシーキャピタルがあるために、基本的には東よりも野盗バンディットが少ない傾向にある。特にオオタキ旅団傘下の集団が発見された場合には、なおさら取り締まりが厳しくなっている。


『いや、俺たちはクキシティからカスカベの町へ向かって、町の手前で引き返したんだ。だが、気付かれて追われてな。殿しんがりをしてくれた狩猟者ハンターはやられてこのザマさ』

『どういうことだよ?』


 渚とリンダが眉をひそめると、ユギルは大きく息を吐きながらこう口にした。


『現在、カスカベの町はオオタキ旅団が占拠してる。あいつら、町を襲いやがったんだ』





  **********




『畜生。オオタキ旅団め』


 狩猟者ハンターのノックスが苛立ちを露わにしながら、ショットガンの弾丸を装填しつつ壁の陰に隠れている。

 クキシティ在住の彼は現在カスカベの町内のカスカベアンダーテンプル警護の任務に当たっていた。一般的には知られていないが、アイテール採掘ができるこのカスカベの町は絶えず外部からの略奪に備えている。そして、それはアンダーシティ主導のものであり、コシガヤシーキャピタルが関与していないため騎士団ではなく狩猟者ハンターによって町は護られていた。もっともそれは今朝までは……となるのだが。


『町の方はどうだ?』

『中央通りに見張りが付いて住人を釘付けにしてやがる』

『何が目的だ? 占拠しようにもクキシティとコシガヤシーキャピタルの間だぞ。応援が駆けつければすぐに奪還されて終わりだろうに』


 銃声響く中、狩猟者ハンターたちの声が錯綜する。

 日が昇る直前の頃に突如として攻めてきたオオタキ旅団によりカスカベの町は占拠され、現在ノックスたちがいるカスカベアンダーテンプルの入り口の要塞にまで攻め込まれていた。そこまで容易に町を奪われた理由は、町の中に旅団メンバーが多く潜伏していたということと狩猟者ハンターの中にも旅団に寝返った者がそれなりにいたためであった。

 故に攻められたノックスたちはひたすらに後手に回り、結果として昼を越えて夕刻に入ろうとしている頃には要塞の半分を奪われ、今も防戦一方となっていた。


『ノックス、ヤツらカスカベアンダーテンプル内に入っていくぞ』


 その言葉にノックスが眉間にしわを寄せる。彼らの任務はカスカベの町の警護ではない。町の中にあるカスカベアンダーテンプルを護ることにある。だが今の段階で彼らはどうすることもできない。自分たちを守るだけで精一杯だ。そして、ノックスがこれからどうするべきかと思案した直後であった。


『うぉぉおっ!?』


 その場の壁が突如として粉砕された。

 それはウォールバスターと呼ばれる面の衝撃で壁を破壊する兵器によるものだ。無論ノックスたちもその存在は知っていたが、壁隣にまで野盗バンディットが近付いてきていることに気付いていなかった。いや、そもそも破壊された壁の先に部屋があることも彼らは知らされていなかったのだ。


『いたぞ。狩猟者ハンターだ、殺せ!』

『畜生、最悪だ!』


 なだれ込む野盗バンディットの勢いにノックスたちはなすすべもない。

 戦場においてもっとも恐ろしいのは想定外の事態に陥ったときであり、そして相手がそれを仕掛けてきたときだ。完全なる不意打ちに誰もの初動が遅れ、対して野盗バンディットたちは完全にノックスたちを捉えていた。

 この時点でもはや戦いの勝敗は決した。次の瞬間には鉛の弾がシャワーのように降り注ぎ、ノックスたちはまるで豆腐のように細切れになる運命が確定した……はずだった。


『なんだ?』


 突然の振動のあと、天井から巨大な緑光のチョップが突き破って両者を隔てた。


『なんだ?』

『構うな。撃ち続けろ』

『うわぁあああ』


 対して野盗バンディットたちは構わず銃を撃ち続けたが弾丸がそのチョップを超えることはできなかった。さらにチョップは野盗バンディットたちへと真横に流れ、彼らを弾き飛ばして壁へと叩きつけたのである。


『あ、助かったのか……俺たち』

『あのチョップは一体?』


 気が付けば、戦いは終わっていた。狩猟者ハンターは生き残り、野盗バンディットは倒れている。それから困惑している狩猟者ハンターたちの前へとチンマイドクロメットの人物が飛び降りてきた。


『え、お前……』


 その人物を見たノックスが目を見開く。ノックスは知っていたのだ。彼はその人物に命を拾われた。そんな相手をノックスが忘れるわけはなかった。

 

『まさかナギサか!?』


 そして、ノックスの問いにそのチンマイ少女は手を挙げてVサインを返したのであった。

【解説】

チョップシールド:

 タンクバスターモードで巨大化させたチョップを盾に使用したもの。

 派生技としてハリテタイフーンがある。

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