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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第4章 地の底より
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第128話 渚さんと対人無双

『正面の五台は商人たちのビークルだな。後ろにいるのはなんだ?』


 渚のいる場所からでも見えるようになったソレは、鉄板などを重ねて武装したビークルと、奇妙な形をした機械獣たち、それに周囲を走る三台の一輪バイクであった。


『照合完了しました。オオタキ旅団のマークがビークルに描かれています』


 クロから届いた報告に渚が眉をひそめた。


『オオタキ旅団? あいつらが機械獣と組んで動いてるってのはどういうことだよ?』

『機獣使いがいるんですわね。あ、何か光って』


 リンダの言葉と同時に渚の感覚が変化する。


『渚、グレネードが来るよ』

(ミケか。サンキュー)


 危機を察知したミケがセンスブーストを発動させたのだ。そして渚がライフル銃を構えて弾道予測線に沿って撃ち続け、撃ち抜かれた三発のグレネード弾がすべて空中で爆発した。


『鋭い金属片が撒き散らされてる。あれは対人用の炸裂弾だね渚。君とリンダのスーツはアストロクロウズだから貫通はしないだろうけどね』


 ミケがそう口にした。

 現在の渚たちは軍事基地で手に入れたアストロクロウズをすでに着用済みであり、デブリ対策の防御機構も仕込まれているその新しいスーツにはそうした攻撃に対する耐性も高かった。


『だからって当たる気はねえよ。それにしても警告なしで撃ちやがったな』

『うちのビークルも見た目が凶悪だし、狩猟者ハンターか同業のどちらかにしか見えないものね。ついでに君のヘルメットも』

『カッコいいじゃん。ミランダ、バイク下ろしてくれ』


 その言葉にミランダが『承知しました』と返すと、ベアアームを操作して渚の前に一輪バイクを投げ飛ばした。そしてジャイロ機能によりバイクは自然な形でその場に直立し、渚が飛び乗って走り始める。


『サンキューミランダ。あとビークルは射線外に退かせてくれ。センサーヘッドの感知ギリギリだと……あの岩場の影に待機でいい。頼んだぜ』


 渚の指示にミランダがすぐさまビークルを後退させていく。それから渚は正面から近づいてくる五台のビークルへと視線を向けた。


『で、正面の五台は味方で良いんだなミケ。前みたいに狙いがあたしらってことはないよな?』

『そうだった場合、旅団への密告者はライアンということになるだろうね』


 今日発つということを渚はライアンにしか告げていない。調査局か狩猟者ハンターの中にオオタキ旅団へ情報を流している者がいる可能性も考え、渚たちは情報の漏えいを警戒して伝達は最小限に留めていたのである。


『まあ、あの男が旅団に通じているとは思えないけど、警戒は怠らないでくれよ』

『あいよ。リンダは機械獣を任せた。クロはあたしが連中を止めたら、背後からよろしく頼むぜ』

『はいナギサ。承知いたしました』

『む、わたくしは……いえ、分かりましたわ。ナギサも気を付けて』


 直接旅団を叩きたかったのだろうが、リンダは自重し渚の指示に従った。

 それから渚はセンサーヘッドで増幅した通信機を使ってオープンチャンネルで警告を発する。


『そこのビークル。野盗バンディットに追われてるんならこのまま突っ切れ。銃口を向けたら警告なしで撃つからな。気を付けろよ』

『お、おう。女? いや、あんたら狩猟者ハンターか。野盗バンディットじゃないよな? 頼む。助けてくれ』


 接近するビークルからの声に渚が『大丈夫だ』とだけ返すと、五台のビークルを横切って背後のオオタキ旅団へと突撃していく。それから接近してくる機械獣を見て渚は眉をひそめた。


『スケイルドッグ? けどタテガミみたいなシールドが付いてるな?』

『シールドは自分たちで熔接したんじゃないか。対人用に改造したんだろうね』

『ナギサ、先行きますわよ』


 そして、風のように駆けていくリンダが渚に迫った機械獣へと攻撃を仕掛けていく。

 アストロクロウズによるパワーアシスト機能で上半身の力を増幅させているリンダは以前よりもさらに機敏な動作を行えるようになっていた。

 両足から伸びた二本のアイテールブレードで鋼鉄のシールドごとスケイルドッグの頭部を切断し、舞うようにリンダは次の機械獣へと向かっていく。それを『おお』と声をあげて感心した渚にミケが『渚、正面だ』と忠告を発した。野盗バンディットが一斉に銃口を渚に向けてきたのだ。


『ま、避ける必要もねえな。ミケ、補助腕サブアームでライオットシールドを前に』


 その指示にミケが補助腕サブアームを操作してバイクの左右に設置されていたライオットシールドを掴む。そのままシールドを八の字の形で前へと出した渚は銃弾を弾きながら突撃する。


『渚、また炸裂弾だ』


 さらに武装ビークルからグレネードランチャーを持った男が出てくるのを確認したミケの警告に反応した渚がすぐさまライフル銃を撃ち、銃弾が直撃したグレネードランチャーが爆発して、その衝撃で武装ビークルが倒れて、岩へと激突した。


『やったか?』


 カラカラと空を回転する車輪を見る限り、行動不能に追い込めたようである。

 それから三台の一輪バイクが渚に向かって近づいてくるが、渚は特に気圧されることなくバイクに積んである回転式弾倉型グレネードランチャーを取り出して捕縛弾を連続で撃ち続けていった。

 バイクは転倒し、野盗バンディットたちは捕縛弾に絡め取られて戦闘不能となっていくが、ひとりだけ渚の動きを避けた相手がいた。


『てめえぇ』


 その男は激昂し、咆哮をあげながらバイクから飛び降りて渚へと駆けていく。


『渚、あれは厄介かもしれない』

『弾道予測線を避けられた? なんだ、あいつ!?』

『サイバネストだ。センサー系と後は腕がマシン化してる』


 ミケの指摘に渚の表情が引き締まる。対人で、ましてや相手がサイバネストとなると機械獣とは勝手が違う。場合によっては凶悪な隠し武器を持つかもしれない。渚は腕と瞳を見て、目を細めた。


『こいつ、女か? ガキが調子に乗りやがってよぉ! 死んどけや、オラ!!』


 そして厳つい男の左腕のマシンアームの肘から炎を出ると一気に加速していく。


『本体付きのロケットパンチ?』

『君もやってたじゃないか。けど、まあ……注意力は低いみたいだね』


 直後に男の左腕が切り裂かれ、男が驚愕の表情でソレを見た。

 そこにいたのは中型の機械獣だった。それは光学迷彩で身を包んでいたブレードマンティスであり、動かしているのはクロだ。


『このまま出番ないかと思いましたよ』


 そして渚がマシンアームの男も捕縛弾で拘束し、スケイルドッグもリンダがすべて破壊したところで戦いは終わりを迎えたのであった。

【解説】

ブレードマンティスの光学迷彩:

 ブレードマンティスの光学迷彩は渚の所有する光学迷彩マントとは違い、正しく光学的に迷彩するだけの機能となっている。そのため臭いや音などにより探知されてしまう危険もあるのだが、瘴気に包まれた埼玉圏において視覚的に確認ができなくなるということはそれだけでも十分に有用な能力である。

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